あの日のきみと約束を

(^O^)/<ひとし

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高校生編

閑話 とあるモブ客は見た

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私はβだった。
それを初めて聞いた時は歓喜した。

私はこの世界でモブに徹することができる!!!!
強くそう思ったのを今でも覚えている。

とある都市のなんてことはない住宅街、それなりのベータの両親から生まれたベータの私はいつの頃からかαとΩの恋愛に非常に興味を持っていた。これは純粋に愛でたいという溢れんばかりの愛情であり、熱意である。

二次性というものが過去に生み出されてから同性同士の恋愛は普通のことであった、その昔禁忌とされていたと聞いた時は打ち震えた。
大河浪漫…最高…なんじゃそりゃ、萌えるしかないでしょ!!!!男女でしか番えなくて男同士の場合は偏見や差別があったらしいと聞いた。

その昔オメガに対しても酷い差別があったと授業で習ったし、確かに今でもオメガの人たちを見下すクソみたいな奴らはいる。
でも他人を差別してイキがってるやつらって大体劣等感の塊のしょうもない奴らって感じで、今となっちゃダサいの一言に尽きる。

マジョリティだった頃のロマンは感じる、それに自分も周りもベータが多いせいか単純にα×Ωっていう自分にはない『番制度』だったり、強烈に相手を求める感覚が多少は羨ましい気もしてる。

でも私は根っからのモブ気質なのだ。
アルファとオメガの恋愛に自己投影しているわけじゃなく、そう…純粋にモブとしてその様を眺めていたいのだ、いわば壁になりたいし床でも良いし天井なんかになれたら多分私興奮して鼻血が止まらなくなりそう。


****


ベータの女友達数人とよく行くカフェは駅から多少歩いた住宅街の中にあって、チェーン店じゃない個人経営のこじんまりとしたお店。
店内は小綺麗でマスターの人柄が現れるような柔らかい雰囲気がものすごく心地いい。

マスターの礼央さんはオメガの男性で、医師の颯斗さんとは『運命の番』だとか。
礼央さんは美人さんで肩につかないぐらいの薄茶の髪の毛をハーフアップにまとめていて、色白でくっきりとしたアーモンドアイ。
パッと見でクールビューティーに見えるけど、実は気さくで優しい。

オメガの人は綺麗な人が多いと言われていて、テレビで見かける綺麗な人はオメガが多かったりする。

私たちベータが逆立ちしたって叶わない容姿を持ってる人が多いから、高慢な態度な人も多いってのは誰かから聞いた話だ。

でも礼央さんはそんなとこ全然なくて、ほんといい意味で普通に優しい綺麗なマスター。
アルファも圧が強い人が多いし、ちょっと苦手なんだけど礼央さんの番の颯斗さんは物腰柔らかで礼央さんのことを大事にしているのが分かる素敵な人だった。

私たちがそんな二人にハマらない訳がなかった…。
もはやあのカフェは私たちのオアシス…。
日々上司のお小言や仕事に追われる私たちの一服の清涼剤だった…。


そんなカフェに天使が舞い降りたのは去年の春前…。

礼央さんの従兄弟の凛ちゃん…私たちは敬愛の意味も込めて『凛たん』と呼んでいるけど、彼を見た時私たちは雷に打たれたのかと思うほど衝撃が走った。

身長は私たちと同じか少し低く、成長期だからかやや丸みを帯びた頬は桜色で小さな体躯に白い首筋…大きな瞳はヘーゼルに新緑の緑が散らばって、艶々でサラサラの黒髪…赤くぽってりとした唇…。

綺麗というよりはもう…可愛い…最高に可愛い…生物の中で頂点なのでは???は???同じ人間なの???目の前にいるのは天使じゃないの???
そう、初めて見た時は混乱と動揺で友人たちと異常な程語彙力が死んで喋れなくなったのだけは覚えている。

礼央さんと話してる時に見せる笑顔…プライスレス…いや、むしろお金で解決できるなら万札を積みそうになった。
二人で戯れ合う姿を見た時は私は天を仰いだ…鼻血が出そうだったから上を向いて堪えてただけなんだけど。
友人に至っては拝み倒していた。

友人と思しきアルファの男の子と一緒にいる時なんかは過剰な供給に息が止まるかと思ったほどだった。

夏祭りの時に遊びに行けば浴衣姿でアルファの男の子(颯斗さんの弟で大翔くんというらしい)と仲良く並んでる姿を見て手が勝手にシャッターを連写しまくっていた。

そのあと友人たちとは夜通し語り明かしたのも今では良い思い出だ…。

受験生だった二人はお店に手伝いに来ることが減って,私たちは寂しく思いながらも幸せを願っていた。

「凛た…いや、凛ちゃんって受験でしたよね?」
「ああ、そうなんだけどこの前合格発表でね、無事合格してました。」

嬉しそうに礼央さんが言うのを見て私たちもほっこりしてしまった。

「こっちにも手伝いに来て欲しいけど、ヒロくんと付き合うようになってデートで忙しいみたいで…。」

「「「えっ!!!!!!」」」

知らぬ間に二人が付き合っていた…どうせならその様を壁となって見たかった。
つい友人たちも一緒におっきい声を出してしまい、礼央さんがびっくりしていたのですぐさま謝った。

