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花屋敷
しおりを挟む「都倉の連中が…脅しだと…思ったら…ほ…本当に…俺の村に、小沢村に火…を放って、…畑から…い、家まで…ぜ、全部焼き払った…もうこれ…以上、重税…に耐えられない…と直訴したら…」
その男の答えに、優は絶句した。
都倉…と言う名を聞いただけで身の毛がよだつのに、その残虐な行為を想像すると心臓に激しくくる。
「都倉には…人に混じって…人の干からびたような…化けもんもいた…甲冑の兜の…下の…面頬が…偶然…取れて
…俺は…俺は…みっ…見ちまったんだ
…」
男の声が震えている。
面頬が、兜の下、顔の目、鼻、口以外覆い着ける仮面のようなガードだと優には分からなかった。
だが、優を更に絶句させるには十分だった。
人の干からびたような…は、優が初めて藍に襲われた時に見たミイラを優に思い起こさせた。
(くそっ…都倉家は、すでに…魔物の…巣窟か?!…都倉家が…この戦国時代を…天下を統一したら、この世界は恐ろしい事に!…)
「は…やく…あんたも…に、げて…くれ…俺…の、かわいい娘達の様…に
奴らに…連れ去られ…ち…まう…」
「だ、大丈夫ですよ。今は、連中は居ません。貴方も、安全な所でケガ…治しましょう…今すぐ、出して上げますから…」
優は、血に塗れた黒く冷たく、震えている男の右手を両手で必死に握った。
しかし…
「み…ず…ありがとう…お、いしか…った…ほ、んとうに…あり…が…とぅ
……」
男はこんな状況なのに、満足そうに微笑むと、穏やかに瞼をゆっくり閉じた。
「あ、あ…あの!あの!あの!」
優が必死で男に呼び掛けると、立ったままの定吉が優の右肩にそっと手を置いた。
両膝を付き男の手を握ったままの優の、助けを求めるような瞳が右を向き、定吉を懸命に見上げる。
しかし無言で、重苦しい表情の定吉の首は横に振られる。
「そ…んな…でも!でも!でも!」
優は、必死の形相で定吉に訴えるが、更にゆっくり、定吉の首は二回…横に振られた。
そして…
優の呆然とした目が、ただ定吉の目を見続けるしか出来ない中…
定吉の優の肩に置いた手に、ゆっくりと…
慰めるようにギュッと力が込められた。
その頃…
大名、都倉家の本城に近い…
常人は、決して近づけない空間にある絢爛豪華な寝殿造りの屋敷…
一見…
庭には、色とりどりの花々が百花繚乱咲き乱れ…美しい蝶が舞い…
まるでここは…
常春の、天界の清き慈悲深き神の住まいかと思わせる。
しかし…
その中でも、気が狂いそうな程の甘美な匂いの香の立ち込めている…
光は一切入らない、ただ、蝋の光だけがユラユラと幽玄に揺れる…
血を思わせる、紅色に統一された淫靡で妖しい部屋。
そこに引かれた同じ紅色の褥の上に、銀髪の男がいた。
銀髪の男はつい先日、町で偶然初めて見た春陽を路地に迷い込ませ
、罠に嵌めようとした張本人だった。
褥の四方には、向こうが薄っすらと透け、そして、中が分かる紅色の帷も引かれていている。
「で…お前は、あれ程…しくじるなと命令した観月春陽の捕獲に失敗したと?」
銀髪の男が帷の外にひれ伏していた、あの、春陽を襲った大角の淫魔に、
男女誰もが背中が思わず震えそうな美声で、地を這うように低く冷たく言った。
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