殉剣の焔

みゃー

文字の大きさ
上 下
111 / 176

祭りの後…

しおりを挟む
祭りが終わり次の日には、神社や屋敷は、いつもの日常を取り戻した。

しかし、春陽の鬼の様な姿は、一晩経っても元には戻らなかった。

家族以外には急病だと誤魔化し、朝起きてもその姿のまま、春陽はずっと布団で横になっていた。

そして、顔にも化粧ただれが出来たと嘘を付き、両親、春頼以外とは会わない事にした。

春陽の枕近くに、全く手を付けられていない朝食の膳が置かれていた。

だが、もう朝もだいぶ過ぎている。

「少しは食べなければ…」

心配して、すぐ傍らに胡座で座る春頼が諭す。

「ああ…分かっているんだが…それより、さっきのお前の話しを聞いて貴継と話さないといけなくなった。姿を見られたら不味いから、貴継と障子越しに話す。すまないが縁側まで貴継を連れて来てくれないか?」

春陽は、天井を見詰め力無く呟いた。

春陽の中にいる優は、前世の自分である春陽が、朝霧に何を言おうとしているのか…大体見当がついていた。

「はい…」

春頼は答えると、暫くは黙ってその兄の表情をじっと見詰めた。

春頼の昨日の宣言はウソでは無かった。

掃除、食事、着替の小袖や諸々の用意。

春頼は、頭の角や口の牙、青い瞳を隠くすため自室に閉じこもる春陽の面倒を、全て甲斐甲斐しく見始めていた。

春頼は、ゆっくり腰を上げようとする。

だがそこに…まるで計ったように…

「ハル…」

朝霧が、春陽のいる閉め切られた座敷の縁側に片膝をつき呼んだ。

「どうだ、ハル…具合は?何か、俺に出来る事は無いか?」

朝霧の声は、本当に春陽を心配していた。

「貴継、顔は合わせられないが、丁度話しがある…」

春陽はそう言った後小声で春頼に、春陽と朝霧二人きりにして欲しいと頼んだ。

障子の前には、春陽が見えないよう大きな屏風が置かれていたが…

春頼は念には念を入れ、、春陽の姿が露見しないよう座敷の端の障子を開け、不承不承という感じで出て行った。

その時、ふと座敷に入った春風が、春陽の下ろしていた長い黒髪を少し揺らした。

パタンと静かに閉まる音がすると
、跪く朝霧と立った春頼が一瞬目が合った。

お互い、表情が固くなる。

町から帰って来てこの方、あんなに幼い頃から仲が良かったのに、朝霧と春頼の間にもおかしな空気が流れ続けている。

春頼は、朝霧にただ黙って頭を下げただけで、静かに背を向け歩き出した。

春陽は、布団から上半身起き上がる。

優にも緊張が走る。

「貴継…」

障子越しで互いの姿は見えなくても、少し緊張気味だと朝霧には分かる春陽の声がした。

「ああ…」

やはりお互いギクシャクしていて、朝霧の表情と声が更に固くなる。

「貴継…お前、明日に決まった出立を延ばすと、私の為に延ばすと春頼から聞いた…」

「ああ…その通りだ。お前がちゃんと治って、お前の顔を一目見て別れを言え無い内は行かない…」

朝霧のその言葉に、春陽の顔が苦痛に歪む。

この角や牙、瞳の色は、いつ元に戻るか分からない。

一生このままかもしれないと考えるとおぞましい… 

「貴継…気持ちは有り難いが…これはいつ治るか分からない。お前を迎えに来た者達にも都合がある。婚約先も大変な時で、すぐにでもお前に来てもらい祝言を挙げたいはず。それに…美月姫も、ずっとお前を待っておられるぞ…」

今度は朝霧の表情が苦々しく引きつり、袴の上に置かれた両手をぐっと握って吐露する。

「ハル…俺が心配なのは…心配なのは…お前なんだ。お前だけなんだ…」

それを聞き春陽は黙ったまま、そっと両目を閉じた。

同時に、優の心も激しくかき乱された。







































しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

上司と俺のSM関係

雫@3日更新予定あり
BL
タイトルの通りです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...