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高校生編
19 夢か現か…
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今日のこれは明晰夢なのか…いや、これは過去の回想だ。
僕はカナダの1番人口の多い都市で生まれて、育った。
これは多分2~3歳の頃だと思う。
よく見る夢だとずっと思ってた。
でもこれは夢じゃない気がするっていつから感じてのかな。
その男の子は、ふわふわとした髪の毛でキリッとした目鼻立ちで、大きくなったらイケメンに育ちそうだな…なんて思ってた。
ちょっと大翔に似てるかも。
そう、大翔に似てるんだ。
男の子は数週間だけカナダに滞在してた。
たまたま迷子になってるところを僕が見つけたんだ。
泣きそうな顔で、少し寂しそうな…昨日の大翔の表情によく似てた。
僕は男の子からする甘い香りが好きだった。
彼も僕の匂いがいい匂いだねって笑ってた。
まだフェロモンの匂いはしないはずなのに、どうしてだか彼からは甘い香りがしてた。
男の子は帰る時に僕にぬいぐるみをくれたんだ、真っ白なテディベア。
僕と同じぐらいの大きさの、ふわふわした…真っ白なぬいぐるみ。
あれはまだカナダの家に置いてある。
持って行こうか迷ったけど、スーツケースには入らなかったから今度送って欲しいって家族に頼んだんだ。
僕がシロクマを好きになったのって、あのぬいぐるみをもらったからだった気がする。
あの男の子の名前はなんて言ったっけ…。
僕はなんで昔のことを忘れてしまったんだっけ…。
すごく大切なことなのに、宝物みたいな時間だったはずなのに、なんで…思い出せないんだろう。
****
朝目が覚めるといつも通りの寮のベッドで、スマホには家族から入学式おめでとうの連絡が来ていた。
次の夏休みはカナダに帰ってきて欲しいって書かれてた。
あと、ずっと送り忘れてたぬいぐるみと僕が好きだったお菓子や服なんかを送ったから1週間ぐらいで届くはずだと書かれていた。
僕はお礼のメールを打って朝の支度に取り掛かった。
++++
またいつもの夢だと思った。
俺が小さい頃の、多分…記憶。
小学生の頃に飲まされた薬のせいで高熱を出し生死を彷徨ったおかげて以前の記憶は歯抜けになった。
海外の大きなショッピングモールで大人達と逸れてしまった俺を助けたのは、可愛らしい女の子だった。
さらさらの黒髪は肩ぐらいまであって、目は薄い茶色で新緑が所々に散っている。
ほっぺたは桜色に染まってて、真っ白な手で僕の頭を撫でて「大丈夫だよ」って可愛い声で話しかけてくれた。
今思えば凛にそっくりだ。
あの目…、でも女の子だったはず。
それに俺よりも年下だと思う、体も小さかったし。
俺が滞在してたホテルの近くに住む女の子の家に、お礼がてら親と向かってそこで遊ぶようになった。
親同士は直接仕事の関係はなかったみたいだけど、向こうの親も有名な企業の家系らしく仕事の話をしていたし、うちの親は視察で来ていたから良ければその間預かると申し出てくれた。
日本に帰るまでの数週間はその子とよく遊んだ。
女の子はよく僕の匂いを嗅いでいい匂いだねって笑ってくれた。
俺もその子の匂いが大好きだった、花やミルクみたいに甘くって優しくって安らぐ匂い。
凛の香りに似てる。
もしかして、あの子は凛なんじゃないか…。
今日改めて夢を見た事でなんとなく、そう思う。
あの子の名前はなんて言った?
凛はこの事覚えているの?
たしか、俺は帰る間際にぬいぐるみを渡したんだ…真っ白な…おっきなぬいぐるみ…。
あの子と別れる時俺はなんて言ったっけ…。
****
久しぶりあの夢を見た…。
あの場所はどこだった?もし、あれが凛の住んでいたカナダだったら?
子供の頃の記憶が抜けていることを、今日ほど悔しいと思ったことはない。
どうして、思い出せないんだろう。
あと少しなのに…。
枕元のスマホを手に取り柴田へ進捗の確認と昨日凛に危害を加えた生徒について連絡する。
加害者の生徒は六浦の関係者の中にいるはずだ、もし…影森の息のかかったものであれば…。
影森の件は颯斗にも調査を依頼しているし、近々わかるだろう。
すべて片付いたら…凛に全てを話そうと思う。
俺は一つ息を吐いて、朝の支度をしようとすると凛からメッセージが来た。
ーー
RIN:大翔おはよう。今日早く起きちゃったから、お弁当作ろうと思うんだけど…。
RIN:作ったら食べてくれる?
ーー
画面を見てちょっとニヤついてしまった。
凛が作ったものを俺が断るわけないのに、多分このメッセージを送りながら凛は少し顔を赤くして眉尻を下げて不安そうな顔をしてるんだろうな…。
俺の中で優先順位は凛が常に1番なんだけど、何故か凛は何か頼んだり、伺ったりする時に躊躇する癖がある。
昨日の一件もそうだ。
俺はすぐに凛から聞きたかったのに、凛は俺が忙しいとか心配をかけたくないと引いてしまう。
まあ、それについては今後ゆっくりと教え込んでいくつもりだから、良いのだけど。
昨日もつい泣かせてしまったし…。
まあ、その後の凛があまりにも可愛かったから全部吹き飛んでしまったんだけど。
ーー
HIRO:おはよう。もちろん食べるよ。
HIRO:凛の作る弁当楽しみにしてる。
ーー
あまりにも画面を見る目がニヤついていたのか、寝起きの豊杜に思いっきり怪訝な表情をされてしまった。
「お前もそんな顔すんのな。」
「そんな顔ってなんだよ。」
「その締まりのねー顔だよ。どうせ相手は凛ちゃんだろ?」
「ああ。」
「かぁーー!お熱いことで!良いなー凛ちゃん。可愛いし、特Aに来るぐらいだから頭もいい。ちょっと天然ぽいけど、そこも含めて可愛い。」
「当たり前だろ?」
「でもまