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手向け花
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定吉は、土砂崩れに巻き込まれた男の脈や息を丁寧に診たが、男からは全てが失われた。
そして遺体はそのままにすると、定吉は言った。
元々、男の体は殆ど土砂や石や木に埋もれていたし、山の獣が、放っておいても勝手に片付けると…
しかし…
優が自分の手で石や木を黙々と退け始め、男の墓を作り始めた。
優も分かっていた。
ここで自分が作った所で、定吉の言う通り、やがて獣が墓を荒らすだろうと…
定吉の言う事の方が正しくて、こんな非常時に時間も体力も無駄だという事も…
しかし、優は、どうしても作らずにはいられなかった…
すると定吉も、やがて渋々と言った感じだったが、どう言う訳か何も言わず手伝い始めた。
(そう言えば…)
優は、川岸に咲いていた白ユリの花を思い出し、採って来て墓前に供えた。
そして、しゃがみ手を合わせ、藍の顔を思い出しながら、都倉家の蛮行を心底…心底詫た。
定吉は、それをただずっと黙って見ていたが、すっかり元気を失くし、墓前にぼんやり佇む優に呟いた。
「少し…休むか?」
少し移動して、二人は、川で手を洗い、川辺の岩に距離をとって座った。
優は全身脱力してしまい、ただ清らかに澄んだ川の優しい流れに視線をやるが、呆然として見てはいない。
その様子を定吉が、複雑そうな視線で見詰める。
勿論定吉は、今、優がなりすましている春陽が、さっきの男を死に導いた都倉家の縁戚であると知っていた。
そして、春陽のいる観月家が、その都倉家とどうも不仲で危うい立場だと言う噂も色んな所で聞いていたからだ。
優は虚ろになりながら、真っ先にまず朝霧の顔を思い浮かべ…
それから西宮、小寿郎、真矢、生まれ変わりの定吉、そして、まだ微妙な仲にも関わらず、観月を思い出し…とても会いたくなってい
た。
しかし、今すぐ近くにいる前世の定吉の中に、生まれ変わりの定吉がいるかもしれなかったが、前世の定吉を見る事を躊躇していた。
優が人の死を間近で見たのは、初めてに近いかも知れない。
東京の養父の父、つまり、優にとって血の繋がらない祖父の葬儀に出た事はあったが、それは小学生の時で記憶もあやふやだ。
優は、死というものが頭では理解しているが、感情的には理解出来ないでいた。
ついさっきまで動いていたはずが
…
死と言うものが、余りに不可解で理不尽で…恐怖で…
(都倉が…村に火…を放ったなん
て…)
昨日の春陽の村の代表者達の集まりでも、もし要求を飲まなければ
、皆殺しか村に火を放たれると意見が出ていた。
(あの、ただみんな、普通の平和な暮らしを求めてるだけの荒清村に?馬鹿な…都倉は、狂ってる…)
そして新ためて、春陽が、そしてその生まれ変わりの自分にも、その狂った都倉の血が関係していると自覚しなければならなくなっ
た。
(取り敢えず今は、早く、早く、村へ帰らないと…春陽さんと入れ替わってる事は、それから考えて何とかするしかない)
そう思った時、優の頬に何かが触れて優は驚く。
「大丈夫だ…ただ…顔を…拭くだけだ…」
岩に座る優のすぐ眼下…
平地にしゃがんで優を見上げる定吉がそう言って、自分の手ぬぐいで優の顔を、とても優しく拭き始めた。
優は、気にしている余裕も無かったが、いつの間にか、土と煤、そして、男の血で…顔から小袖から袴まで酷く塗れていた。
そして遺体はそのままにすると、定吉は言った。
元々、男の体は殆ど土砂や石や木に埋もれていたし、山の獣が、放っておいても勝手に片付けると…
しかし…
優が自分の手で石や木を黙々と退け始め、男の墓を作り始めた。
優も分かっていた。
ここで自分が作った所で、定吉の言う通り、やがて獣が墓を荒らすだろうと…
定吉の言う事の方が正しくて、こんな非常時に時間も体力も無駄だという事も…
しかし、優は、どうしても作らずにはいられなかった…
すると定吉も、やがて渋々と言った感じだったが、どう言う訳か何も言わず手伝い始めた。
(そう言えば…)
優は、川岸に咲いていた白ユリの花を思い出し、採って来て墓前に供えた。
そして、しゃがみ手を合わせ、藍の顔を思い出しながら、都倉家の蛮行を心底…心底詫た。
定吉は、それをただずっと黙って見ていたが、すっかり元気を失くし、墓前にぼんやり佇む優に呟いた。
「少し…休むか?」
少し移動して、二人は、川で手を洗い、川辺の岩に距離をとって座った。
優は全身脱力してしまい、ただ清らかに澄んだ川の優しい流れに視線をやるが、呆然として見てはいない。
その様子を定吉が、複雑そうな視線で見詰める。
勿論定吉は、今、優がなりすましている春陽が、さっきの男を死に導いた都倉家の縁戚であると知っていた。
そして、春陽のいる観月家が、その都倉家とどうも不仲で危うい立場だと言う噂も色んな所で聞いていたからだ。
優は虚ろになりながら、真っ先にまず朝霧の顔を思い浮かべ…
それから西宮、小寿郎、真矢、生まれ変わりの定吉、そして、まだ微妙な仲にも関わらず、観月を思い出し…とても会いたくなってい
た。
しかし、今すぐ近くにいる前世の定吉の中に、生まれ変わりの定吉がいるかもしれなかったが、前世の定吉を見る事を躊躇していた。
優が人の死を間近で見たのは、初めてに近いかも知れない。
東京の養父の父、つまり、優にとって血の繋がらない祖父の葬儀に出た事はあったが、それは小学生の時で記憶もあやふやだ。
優は、死というものが頭では理解しているが、感情的には理解出来ないでいた。
ついさっきまで動いていたはずが
…
死と言うものが、余りに不可解で理不尽で…恐怖で…
(都倉が…村に火…を放ったなん
て…)
昨日の春陽の村の代表者達の集まりでも、もし要求を飲まなければ
、皆殺しか村に火を放たれると意見が出ていた。
(あの、ただみんな、普通の平和な暮らしを求めてるだけの荒清村に?馬鹿な…都倉は、狂ってる…)
そして新ためて、春陽が、そしてその生まれ変わりの自分にも、その狂った都倉の血が関係していると自覚しなければならなくなっ
た。
(取り敢えず今は、早く、早く、村へ帰らないと…春陽さんと入れ替わってる事は、それから考えて何とかするしかない)
そう思った時、優の頬に何かが触れて優は驚く。
「大丈夫だ…ただ…顔を…拭くだけだ…」
岩に座る優のすぐ眼下…
平地にしゃがんで優を見上げる定吉がそう言って、自分の手ぬぐいで優の顔を、とても優しく拭き始めた。
優は、気にしている余裕も無かったが、いつの間にか、土と煤、そして、男の血で…顔から小袖から袴まで酷く塗れていた。
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