殉剣の焔

みゃー

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Espelho(鏡)

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優が、春陽の中で身動きが取れず
、生まれ変わりの朝霧と西宮、観月、定吉の行方と、さっき擦れ違った前世の定吉が気になって気になって仕方無い中、春陽達は、父から頼まれた用で骨董屋へ立ち寄った。


狭く薄暗い店の中は、棚から土間から壁まで、いつの時代の物かどこの国の物か分からない珍しい物や、怪しく不気味な装飾品などで埋めつくされている。


特にいずこか遠い異国の仮面達のいくつかは、その空虚に空いた両目から、まるで意思があるかのようにじっとこちらを見ている感じがして、春陽も優も落ち着かない



そして、香なのだろうか、なんともキツくて甘い、妖艶な匂いが漂っていた。


朝霧と春頼が先に店の奥へ行き、春陽は匂いに眉を顰めながら、ふっと柱に掛けてあった南蛮渡来の美しい花の装飾の鏡を見た。


「!!!」


その中に映った春陽には、再び頭に小さな二本の角、口に二本の牙があった。


恐る恐る手をやろうとすると、爪が、まるで獣のように鋭く長く伸びていて、愕然としながら頭、次に口元を触れる。


春陽も優も、明らかに感じた硬い尖った実物の感触に背筋がゾッと冷えた。


「たっ…貴継…貴継…はる…頼…」


春陽は、誰よりも、誰よりも第一に、向こうで店主と話す朝霧を求めて朝霧の背中に震える小さな声で手を伸ばしかけ、次に朝霧の横に居た弟の名も呼んだ。


が、これを見た二人の反応を想像すると躊躇い、脱いでいた笠を被り急ぎ店を走り出た。


「ハ、ハル?ハル!!!」


足音に気付いた朝霧が振り返り、
普段あまり見ない程動揺して後を追った。


「兄上?!」


春頼も声を上げ、二人の後を走った。


何度かこの町に来ていたから、春陽には少し土地勘があった。


誰にも見られない、誰も居ない場所…


向かっている内、見ると爪は元に戻り、頭と口に手をやると、鬼の様な印は消えていた。


「何だ?何だと言うんだ…」


呆然と呟く春陽に、優は、朝霧と春頼と離れた不安と同時に嫌な予感を感じた。


もしかして、春陽さんは、自分が淫魔だと知らないとか?…


そんな…


その上春陽は、思い当たる所に向かったはずなのに、いつしか見知らぬ一帯に迷い込み、右も左も分からなくなり彷徨う。


歩きながら冷静になってきて、朝霧と春頼がどんなに心配しているかと、どんどん自己嫌悪に陥りながら…


そして、思い出す…


自分の住む屋敷から町に出立する乗馬前、朝霧に言われた事を…


馬前で朝霧は、春陽の両手を強く握り、春陽を真剣に見詰めて懇願した。


「ハル…何があっても、俺の傍から離れるな…決して…決して…」


これは、幼い頃より常日頃から朝霧が春陽に言ってきた言葉だが、
この時は何かいつもより深刻で切実で…何かいつもと少し違う感じに聞こえた。


それでも、町の治安が更に悪くなったと言う噂を周りから聞いていた所為だと春陽は思いながら、その時は、幼馴染み故にいつも心配してくれてありがたいといつも通り微笑んで黙って頷いたのだが…


いつまでも私が男として頼りないから、あんな風に貴継に心配させてるのに、それなのに…勝手に店を出たりしてしまった…


戦を想定した、幾重もの環濠に囲まれた町の曲がり角と行き止まりの多い路地を、何度も同じ所に戻ったり行ったり来たりする。


その内に、ついさっきから、春陽も優も誰かにずっと見詰められている気がして、春陽は、何度もキョロキョロと回りを見渡す。


だが、その予感は正しかった。


その姿を遠くから見詰める、武士の男の後ろ姿があったのだ。


「フフ…面白そうなものを、見付けた…」


そう鼻で笑い呟いた男は、春陽同様目深に笠を被り顔は伺えないが
、その下から美しい銀色の長い髪が見え、冥府の神の如く風にさらさらとなびいていた。






















































































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