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玉響の視線
しおりを挟むそんな朝霧の気持ちなどつゆ知らず、すっと、優は立ち上がり、すぐ近くの中央にある大理石の噴水を気分を変えに見に行こうとし
た。
西洋的な凝った装飾とフォルム。
高い所の吹き出し口から絶えず水が放物線を描き落ち、下の円形の大理石の中を緩やかに流れてい
る。
だが、丁度四歩ほど歩いた時、背後から優は強い視線を感じ、その突然の強烈な気と驚愕から身体が勝手に固まった。
そして、気に当てられたのか、そのままふらふらとしたかと思うと倒れそうになる。
「主!」
寸前で、駆け寄って来た朝霧に背後から抱きしめられ、優は強張りが解けた。
「どうしました?主!」
「今…誰かが、俺の事、後ろから見てた…凄い気が後ろから…」
優の身体は、いつしか朝霧に正面から抱かれていた。
「後ろから?…」
優と朝霧がそちらを見ると、周りに背の高いビルは少しあるが、誰かが見ている姿は見えなかった。
朝霧が更に回した腕の力を強く
し、深く優の身体を抱き込んだ。
「!!!」
驚く優の頬が赤く染まり、心臓が激しく反応する。
しかし…
これは、ただの主に対する保護に過ぎない。
そして、自分も、主として護られているだけだ。
優は、自分をわきまえさせ落ち着かせるべく己に言い聞かせなが
ら、それでもいい…と朝霧の背に腕を回わして抱き締め返した。
その時…
ヒュー!
背後から、口笛がした。
「朝っぱらから、こんな所でも抱き合うなんて、お熱いねぇ!」
盆にアイスコーヒーを乗せて持って来た真矢が、ニヤニヤしながら二人を見てそこに立っていた。
だが…優も朝霧も知らなかった。
同時刻、確かに優は、少し離れたビルの同じ高さの屋上から見られていた。
黒のズボンに黒の薄手のコートに身を包み、髪型も今風に短く切った藍に。
藍は、優がふらついた瞬間すっとその場から消え、街中の人の居ない路地裏に又現れた。
「いかがでしたか?」
いつの間にか背後にいたスーツ姿の男が、藍の背中に尋ねた。
「ハルだけここに落としたつもりが、余計な駄犬が一匹付いてきやがった」
振り返る事無く、忌々しそうな声がする。
「これよりどの様になさいます
か?」
「私はこれから何人かの、血と生気を喰いに行く」
藍は今度は振り返りそう言い、口角だけ上げた。
数分後、優達の居たカフェの近くで、モデル風の若い美女が誰かを待っていた。
かなり豊かな胸の部分を強調し開けたシャツに、美しい長い足は、ミニスカートから惜しげなく出ている。
「お待たせ!」
来たのはすっかりこの世界に馴染んでいる大学生風の藍で、だが、目立つ彼を周囲の通りすがりの女子達がチラチラと見る。
「彼氏との約束あったのに、今日は本当に良かったの?」
いつもより口調が別人の様に優しく雰囲気がラフな感じの藍が、美女を見詰めて聞いた。
「いいの!いいの!それより、今からどうする?何か食べる?」
並んで歩き出し女性が上目遣いで頬を染めながら藍に聞くと、彼は爽やかな笑顔で女性の耳元で囁いた。
「うん。今すぐ、君を食べたいんだ…君を、めちゃくちゃ食べた
い…」
「やぁだぁ!もー、エッチ!」
女性は、ニッコリした後うっとりして藍の腕に自分の腕を絡めた。
しかし、その日を最後に女性は行方不明になり、二度と家族や恋人の元には帰らなかった。
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