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夕餉
しおりを挟むその日の夕方、ぽん吉は真矢のまま、優のリクエストしたカレーを夕飯に作ってくれた。
独身生活が長いらしく、料理は得意中の得意だとか。
江戸時代の観月家での食事は、庶民のものに比べればそれはとても恵まれていると優も分かってはいたが、やはり、ハンバーガーやカレー、ラーメンなんかの現代食に飢えていて食べたくなる。
食生活の違い。
これは以外と地味に、精神的にくるものがあった。
全て揃っていて、お金さえ出せば
何でもすぐ手に入った現代の生活
が当たり前だと思っていたが、食べたいなら、今度は江戸時代でも
そこに有る物で自分で考えて、完全で無くてもハンバーガーやカレーに近いものでも作ってみようかな、なんて考える。
優も手つきはぎこちなくではあるが色々カレーを手伝い、朝霧も常に横で補佐した。
優は、朝霧と他愛の無い話しをしながら真矢を手伝っていると、一瞬今の自分の状況を忘れそうになる位心地良かったが、ふと、割烹着姿の定吉を思い出し、寂しくて
、でもあの似合っているのかいないのか分からない姿に思わず笑ってしまいそうにもなった。
だがそれでも、最後に辿り着くのは、いい知れ無い寂しさだ…
みんな、どうしているんだろう?
尋女の連絡を待つ以外に何か自分で出来る事は無いのか、優は常に探している。
そんな中、ずっと今夜の布団の件が気になっていた優だったが、夜は刻々と迫り、やがて言う決心をする。
「し、真矢さん。今夜は、朝霧さんと別室で寝たいんです…」
優が下を向き、皿を棚から出していた真矢の後ろ姿に言った。
朝霧は、その突然の言葉に顔をしかめた。
真矢の方は一度動きを止めたがゆっくり振り返り、皿を手にしたまま優にニッコリとした。
「なんで?一緒の方がいいだろ。お前等ラブラブだし、警護も出来て一石二鳥じゃんか」
「ラブラブとか、じゃないんです
。俺達は、ただの主従関係ですから…昨日は、その、俺が半淫魔で、臣下の役目として相手をしてくれただけで…」
少し自虐的に笑いながら優が言うと、朝霧が近くに居るのに、真矢が壁に背を付けていた優に皿を持ったまま近づいて来て、その間に挟まれた。
「ふーん…ただの主従関係ねぇ。
確か、淫魔は満月から三日から七日の間、いつもより特に激しく発情するらしいから、今日は満月から三日目。今日も、身体が疼くぜ
、きっと…」
「えっ!そうなんですか?」
優は初めて聞かされ、背の高い真矢を見上げ驚愕する。
「えっ?お前、それも知らなかったの?まさかお師匠様も、それを知らないのか?」
優に壁ドンしながら、真矢は眉根を寄せた。
「分かった。部屋は別に用意する
。でも…」
真矢は、優に顔をかなり近づけ囁やく様に言った。
「ただの性処理役なら、俺でもいいんじゃねぇの?なぁ、アイツは…優しくしてくれる?俺ならすっごーく優しく、気持ちよーくしてやれるぜ」
「はっ?」
真矢が冗談ぽく笑って言うので、優も、呆れながらもふざけないでくれと笑って言おうとしたが…
「おっと、ただの主従関係の朝霧さん…」
真矢がそう言い、優が横を見ると
、朝霧が無言で真矢の皿を持たない方の腕をつかみ上げ、鋭い視線で二人を凝視していた。
「そんな、怖い顔すんなって、朝霧。冗談、冗談だっての。お前の大事な、だいじーな主様なのは分かってますから」
真矢は大人の笑みで、皿を持たない方の右手を横にヒラヒラさせた
。
そんな事があった後、優と朝霧の間に変な空気が漂い始めた。
まるで、出逢った頃に戻ってしまったかの様になってしまった。
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