殉剣の焔

みゃー

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夢界

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その後の夜…


前世の朝霧と婚約者の事はもう考え無い様にしたが、それでも優は
、なかなか布団に入っても寝付けなかった。


そして、自分が今憑依している体の主の春陽が何を考えているかは全く分からなかったが、でも彼も同じ様に何度も何度も寝返りを繰り返していたのが気になった。


それでも睡眠不足と旅の疲れか、春陽と優は、いつしか浅いが眠りに入っていた。


春陽は優の前世と言っても、睡眠中見る夢はそれぞれ違っていた。


フワフワとした、この世ならざる夢界…


清冽でキラキラ輝く霧がかかり、暖風のそよぐ心地良いこの静かな世界。


天と地の両方は、合わせ鏡の如く青く澄み切った水面が、静かな流れを描く。


優は、下ろした髪を靡かせ、真矢に借りた浴衣のまま、普通に濡れず沈まず地上の方の水面を歩いている。


すると、フッと…大きな零れ桜の木が突然目の前に現れた。


咲き満ちた淡い色のあまたの花びら達が、ハラハラと花弁雪の様にただ静かに舞い落ちている。


‘‘もしかして、小寿郎の木?’’


何故だかかそんな気がして走って近寄り、その立派な幹に腕を回して呟いた。


「小寿郎…」


すると…


「正解だ!やっとお前の所に来てやったぞ!」


小寿郎の声がしてビックリして目を開けると、いつの間にか人の形の、猫耳と尻尾付きのその小寿郎を抱き締めていた。


遅れてグイっと力を込めて、小寿郎も優を抱き締めてくる。


「こ…小寿郎!…小寿郎!」


優が互いの体を離して嬉しさの余り、自分と背の変わらない少年の仮面の顔を見て声を上げると、その小寿郎が春陽の頬を思いっきり引っ張った。


「いたたっ!いたい!いだい、いだーい!小寿郎!」


「何が痛いだ!お前が起こした風は安全にお前を過去に連れて行くのは分かっていたが、一人でこの世界に乗り込もうなんて危険な事をしようとしておいて、コレ如きでギャーギャー喚くな!」


小寿郎が美しい声を荒らげると、フンっと吐き捨て手をやっと離した。


「ごめん!ごめん!小寿郎!でも
、でも、行かないとダメだったんだ、どうしても!」


「私も一緒に来てやりたかった!でも、あのお前の魔刀の起こした風は、人間どころか妖かしや精霊の類いも一瞬で切り裂く。朝霧が無事だったのは、奴が前世のお前の与えた魔刀を持っていたからだろうが無茶しよって、止めたのに
、下手をしてたら朝霧もバラバラになっていたぞ!」


「え!!!」


確かに優は、朝霧があの魔風の中
どうやって入って来たのか疑問だった。


だが、そこまでして付いて来てくれたのだと思う。


あの時、抱き締めてくれた朝霧の腕の強さと口付けの唇の感触も、もう今となっては夢ではなかったのかとも思いつつ体が熱くなる。


その反面、今更だが、一見クールに見える朝霧の無謀さにゾッとして唇が戦慄いた。



「私は、まだ死ねなかった。どんなに一緒に行きたくても…私が死んだら、お前と他の四人を連れて帰る事が出来る者が居なくなる…尋女達の居る荒清神社へ帰るには、異世界同士を繋ぐ道を通らなければならないが、それは、良く分かっている者の助けがないと迷ってしまい、永遠に彷徨い続ける時の亡者になってしまう!しかし、その前に、お前達を前世の体から出す事の出来る術師を探さなければならん…」


「えっ!じゃぁ、四人共、やっぱり朝霧さん達も俺と同じ様に前世の自分の中に入っているんだ!」


優が破顔すると、小寿郎は、溜息を付いた。


「朝霧と春頼には入ってるが、他はまだ分からない…観月と定吉の前世が今どこにいるのかさえ分からん…」


「俺、昨日の晩、前世の定吉さんに会ったんだ。少し…いや、かなり性格が違ってたけど…」


「今、定吉は何処にいる?」


今度は、優が大きく息を漏らした



「分からない…なんだか…嫌な別れ方をして、そのまま…でも、朝霧さんと春頼さんの中には居る事が分かっただけでも、本当に良かった…少し安心した」


‘‘本当に、本当に…西宮さん……朝霧さん…’’


優の唇が、現実だったかもうハッキリしない朝霧のそれの感触を又刹那思い出しながら久々の良いニュースにほっと一息ついたものの
、又その顔が曇り俯く。


「どうした?」


小寿郎が、心配そうに下から覗きこんだ。


「やっぱり、あの猫はお前だったんだな、小寿郎…なんとなくそう思って、お前だったらどんなに助かるかって一瞬思ったけど…俺は、式神にしないと言っておいて、結局お前に頼るなんて虫が良すぎるって思う…」


「そんな事言ってる場合か!このたわけめ!なら、今、ここで、私をお前の式にすると約束しろ!」


優の両肩を強く掴み、小寿郎がそう言い互いの顔を近づけた。


「小寿郎…」


小寿郎が、戸惑う優の顎を掴み尚強く、しかし、囁く様に迫った。


「お前…私が欲しいか?なら私が欲しいと言え!小寿郎、お前が欲しいと言え!」








































































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