殉剣の焔

みゃー

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交点

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その頃優は、藍がいるとは知らない屋敷の中をひたすら歩く。

だが、本当に、テーマパークの精巧なお化け屋敷にいる気分だ。

額と背中に尋常でない油汗がしたたり流れ、着流しの小袖は濡れ、緊張感はマックスになっていた。

それでも朝霧が何処かにいるのではないか?と心配で、一つ一つ部屋の襖をそっと開けて中を見る。

しかし、どれだけ開けても中は誰もいない。

いないのに、この屋敷には、得体の知れない気味の悪い気配が幾つもする。

そして更に、たまにどこからか野獣の低い呻き声の様なものや、女性の悲しくすすり泣くような声も聞こえてくる。

ただ…どんなに行っても行っても、同じような部屋が、悪夢のようにひたすら延々と続く。

それに、もしかしたら、同じ所に又戻っている気さえする。

(朝霧さん!朝霧さん!朝霧さん!)

それでも優はそう呼びながら、同じ行動を何度も繰り返す。

その頃…

藍は、母の椿の懇願に…

「はい…母上…私には母上しかおりません。私は、母上に天下と永遠の命を差し上げますようお力になります…そして、必ず必ず、母上に害なす者を如何なる者であれ血祭りに上げ、母上を御守りいたします…」

藍は、まるで催眠にかかった者のするような、しかし、澄んだ純粋な瞳で、まだ腿辺りに抱き着きながらまっすぐ母を見上げた。

「ああ!藍!母は安堵した。安堵したら水ではいやせぬ方の…淫魔の血が騒ぎ出した!喉が、喉が乾いてきてならぬ……先程の二人の美しい男子(おのこ)の精を精をわらわにおくれ!」

およそ、母が自らの子に言うような事では無いことを椿は、闇の狂気の浮かぶ瞳で呟いた。

藍の顔を上から見下ろしながら。

藍は頷くと、すくっと立ち上がり
歩き出し、隣とその又隣の広い部屋の襖を次々に開け続き部屋にした。

すると、一番奥の部屋には、すでに蝋の灯りが灯り、紅の大きさな褥が用意され…

その横にさっきの男二人が、全裸で正座しすでに待機していた。

「そう言われると思いまして…母上…どうぞ、御存分にその乾きをお癒やし下さいませ…」

藍は、椿の正面まで戻ると、さっと正座し頭を下げた。

「ホッホホホ!ホッホホホ!早
う!早う!二人して妾を抱いておくれ!」

椿は狂ったように笑い言いなが
ら、その場でさっと打ち掛けの下の小袖を止めていた帯を取った。

そして、

ハラリと、小袖と打ち掛けが、椿の白く美しい裸を滑り落ち脱ぎ捨てられると、全裸になり男達の元へ行く。

広大で静まり返った屋敷に、椿の母としてでは無い、女としての激しい奇声と矯声が響き出した。

藍は、再び頭を下げて立ち上がると、そっと廊下側の襖を閉めて部屋を後にした。

「藍様…藍様の今宵の閨の相手はいかがいたしますか?」

廊下に座し待機していた使用人
が、立っている藍を見上げ尋ねた。

「今宵は…いらぬ…今宵は、一人になりたい…一人にしてくれ…」

何故か静かにそう言い残し、藍は自分の寝所に一人で…

どこか寂し気に戻って行った。

廊下には、さっき優が見た物と同じ火玉が浮かび視界を照らす。

やがて角があり藍は何気に曲がるが、そこで、藍の胸に何かが当たった。

「わっ!!!」

その当たったモノが、大きな声を出した。

藍は自然と、その勝手にぶつかって来た者をガッチリ抱き止めた。

その藍の胸に飛び込んで来たのは、優だった。

「あっ…藍…」

優は驚きの余りに、自分より背の高い藍を見上げその瞳を見て、絶対に言ってはならないその名を呟いてしまった。

珍しく、藍が酷く動揺した表情を浮かべた。

藍の名を呼び捨てにして許されるのは、世界広しと言え母の椿だけだ。

それ以外は、許さない。

母以外は何があろうが即、血溜まりの中に浮かべてやるのが通常だ。

しかも、眼前に突然現れた少年の容姿が驚きだった。

今、自分が求めて求めて止まぬ、観月春陽に瓜二つだ。

優は、しまったと思ったのと同時に逃げなければと身をかわそうとする。

しかし…突然…

藍が、優の体を前から激しく抱き締めた。

(なっ…何?!)

何故藍が自分を抱き締めるのかが分からない優は頭が混乱して、藍の胸の中で硬直した。

そして、そのままの状態で藍が呟く。

あの藍とは思えない位、優しく溶けてしまいそうな声で。

「私の…願いが叶ったのかとも思ったが、観月春陽は私の事を知らないはず。お前は誰だ?…何故私の名を知っている?何故、そんなに観月春陽に似ている?そして…」

不意に、藍が優を左腕で抱いたまま、優のおとがいを人指し指でそっとすくって上向かせた。

そして…

藍の唇が、優のそれに重なりそうな位に近づく。

「何故…私と同じ、青い目をしている?」

その前世の藍の、半分熱い息の混じった呟きの美しい声に…

生まれ変わりの藍と初めて会った時と同じ、藍の肌の冷たさに…

優はブルリと、嫌な汗に濡れた背中を震わせた。



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