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激流
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昨晩の雨は、川を早くに一気に下り、今の流れは平時に近かった。
それでも、春陽の体が落ちたのは川の直線の部分で、その速度は、岸より中央の方が速かった。
だが…
朝霧は、自然の荒々しさに一切怯む事無く激しく水を掻き分けて泳ぎ、優、いや春陽を追い掛けた。
朝霧の泳ぎは、秀逸だった。
あっと言う間に流される春陽の体に追いつき、すでに意識の無い身体をぐっと引き寄せ抱き締め、岸まで泳ぐ。
「ハル!ハル!ハル!」
地上の軟らかい草むらにゆっくり横たえた春陽の体に、朝霧は必死で呼び掛けるが反応は無く、息をしている様子も無い。
一瞬激しく絶望した朝霧だったが
無我夢中で、春陽の唇に自分のそれを重ね蘇生を試み始めた。
かつて武士の素養として教わっていた通り、口から息を吹き込み胸を押す。
「ハル!頼む!頼む!」
押しながら、悲壮な声も上げる。
「ハル!」
又、唇を重ね、息を吹き込み、胸を押す。
「ハル!ハル!」
又。無我夢中で唇を重ね、息を吹き込み、胸を押す。
それでも、春陽の反応が無い。
それでも、朝霧は諦めず繰り返
す。
もう頭の中は極限に真っ白なま
ま、何度も…
「ハルぅ!」
六度目、押しながら絶え切れず遂に、朝霧が大声で泣き叫んだ。
すると…
春陽がゲボっと水を吐き、ハァハァハァと息をしながらゆっくり目を開け、朝霧を見た。
「貴…継…」
いつしかその身体には春陽自身が戻って来ていて、優はまた春陽の裏に隠れた状況で同時に目覚めた。
優は又、春陽の体に精神体としているだけだ。
「ハ…ルぅ…」
仰向けの春陽の顔に、すぐ上の向かい合う朝霧の顔から落ちてくるのは、川の水滴と、朝霧の涙の大粒だった。
春陽の唇にそれらは流れて来て、淡水が塩辛い味が口内にする。
春陽が、今より前に朝霧の泣いている姿を見たのは、朝霧がまだかなり子供の頃…
もう、何年も見る事が無かった。
泣くという姿が、もう想像すら出来なかった位逞しい幼馴染。
春陽は声も無くそれを不思議そうに呆然と見詰めたが、優にはそれに既視感があった。
優と生まれ変わりの朝霧と、初めて会った日に似ていた。
(あの時は涙じゃ無かったけど…朝霧さん…貴方は、本当に…昔のまんまなんだ…)
優は、心の中で呟いた。
やがて、まるで優の想いにも通じているかの様に、春陽自身が朝霧の左頬に自分の右手を添わせた。
朝霧は、その自分の頬に置かれた手を右手で握り口付けし、無言で又目から次々雫を落とした。
「…ごめん…貴継…いつも、いつ
も…」
優の所為でこうなった事の言い訳もせず、春陽が朝霧に素直に告げる。
すると朝霧は、春陽の唇を、右手の人差し指と中指で優しく塞いで呟いた。
「いいんだ…いいんだ…お前が無事なら…お前が無事で、俺の側に居てくれさえすれば…」
そして朝霧は、尚涙を零しながら
春陽の上半身をゆっくり起こし抱
きしめた。
強い…強い抱擁。
まだ生きている実感と安心感と至福が春陽と優の中に広がり、やがて又意識があやふやになっていく。
春陽の瞳も半開きになる。
そんな中、朝霧は、春陽の顔に何度も頬ずりを繰り返し…
やがて、蘇生は全く関係なく、春陽の唇に、朝霧の唇をそっと重ねた。
どれほどだったろうか…
長く合わせた後、名残り惜しそうに離し…
又、朝霧は、口付ける…
そして、又…惜しむように離れ、瞼の閉じかけの春陽の顔を見て、吐息と共に囁いた。
