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薬酒
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春陽が定吉の体を拭くと言い出して、定吉は、呆れの入り混じった声を出した。
「はぁ?なんでお前がするんだ?使用人がいるだろう?」
「おなごはダメだ、その…お前だからとか言うんじゃ無くて、普通の男女なら、その…何と言うか…拭く間に何かあってはいけないから…」
春陽は、定吉から目を逸らせ、バツが悪そうにブツブツ呟いた。
確かに、定吉の身の回りの世話をしていたのは女性が多かったが、春陽のその言葉に、定吉は溜め息が出た。
「誰が、女じゃなきゃ嫌だと言った?男の使用人がいるだろう?」
「とっ、兎に角、男でいいなら私がやる!」
「ちょ…おい!」
定吉は、有無を言わさず掛け布団を剥がれ、仰向けで寝たまま寝間着の小袖の前をはだけさせられ、褌が露出する。
春陽とは対極の、筋肉の付いた浅黒い漢らしい身体があらわになる。
春陽は全然平気な様だったが、春陽の中にいる優の方が照れてアセアセとする。
それ位定吉の肉体美は、優から見ても完璧で目の遣り場に本当に困る。
そして春陽は、お湯に手拭いを浸し絞り熱くないか確認して、まず定吉の額に丁寧に置いた。
「どうだ?」
じんわりと温かさが沁みわたり、定吉は大きく息をつき言った。
「ああ…いい…」
春陽の持つ手拭いがゆっくり定吉の顔全体を優しく拭く。
まるで、赤子に対しての手つきの様に。
「どうだ?…」
「ああ…いい…いい…気持ちいい…」
やがて、首に降りていく。
「もっと、強く擦らなくてもいいか?」
春陽が、囁くように尋ねた。
「いや…いい…それがいい…」
手拭いが再び湯に戻し絞られ、今度はケガをしていない肩の方に置かれた。
「どうだこれは?」
「ああ…いい…いい…気持ち…い
い…」
定吉は、時にうっとり呟いたが…
何も見えていない状況でこれを第三者が聞いたら、何か変な誤解をしそうな声色だった。
そこに突然、部屋の入口の襖が物凄い勢いで開いた。
ハッとして春陽と定吉がそちらを見ると、朝霧と春頼が仁王立ちで目を眇めて二人を見ていた。
「ん?どうした?貴継、春頼」
キョトンとして春陽が幼馴染みと弟を見上げると…
二人は厳しい表情でズカズカ入って来て、朝霧が立ったまま座っていた春陽の腕を強く掴んだ。
「どっ、どうした?貴継!」
「ハル…これは、お前がやる事じゃ無い…」
朝霧の声も、険しく棘々しかった。
「えっ、でも、みんな祭りの準備で忙しいから…」
「ハル…こういう事はちゃんと使用人に任せるんだ…」
そう言った朝霧の春陽に向けた視線は否を言わせなかったが、春陽を心配している優しさがあるのも充分分かった。
更に、ふと横を見ると、春頼も同じように兄を見ている。
そして、朝霧、春頼は、次に定吉を又目を眇め見た。
定吉の方は、それに対して全く平然としてはいたが…
なんだか、春陽を挟み妙な雰囲気になり…
「あっ…分かった…誰かに頼む…」
これ以上余り幼馴染と弟に心配をかけられず、仕方無く定吉の寝間着を整え、春陽はそう言いおずおずと立ち上がった。
しかし、頼まれ物もあったので、さっき一緒に持って来た、盆に載せた壺と盃を定吉の前に出し言った。
「この近くの永蓮寺の御住職がさっき来ていて、以前お前に寺で会ったとかで、見舞いに傷の治りにいいらしい薬酒を渡して欲しいと頼まれた。この三河の地で採れた薬草を漬けた酒らしい。それに…もし、ケガが良くなり行く所がないなら、寺に来て住まないかと言ってくれと言われた」
「えっ?!…ああ…あの和尚が?」
定吉は、たった一度、それもほんの少ししか言葉を交わさなかったはずなのにと疑問に思った。
春陽は、じっと定吉を見た。
定吉は、ほんの少し春陽の顔を無言で見詰めて何か考えたようだったが…
そのまま春陽の目を見て、キッパリと返した。
「悪いが俺は、誰かの仕事を一時受け負いはするが、長期に誰かの下で働いたり仕えるのは一生涯まっぴらごめんだ。それが、例え…お偉い誰だろうがな…」
以外な答えに、優はかなりショックを受ける。
てっきりこれから定吉は、春陽と一緒に行動してくれるはずだと思い込んでいたから。
だが、春陽は、クスっと笑って言った。
「分かった。そう伝えておく。でもお前なら、きっとそんな感じの事を言うんじゃないかと思ってたよ…」
定吉は、一瞬ハッとして横たわったまま春陽を見たが…
春陽は、ゆっくり朝霧達と座敷を出て障子を半分締めた。
