殉剣の焔

みゃー

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優は自然と、背の遥かに高い定吉の瞳の奥を覗いてしまった。

やはり顔付きや目付きは凶暴そうだが、何処かに、あの優しい定吉を探さずに居られなかったのだ。

だが定吉の方は、その優の真っ直ぐ過ぎる視線に一瞬酷く戸惑いたじろぐ。

そして一度、まるで巨大な猛獣が呆気なく子猫に負けてしまったかのように優から目線を逸したが再び戻し、急にずっと優を掴んでいた手に力を込めた。

何を思ったか、定吉は、優を抱き寄せるように近づけようとした。

だが、その時…

「うあぁー!!!」

優が、定吉の背後の壁を見て叫んだ。

「なんだ?!」

定吉は、優を見たまま冷静に動じない。

「あっ、あれ、あれ…」

「だから、なんだ?!」

「く、く…蜘蛛…あ、あんな、でかいやつがぁ…」

真っ直ぐ定吉の背後を指さした優は、動物は好きだったが昆虫はダメで、特に蜘蛛と台所によく居るカサカサする黒いやつが本当にダメだった。

そう言えば、普段とても頼り甲斐のある東京の父も虫全般が超ダメで、見ては怯えよく母に呆れられていた。

だが優の目の前のそれは、東京では絶対見た事無いほど、本当に驚愕すべき大きさだ。

なのに、背後の蜘蛛を見た後優を見る定吉に、ハァーと、又呆れた様な溜め息を漏らされ言われる。

「あれ位何だっていうんだ?お前
男だろうが!」

「男でも…む、無理!あんなの絶対無理なやつ!あんなのと一緒にここに居るなんて絶対無理です!」

すると定吉が蜘蛛に向かって手を伸ばした。

優は、定吉が巨大な蜘蛛を素手で殺し、リアルなその様を見せつけられるか…

あるいは、今の定吉なら捕まえてこちらに投げつけてくるか、どちらにしても最悪を想定して青ざめた。

「や…!」

止めてくれ!と、思わず、優は言いかけた。

だが定吉は、大きな手を優しくひらひらさせて蜘蛛を誘導し、木の格子が付いている小窓から逃してやった。

「これでいいんだろ?」

定吉はそう無愛想に言うと、想像外だった定吉にポッカーンと、間の抜け過ぎる表情をする優をガッツリと見ながら、又かなり怪訝そうにする。

二人の間にほんの少し、気まずい時が流れる。

しかし…

「お前…本当に、あの時、あの橋で会った観月春陽か?」

定吉が目を眇め、優に近づき覗き込んで声を低くして聞いた。

「えっ!」

痛い所を突かれた上、何故今の定吉が春陽の名を知っているのかと優は一瞬固まる。

しかしその疑問を、今聞く雰囲気では無い。

「あ…たり前だ、お前とあの晩橋で
会ったのは、私だ…私は、観月春陽だ…」

取り急ぎ春陽に寄せて落ち着いた雰囲気を演じたつもりで、優はじっと定吉を見た。

しかし。

更に気まずい、なんとも言えない間が空く。

定吉は不審そうに、ただずっと優を眺めている。

(ああ…やっぱ、ダメだ…耐えられない…どう見ても、俺、きょどってるだろ…)

この時点で優はもう、幾ら自分の前世でも、やはり春陽には成り切れないかもと、無理が有り過ぎると諦めかける。

そこに、又、定吉が特大の溜め息をつく。

「兎に角、火の近くに座れ…」

その投げやりな定吉の声に、優は取り敢えず座り、所在無さ気に膝を抱え暖を取った。

そして、丁度優の真向かいに定吉も、筋肉質な腕を組んでドカッと又座った。

定吉の傍らには、定吉自身の刀の入っているだろう長い鞘がある。

春陽の刀は、転落のどさくさでどこかへ行ってしまったのか?…

わざと定吉が置き捨ててきたか?

優は、出来たらわざとで無いと思いたかったが、多分そのどちらかでこの場には無かった。

今の定吉がよく分からない分、この状況は、一層優の緊張感を高めた。

又、一段と雨音が強くなる。

優は、男同士という事もあり、無造作に三角座りして、その足の間から六尺褌に包まれた股間が丸見えだった。

そこにはうっすらだが、心は優でも春陽の体なので、春陽の陰茎の形が浮かんで見える。

定吉は、それを何故か暫く食い入るように見ていたが、優と視線が合いそうになると逸した。

そして…二人共……

暫く、お互い目も合わさず話しもせず…

ただ、酷く降る雨音と、強い風の音を聞いた…
























































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