「ハル…俺は、ずっとお前に恋してきた…小さい頃から、誰よりも、誰よりもお前が好きだ……」
それでも、春陽の体が落ちたのは川の直線の部分で、その速度は、岸より中央の方が速かった。
だが…
朝霧は、自然の荒々しさに一切怯む事無く激しく水を掻き分けて泳ぎ、優、いや春陽を追い掛けた。
朝霧の泳ぎは、秀逸だった。
あっと言う間に流される春陽の体に追いつき、すでに意識の無い身体をぐっと引き寄せ抱き締め、岸まで泳ぐ。
「ハル!ハル!ハル!」
地上の軟らかい草むらにゆっくり横たえた春陽の体に、朝霧は必死で呼び掛けるが反応は無く、息をしている様子も無い。
一瞬激しく絶望した朝霧だったが
無我夢中で、春陽の唇に自分のそれを重ね蘇生を試み始めた。
かつて武士の素養として教わっていた通り、口から息を吹き込み胸を押す。
「ハル!頼む!頼む!」
押しながら、悲壮な声も上げる。
「ハル!」
又、唇を重ね、息を吹き込み、胸を押す。
「ハル!ハル!」
又。無我夢中で唇を重ね、息を吹き込み、胸を押す。
それでも、春陽の反応が無い。
それでも、朝霧は諦めず繰り返
す。
もう頭の中は極限に真っ白なま
ま、何度も…
「ハルぅ!」
六度目、押しながら絶え切れず遂に、朝霧が大声で泣き叫んだ。
すると…
春陽がゲボっと水を吐き、ハァハァハァと息をしながらゆっくり目を開け、朝霧を見た。
「貴…継…」
いつしかその身体には春陽自身が戻って来ていて、優はまた春陽の裏に隠れた状況で同時に目覚めた。
優は又、春陽の体に精神体としているだけだ。
「ハ…ルぅ…」
仰向けの春陽の顔に、すぐ上の向かい合う朝霧の顔から落ちてくるのは、川の水滴と、朝霧の涙の大粒だった。
春陽の唇にそれらは流れて来て、淡水が塩辛い味が口内にする。
春陽が、今より前に朝霧の泣いている姿を見たのは、朝霧がまだかなり子供の頃…
もう、何年も見る事が無かった。
泣くという姿が、もう想像すら出来なかった位逞しい幼馴染。
春陽は声も無くそれを不思議そうに呆然と見詰めたが、優にはそれに既視感があった。
優と生まれ変わりの朝霧と、初めて会った日に似ていた。
(あの時は涙じゃ無かったけど…朝霧さん…貴方は、本当に…昔のまんまなんだ…)
優は、心の中で呟いた。
やがて、まるで優の想いにも通じているかの様に、春陽自身が朝霧の左頬に自分の右手を添わせた。
朝霧は、その自分の頬に置かれた手を右手で握り口付けし、無言で又目から次々雫を落とした。
「…ごめん…貴継…いつも、いつ
も…」
優の所為でこうなった事の言い訳もせず、春陽が朝霧に素直に告げる。
すると朝霧は、春陽の唇を、右手の人差し指と中指で優しく塞いで呟いた。
「いいんだ…いいんだ…お前が無事なら…お前が無事で、俺の側に居てくれさえすれば…」
そして朝霧は、尚涙を零しながら
春陽の上半身をゆっくり起こし抱
きしめた。
強い…強い抱擁。
まだ生きている実感と安心感と至福が春陽と優の中に広がり、やがて又意識があやふやになっていく。
春陽の瞳も半開きになる。
そんな中、朝霧は、春陽の顔に何度も頬ずりを繰り返し…
やがて、蘇生は全く関係なく、春陽の唇に、朝霧の唇をそっと重ねた。
どれほどだったろうか…
長く合わせた後、名残り惜しそうに離し…
又、朝霧は、口付ける…
そして、又…惜しむように離れ、瞼の閉じかけの春陽の顔を見て、吐息と共に囁いた。
「ハル…俺は、ずっとお前に恋してきた…小さい頃から、誰よりも、誰よりもお前が好きだ……」
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