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香水の君 4
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俺がタンカルムの香水を作ってる本人と伝えると、香水の君は勿論、周りの、特に、令嬢達から息を飲む声をが聞こえてきた。
「あの、ルグラン様。私は、シャルロット・カルパンティエと申します」
「カルパンティエ……あぁ、カルパンティエ伯爵家のご令嬢ですね」
「左様でございます。ルグラン様が、タンカルムの香水を作られてるとの事で、失礼ながら、お声を掛けさせて頂きました。かの香水は素晴らしいお品と常々思っており、私もタンカルムの香水を、愛用しておりますの」
そして、俺が香水の君を抱き抱えてるにも関わらず、近寄って、こうやって声を掛けてくるものも出てくる始末だ。
俺の家は、数ある伯爵家の中でも末端の末端でしかない。
だから今まで、特に同じ伯爵家からしたら、相手にならないと思われており、こぞって声を掛けられる何て事は無かったんだがな。
こうもあからさまだと、いっそ清々しい程に醜くて笑える。
俺が作ってる香水は、自分が作ってるとか特に口外してなかった。
殿下や王女達も愛用している話は有名だから、作成主が分かれば、こうなるだろうとは思ってはいたのもあって、言わないでいただけだし。
「御愛用いただき、ありがたく存じます」
「えぇ、当然の事ですわ。宜しければ、色々お話したいのですが、如何? 香水について、色々お伺いしたいわ」
「有難いお申し出にはございますが、これからグラッセ子爵、子爵令嬢を、お送りしなければですので。それに、よろしいのですか?」
「? 何がかしら?」
「私は、調香師ではありません。貴族が作る香水は、金銭に困ってるのではないかと、そう思ってらっしゃるのでしょう?」
「!……、え、その、あれは……」
まさか聞かれていたとは、思っていなかったのだろう。
俺はにっこり笑みを浮かべると、焦る令嬢の方へ、もう視線を向ける事は無く、再び歩き出した。
ふと、視線を向ければ、香水の君が心配そうに、俺を見上げている。
「大丈夫ですよ。それよりも、ここは騒がしくて、体に響いてしまうね。すぐ馬車まで行くから、待っててくれるかな」
「は、はい」
素直に頷く香水の君。
こんな無駄話をしてる間にも、彼女の体調は悪くなっていっている。急がなくては。俺は従者の者と共に、馬車のある方へと彼女の体に負担が行かない程度の早さで向かった。
「ベル、具合はどうだい?」
「ありがとうございます、お兄様。先程まで、ルグラン様が運んでくださいましたし、今もこうして横になれてますから、楽ですわ」
馬車まで送るが、2人の体調が心配になり、付き添いをしても良いか聞くと、逆に申し訳なさそうに、グラッセ子爵令息と従者に、頭を下げられてしまったけれども。
馬車の中は、クッションやブランケットなどが常備されているらしく、香水の君を運ぶとすぐに、グラッセ子爵令息が、手馴れた動きで、香水の君を横にさせていった。
馭者も水を用意してきていたりと、慌てずに対応しているのもあり、良くある光景なのだろうなと思う。
カタカタと静かにゆっくり走り出す馬車の速さも、それを物語ってる。
「グラッセ子爵令息、君も休んだ方が良いのでは?」
「ありがとうございます。私は、熱までは出ておりませんので、このままで大丈夫です」
「そうか。だが、顔色はやはり良くない。無理はしないようにな」
「お気遣い、ありがとうございます」
柔らかな笑みを浮かべて、グラッセ子爵令息が、頭を下げる。
兄妹共に、柔らかなウェーブのかかったハニーブロンドの髪が、頭を下げる仕草だけでも、儚い印象を与える。
と、そこで強い視線を感じ、そちらへと顔を向けると、横になっている香水の君が、じっと俺を見つめていた。
「あの、ルグラン様。私は、シャルロット・カルパンティエと申します」
「カルパンティエ……あぁ、カルパンティエ伯爵家のご令嬢ですね」
「左様でございます。ルグラン様が、タンカルムの香水を作られてるとの事で、失礼ながら、お声を掛けさせて頂きました。かの香水は素晴らしいお品と常々思っており、私もタンカルムの香水を、愛用しておりますの」
そして、俺が香水の君を抱き抱えてるにも関わらず、近寄って、こうやって声を掛けてくるものも出てくる始末だ。
俺の家は、数ある伯爵家の中でも末端の末端でしかない。
だから今まで、特に同じ伯爵家からしたら、相手にならないと思われており、こぞって声を掛けられる何て事は無かったんだがな。
こうもあからさまだと、いっそ清々しい程に醜くて笑える。
俺が作ってる香水は、自分が作ってるとか特に口外してなかった。
殿下や王女達も愛用している話は有名だから、作成主が分かれば、こうなるだろうとは思ってはいたのもあって、言わないでいただけだし。
「御愛用いただき、ありがたく存じます」
「えぇ、当然の事ですわ。宜しければ、色々お話したいのですが、如何? 香水について、色々お伺いしたいわ」
「有難いお申し出にはございますが、これからグラッセ子爵、子爵令嬢を、お送りしなければですので。それに、よろしいのですか?」
「? 何がかしら?」
「私は、調香師ではありません。貴族が作る香水は、金銭に困ってるのではないかと、そう思ってらっしゃるのでしょう?」
「!……、え、その、あれは……」
まさか聞かれていたとは、思っていなかったのだろう。
俺はにっこり笑みを浮かべると、焦る令嬢の方へ、もう視線を向ける事は無く、再び歩き出した。
ふと、視線を向ければ、香水の君が心配そうに、俺を見上げている。
「大丈夫ですよ。それよりも、ここは騒がしくて、体に響いてしまうね。すぐ馬車まで行くから、待っててくれるかな」
「は、はい」
素直に頷く香水の君。
こんな無駄話をしてる間にも、彼女の体調は悪くなっていっている。急がなくては。俺は従者の者と共に、馬車のある方へと彼女の体に負担が行かない程度の早さで向かった。
「ベル、具合はどうだい?」
「ありがとうございます、お兄様。先程まで、ルグラン様が運んでくださいましたし、今もこうして横になれてますから、楽ですわ」
馬車まで送るが、2人の体調が心配になり、付き添いをしても良いか聞くと、逆に申し訳なさそうに、グラッセ子爵令息と従者に、頭を下げられてしまったけれども。
馬車の中は、クッションやブランケットなどが常備されているらしく、香水の君を運ぶとすぐに、グラッセ子爵令息が、手馴れた動きで、香水の君を横にさせていった。
馭者も水を用意してきていたりと、慌てずに対応しているのもあり、良くある光景なのだろうなと思う。
カタカタと静かにゆっくり走り出す馬車の速さも、それを物語ってる。
「グラッセ子爵令息、君も休んだ方が良いのでは?」
「ありがとうございます。私は、熱までは出ておりませんので、このままで大丈夫です」
「そうか。だが、顔色はやはり良くない。無理はしないようにな」
「お気遣い、ありがとうございます」
柔らかな笑みを浮かべて、グラッセ子爵令息が、頭を下げる。
兄妹共に、柔らかなウェーブのかかったハニーブロンドの髪が、頭を下げる仕草だけでも、儚い印象を与える。
と、そこで強い視線を感じ、そちらへと顔を向けると、横になっている香水の君が、じっと俺を見つめていた。
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