そして、顔半分だけ定吉に見えた状態で微笑み、去り際の言葉も忘れなかった。
「薬酒だからと言って、あまり飲み過ぎるなよ…」
「はぁ?なんでお前がするんだ?使用人がいるだろう?」
「おなごはダメだ、その…お前だからとか言うんじゃ無くて、普通の男女なら、その…何と言うか…拭く間に何かあってはいけないから…」
春陽は、定吉から目を逸らせ、バツが悪そうにブツブツ呟いた。
確かに、定吉の身の回りの世話をしていたのは女性が多かったが、春陽のその言葉に、定吉は溜め息が出た。
「誰が、女じゃなきゃ嫌だと言った?男の使用人がいるだろう?」
「とっ、兎に角、男でいいなら私がやる!」
「ちょ…おい!」
定吉は、有無を言わさず掛け布団を剥がれ、仰向けで寝たまま寝間着の小袖の前をはだけさせられ、褌が露出する。
春陽とは対極の、筋肉の付いた浅黒い漢らしい身体があらわになる。
春陽は全然平気な様だったが、春陽の中にいる優の方が照れてアセアセとする。
それ位定吉の肉体美は、優から見ても完璧で目の遣り場に本当に困る。
そして春陽は、お湯に手拭いを浸し絞り熱くないか確認して、まず定吉の額に丁寧に置いた。
「どうだ?」
じんわりと温かさが沁みわたり、定吉は大きく息をつき言った。
「ああ…いい…」
春陽の持つ手拭いがゆっくり定吉の顔全体を優しく拭く。
まるで、赤子に対しての手つきの様に。
「どうだ?…」
「ああ…いい…いい…気持ちいい…」
やがて、首に降りていく。
「もっと、強く擦らなくてもいいか?」
春陽が、囁くように尋ねた。
「いや…いい…それがいい…」
手拭いが再び湯に戻し絞られ、今度はケガをしていない肩の方に置かれた。
「どうだこれは?」
「ああ…いい…いい…気持ち…い
い…」
定吉は、時にうっとり呟いたが…
何も見えていない状況でこれを第三者が聞いたら、何か変な誤解をしそうな声色だった。
そこに突然、部屋の入口の襖が物凄い勢いで開いた。
ハッとして春陽と定吉がそちらを見ると、朝霧と春頼が仁王立ちで目を眇めて二人を見ていた。
「ん?どうした?貴継、春頼」
キョトンとして春陽が幼馴染みと弟を見上げると…
二人は厳しい表情でズカズカ入って来て、朝霧が立ったまま座っていた春陽の腕を強く掴んだ。
「どっ、どうした?貴継!」
「ハル…これは、お前がやる事じゃ無い…」
朝霧の声も、険しく棘々しかった。
「えっ、でも、みんな祭りの準備で忙しいから…」
「ハル…こういう事はちゃんと使用人に任せるんだ…」
そう言った朝霧の春陽に向けた視線は否を言わせなかったが、春陽を心配している優しさがあるのも充分分かった。
更に、ふと横を見ると、春頼も同じように兄を見ている。
そして、朝霧、春頼は、次に定吉を又目を眇め見た。
定吉の方は、それに対して全く平然としてはいたが…
なんだか、春陽を挟み妙な雰囲気になり…
「あっ…分かった…誰かに頼む…」
これ以上余り幼馴染と弟に心配をかけられず、仕方無く定吉の寝間着を整え、春陽はそう言いおずおずと立ち上がった。
しかし、頼まれ物もあったので、さっき一緒に持って来た、盆に載せた壺と盃を定吉の前に出し言った。
「この近くの永蓮寺の御住職がさっき来ていて、以前お前に寺で会ったとかで、見舞いに傷の治りにいいらしい薬酒を渡して欲しいと頼まれた。この三河の地で採れた薬草を漬けた酒らしい。それに…もし、ケガが良くなり行く所がないなら、寺に来て住まないかと言ってくれと言われた」
「えっ?!…ああ…あの和尚が?」
定吉は、たった一度、それもほんの少ししか言葉を交わさなかったはずなのにと疑問に思った。
春陽は、じっと定吉を見た。
定吉は、ほんの少し春陽の顔を無言で見詰めて何か考えたようだったが…
そのまま春陽の目を見て、キッパリと返した。
「悪いが俺は、誰かの仕事を一時受け負いはするが、長期に誰かの下で働いたり仕えるのは一生涯まっぴらごめんだ。それが、例え…お偉い誰だろうがな…」
以外な答えに、優はかなりショックを受ける。
てっきりこれから定吉は、春陽と一緒に行動してくれるはずだと思い込んでいたから。
だが、春陽は、クスっと笑って言った。
「分かった。そう伝えておく。でもお前なら、きっとそんな感じの事を言うんじゃないかと思ってたよ…」
定吉は、一瞬ハッとして横たわったまま春陽を見たが…
春陽は、ゆっくり朝霧達と座敷を出て障子を半分締めた。
そして、顔半分だけ定吉に見えた状態で微笑み、去り際の言葉も忘れなかった。
「薬酒だからと言って、あまり飲み過ぎるなよ…」
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