殉剣の焔

みゃー

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春の庭

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西宮の話しによると小寿郎は、朝
、定吉に担がれ部屋を出た後、暴れて無理やり拘束から自由になるとその場から消えたと言う。


朝も昼も食べないで、何処へ行ったのか?


いや、猫の時は人間と同じ物を食べていたけど、人型なら何を食べるんだろうか?


優は春の昼下り、奥殿の広大な庭を朝霧、定吉と散歩しながら、獣化しているかもしれない彼を木陰などに探した。


「小寿郎ですか?」


定吉が優に問いかけると、朝霧の表情に少し険が浮かんだ。


「帰ってくるでしょうか?」


優がそう言い不安気に遠くを見ていると、すぐ横の朝霧が表情を戻し呟いた。


「大丈夫です。その内帰ってきます」


「はい…」

何故か、その声に、横顔に、優は
ひどく安心感を得る。


何も根拠は無いのに。


庭には大きな池があり、周りを今が花の盛りの桜の木が隙間無く囲んでいる。


昔、本殿の近くの池で無く、こちらの方に青龍が住んでいたと朝霧が優に教えてくれた。


朝霧の顔を見ていると、昨晩、彼と観月に見つからない様に自分で始末した性欲を思い出した。


あれからなんとか、四度の吐精で身体は収まってくれたが、あの自分でコントロール出来ない度の過ぎた性欲は、ただ早く終わらせないといけない快感を十分得られ無い自慰だけでは、最後の方はもはや地獄の苦しみでしかなかった。


あんなのが続いたら、その内、心と身体がバラバラに砕けそうだ…


そして、いつか自分を失って、誰でもいいからとセックスしてしまいかねない。


そう、例えそれがどんな相手でも、誰でもいいからと…


それも、自分が満足するまで何度も何度も何度も相手を求める気がするし、まだ童貞なのに、すでにもっと、もっと、色んなものがグチャグチャになって尚、身体が全て蕩けて、自分を全て開放するようなセックスを求めている。


もしかすれば、その最中に吸血の欲求も加わるかもしれない。


そして、自分とセックスした相手は淫魔に堕ち、自分と同じおかしくなりそうな性欲に支配され、生き血すら求めるかもしれない。


人の性欲は悪では無い。


むしろ、本能であり喜びだと思う



でも、春姫様は相手を淫魔にする事は無いが、あんな性欲が度々続くなら自害しようとした気持ちも解る気がする…


こんなに雲一つ無い穏やかな空の下なのに、不吉な事が頭をよぎり塗りつぶされそうになる。


「主?」


それを、朝霧の声がくいとめる。


優は気を取り直し、朝霧に笑顔を返した。


人の手が入り美しく整えられた、池周りの遊歩道を暫く歩いていると、背後から朝霧が優に話しかけた。


「観月は、小さい頃から将軍家もひれ伏す荒清の跡継ぎで、何でも卒無くこなして神童と讃えられて、己の決めてする行動に間違いは殆ど無かったですし、その自信もあったんだと思うのです…」


三人は立ち止まり、優と定吉は話しの続きに耳を傾けた。


「ですが最近は、何かが邪魔をして冷静な判断が出来ない時も有りますし、何より、主が出来たのだから、どんなに己が正しいと思っても、主を差し置いて物事を先に決めるべきでは無いと言うのを、我々も散々奴に言ってますし、貴方にも相談して欲しいと言われたからには考えるでしょうが、そう行動出来るまでは、少し時間がかかるかもしれません…」


「そうですね。時間はかかるかもしれませんね。主の兄上だと言う立場も有りますから、自分が引っ張って行くと言う意地もあるでしょうし…」


定吉が付け加えた。


「その内俺に、相談してくれる様になってくれると?」


優は、朝霧の目を見た。


「ええ。きっと…」


「やっぱり、あの人の幼馴染だから分かるんですね。あなたが言うなら、本当にそうなるのかもしれない」


優は、静かに朝霧に微笑んだ。


今はそう思うしか無いし、何より、朝霧が自分と観月の朝のゴタゴタを気にしてくれているのは有り難い。


「貴方の、幼馴染でもあります…」


朝霧が、小声で呟いた。


彼は、優に幼い頃の思い出話しをする事も殆ど無い。


優は、記憶が戻って欲しいならもっとするもんじゃないかと冷たく思う事もあるが、でもそれは、彼の事はまだ良く分からないが、返って無理強いをしない彼の優しさでは無いかと思う時もある。


どちらかは、本当にまだ分からない。


だが、時折、昔の話しを不意にされる事があって、実感の無さに戸惑ってしまうのだ。


バシャッ!


いいタイミングで、池で何か跳ねた。


「あっ!あそこ、鯉があんなに!



優は、人の気配を察して寄って来た色とりどりの立派な魚を指指して、戸惑いを隠す為わざと明るく振る舞った。


「何か食べ物持ってきてやれば良かった」


優が残念そうにすると、朝霧が懐から何か紙に包んだ物を出したので、一瞬、昨晩のアレかと思い慌てるが、すぐ鯉のエサだと分かりホっとした。


「どうぞ…」


朝霧はまるで、優が鯉に興味を持つのが分かっていたかのような用意周到さで手渡した。


「主。あれが、あの金色のやつがこの池の今の主ですよ!」


定吉が笑顔で、優に一匹の鯉を指指した。


「え、本当に凄い大っきい!なんか特別な物でも食ってるみたいに



優は、自分でも子供みたいだと少し呆れるが、桜の花びらの浮かぶ水面に、沢山の鯉に混じって社で飼っている鴨達も寄って来て自然とテンションが上がった。


すぐ背後で、朝霧がクスッと鼻で楽し気に笑った。


するとその息の音に、ゾワゾワと優の背筋が波立った。


今朝見ていた夢は忘れたはずなのに、なんだかこの感じを見た様な見なかった様な…


でも、これ以上思い出さない方がいいかも…


朝霧を振り返り見る事が出来ない。


なのに…


「あっちも、エサを待ってますよ
…」


朝霧が、優の背中に身体が付きそうな位近づき、後ろからエサを取り池に投げ入れた。


「よく、食べますね…」


優は直立不動のまま声に明るさを持たせる様にして、朝霧の気配よりエサやりに集中しようとした。


















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