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花風
しおりを挟む色々な事があった後、散々ぽん吉
、いや、真矢に世話になっているので、優と朝霧は、神社の細々とした用事を手伝う事にした。
優はそんな中、又闇が辺りを覆う頃自分が発情しないか心配しながら、真矢に今夜からは寝室を二つ用意してもらおうと朝から言うタイミングを計っている。
掃除を終えると、あの江戸時代と違いさほど大きくもない社務所で
絵馬の絵付けをして欲しいと真矢に言われ、優は朝霧と共に付いて行った。
こんな発達した世界で手描きの絵馬?と優が神職姿の真矢に尋ねたら、普通のプリントされた物よりプレミアムを付けて500円高めの値段設定にして有り難みが増すのか、売り上げは良いらしく、なかなかの商売人、いや、商売狸で閉口してしまう。
アルバイトだと言う若い巫女さん達数人が優と朝霧が来ると一気に色めき立つ中、一番奥の部屋に通され真矢が窓を開け放つと、さっと花風が流れ込み、一本の花満開の桜の木が見えた。
優は江戸時代の荒清社の自分の部屋から見える桜を、そして、ほんの先日、その下で朝霧に言われた事を密かに思い出す。
朝霧のあの表情…あの声…
全てが鮮やかに蘇る…
忠義心の強い臣下の告白は、その散る花を背に堂にいっていたと…
でも…もう二度と、朝霧さんとあの夜の様な事はしない…
そう、改めて思う。
真矢は、絵馬に描かれた龍神の絵の手本を見せて同じ様に描いて欲しいと言ったが、朝霧がそれに視線を泳がせ難色を示した。
「あの、私は、絵が、絵が…本当にへ、下手で…」
優は、アレっ?という不思議そうな顔をした。
そんな凝ってる訳でも難しい絵でも無いし、第一、朝霧は何でも卒なくこなしそうだったから。
「朝霧さんならささっと描きそうなのに」
優がそう微笑むと、珍しく朝霧が動揺している。
「ホントそうだよな。朝霧、お前
、何でも完璧にやりそうなのに、
以外だなぁ…」
真矢がニヤニヤと笑った。
「なら、色付けはどうだ、ほら、ここにちょんちょんちょんと塗るだけだ。これ位は出来るだろ?」
真矢が絵馬の龍神の身体の一部を指指すと、朝霧は不承不承小さく頷いた。
正座し卓上で優が墨で描いた後少し乾かし、朝霧が恐る恐ると言った感じで染色する。
そんな真剣な朝霧を見て、優は我慢出来ず思わずクスッと笑ってしまった。
「あっ、なんか、なんでも出来る人のそう言う所って、かわいく見えるなって…」
そう言って淡い色の桜華の様に微笑む優を、朝霧と真矢が気を抜かれた様に呆然と見詰めた。
「ゲッ!朝霧!垂れてる!垂れてるぅー!」
その内朝霧が優の笑顔に見入っている間に、ポタポタと朝霧の持つ筆から卓に青い絵の具が落ち、真矢が叫んだ。
「す、すいません!年上に向かって。それに、これは、あくまで一般論で…」
言葉のチョイスを間違えたとハッとした優は、動揺を隠しながら急いでフキンで卓の青龍の色の美しい青碧を拭いた。
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