「あ、すみません。あのその凛た…じゃなかった凛さんと大翔さん付き合い始めたんですか?」
「うん、そうなの。去年の冬?あれ?いつだったかな?」
「へ、へぇーー。」

そうか、付き合い始めたのか…。
なるほど…なんだか嬉しいけど天使が大人になってしまったようで少し寂しくも感じる。
でもあの2人お似合いだったもんな~。


あれから数ヶ月、凛たんと大翔くんは全寮制の高校に入学したと礼央さんから聞いた。
アルファとオメガのみが通う超有名な私立の学校で私たちベータには縁のない学校だったけれど、進学校としても有名だったその高校のことはほぼ日本中の人が知っているといっても過言でないほど。
入るのもすごい大変だと聞いたことがある。


****

入学から1ヶ月が経った5月のGWも後半となった今日、久しぶりに凛たんと大翔くんがカフェに手伝いに来ていた。
今日きて…ほんっっっっとよかった!!!!!
GW中旅行に行くと聞いていたのでGWのほとんどが休業だったのだけどGWも終わりかけの今日久しぶりにカフェが開店していた。



「いらっしゃいませ」

今日も天使は可愛かった…それはそれは可愛い…数ヶ月ぶりの凛たん…。
友人達と店内に入る寸前で拝み出すところだった。

「へへ、お久しぶりです。お席窓側でいいですか?」
「あ、え、あ、はい。」

はぁ…あまりの可愛さに挙動不審になってしまったのは許してほしい…。
いや、いつも挙動不審だったわ…。

しかし…数ヶ月会ってなかったけど、凛たんの可愛さに磨きがかかっている気がする。
席に着いた私たちはコソコソと話し始めた。

「凛たん…今日も天使ィ…。」
「でも雰囲気違くない…。」
「思った…滲み出ているのは…もしかして…」
「「「色気…???」」」

ということはだ…彼氏ができた凛たん…数ヶ月ぶりに会ったら可愛さは変わらず、いや前よりも可愛くなっている…そこに来て色気が出ている…。

もしかして…


「凛、コーヒーセットできたから運んで~。」
「うん。」

「凛、補充用の紙ナプキンどこに置いた?」
「あ、大翔、えっとね奥の戸棚のところに…」

奥から出てきたのは凛たんの彼氏大翔くん…前よりもイケメン度が増して…さながら王子のよう…。
高校1年生とは思えない高身長で整った顔立ち、アルファの中のアルファといった恵まれた体躯と容姿。

2人で並んでるところを見ると、本当にお似合いだ。
凛たんを見つめる目は甘くって、愛情が溢れまくっている。

凛たんはカウンター奥の調理場との境のところで大翔くんに向かって戸棚の位置を教えている。

2人が纏うあの雰囲気…間違いない…。
私はすぐに友人に眴をすると2人とも神妙に頷く。

「これは…」
「確定か…」
「天使…」

少し2人で会話したのちに今日のケーキとコーヒーのセットを持って凛たんが席までやってきた。
うん、可愛い…。

「お待たせしましたケーキセットです。ごゆっくりどうぞ。」

その時友人がお手拭きを落としてしまい、凛たんが屈んで取ってくれた…。
そして私は見た…

凛たんの首筋に残るのは…き、キキキ、キスマーク!!!!!!!

はぁあぁあぁぁあ、凛たん…やっぱり大人の階段を昇ってしまったんだね…。

「すぐに代わりの物持ってきますね。」

そうやってカウンターに弾けんばかりの笑顔のまま小走りで戻る凛たんはペンギンみたいで可愛かった…。
うぅっ可愛い…。

天使は大人の階段を昇っても天使だったんだね…。

ひとしきり喋った後、私たちは店を出た。

「凛たん…」
「今日も最高に可愛かった…。」
「大人の階段を登ろうとも…凛たんの可愛さに変わりなし…。」



「「「飲むか…。」」」


そうして友人達としこたま酒を買い込み私の部屋で夜通し凛たんの可愛さを語り合い夜を明かした。
今後とも、『凛たんを愛でるモブ』改め『凛たんと大翔くんの恋路を見守るモブ』としてひっそり見守ることを私たちは固く誓い合った…。
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