殉剣の焔

みゃー

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明け方2

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「何って、お前、まだ何も観月から聞いてないのか?私はてっきり
、昨日聞いているものだと…」


小寿郎が、足を組んだまま観月を見上げると、優も布団の中から彼を見た。


「今日、お前や皆に言うつもりだった。この小寿郎を、春光、お前の式、つまり下僕に決めたぞ」


観月のその言葉に、優は一瞬唖然とした。


「下僕って、又、血を、小寿郎にも飲ますって事ですか?」


優と小寿郎以外の四人の肩がピクリと反応した。


「いや。この場合は、あくまで小寿郎が契約したと認めれば済む話しだ」


観月が余りにサラリと言う。


弟が、さもそれを当然受け入れるとでも言う風に。


「どうして?小寿郎…どうして、俺の下僕になるんだ?」


優が心配そうに尋ねると、小寿郎は溜息を付いた。


「永松御三家の内の水戸の若様が
、以前狩りの途中で私の一族の長である桜を気に入り、今度引き抜いて自分の城の庭に植えようとしてる。それを、私がお前の式になる代わりに観月に止めてもらう約束をした。観月の言う事なら、流石の若様も聞かざるを得ないだろうし、お前にも、観月と同じ様に式がいるだろうから丁度お互いの利害が一致した」


いつも優し気な優の瞳が険しく眇められ、観月に向いた。


その冷ややかな美しさに、周囲の男達は思わずゾクリとした。


特に視線を向けられた観月は、滅多に動じる男では無いのに、観月自身でも信じられない事に、蛇に睨まれたカエルの様に動け無くなっていた。


「どうして?どうしてこんな大事な事、一言、俺に先に何も言ってくれないんです?俺に、拒否する事は出来ないからですか?」


観月は、うっと言葉に詰まりつつ、やはり指一つ動かせない。


「春光。まさかお前、私が式では気に入らないとでも言うのか?」


優の浴衣の胸元を両手で掴み、小寿郎が迫ってきた。


「止めろ!小寿郎!」


鋭い声と共に、朝霧が又小寿郎を引き剥がした。


「春光!」


小寿郎が、不満を露わにした。


「小寿郎。君が気に入るとか入らないとかの問題じゃないよ。俺は…俺がもし本当に春光さんなら、出来ればもう下僕は作りたくないんだ。だから…」


そう言い、優は観月を見て続けた。


「桜の木の事なら、小寿郎は、あの時俺を守ってくれた。守ってもらわなかったら、俺も朝霧さんももっとケガをしてたと思うし、蔵での事もあって借りが有ります。だから、下僕の事は無くても、桜を城に移すのは何とかしてやれないですか?」


ダメ元の上図々しい事を言っている自覚はあって、てっきり何かガツンと言い返されると優が身構えていると、観月は予想外な態度をとった。


その場に刀身を置き、片膝を付いたかと思うと、頭を下げたまま上目遣いで弟を見た。


尊大な兄から臣下の姿への変化に優は目を丸める。


「主、貴方には、式が必要なのです。我々は、相手が相手だけに、人以外の力をどうしても借りなければならない時がございます。小寿郎が式にならなくても、桜の木の一本だろうが、千本だろうが、貴方の頼みなら何なりといたしましょう。ですがどうか、どうか式は、小寿郎以外でも良いのでお考え直しを…」


いつもは兄として上からくるのに。


観月との関係はとても歪(いびつ)で不安定だと、優は溜息を付いた。


「少し、考えさせてください。それと…」



念を押すように、優は真っ直ぐ観月を見た。


「それと、俺じゃ、頼り無いかもしれませんが、もっと、決める前に、俺にも話しをして欲しいんです…」


「春光!貴様、私を捨てたら一生後悔するぞ!」


朝霧に後ろから押さえられながら
、小寿郎が暴れ騒いだ。


「小寿郎、式になりたいと言う者が主に対して貴様とはなんだ!」


朝霧が腕の力を強め叱責すると、見かねた定吉が、小寿郎を優から見て後ろ向きにして肩から担ぎ上げ言った。


「小寿郎止めんか!」


「落ち着け、小寿郎。向こうへ行こう」


西宮が促して、彼と、春光と叫ぶ小寿郎を捕獲したままの定吉、三人が部屋を出た。


優が不安気にその姿を見送っていると、それに乗じる様に観月も出て行こうとしたので、さっきの念押しの返事を聞こうと呼び止めかけた。


だが、あっと言いかけて、それ以上言葉が出ず、引き止められなかった。


大事な事を隠しているのは、自分もだ…


昨晩からの性欲は異常だ。


さっきの夢の明確な内容はほぼ忘れたが、何かいやらしいものを見ていたかもしれない所為で危うく又勃起しかけたが、小寿郎が脅かしてくれたお陰で無事引いてくれた。


これが淫魔の血の所為なら…
黙っていたら後々良くない事になるかもしれない…


けれど、それを観月達に話すのはどうしても躊躇う。


「主…大丈夫ですか?」


布団の傍に片膝を付き、朝霧が優の右頬に自分の右手を優しく滑らせ添え聞いた。


その朝霧の指の感触に、優の全身がピクピクと反応した。


げっ!何反応してんの!止めろ、俺!


「だ、大丈夫です。すぐ、着替えます」

優は、慌てて笑って誤魔化し立ち上がろとしたが、貧血の様に頭がフラッとなり、しゃがんだまま朝霧の胸の中に倒れ込んだ。


暫く、何がどうなったか頭がまとまらないまま、無言で抱いてくる朝霧の浴衣の襟を右手で掴み、彼の胸の鼓動を聞いた。


それは、ドクドクドクと激しく速い。


今の自分と同じ様に。


「主…」


息に溶かす様に朝霧が呼んだ。


ひゃっ!何で朝からそんないやらしい変な声出すの?


又大っきくなる!


「朝霧さ…ん…」


優は、戸惑いながら朝霧を見上げて、薄っすらと、他の者が見たら誘っている様に無防備な唇を開いた。


グー、ギュル、ギュルー!


艶めかしい雰囲気の中、優の腹が盛大に鳴った。


「えっ?」


朝霧が、少し間抜けな声をだした



「お腹、空いた…もう、ホント、死にそう、なんです…」


そう呟いて、優は又朝霧の胸にバタリと沈み込んだ。


もう、空腹で限界だった。


「あっ!すぐ、すぐ、朝餉の用意をさせます!」


朝霧は優から身体を離すと、慌てて部屋を走り出た。


更に、煩い程腹がなる。


良かった。
なんとか勃起は免れた。


でも、これから自分はどうなってしまうのか?


障子から差し込む優し気な朝の光をぼんやり眺めながら、優は酷く不安に襲われた。











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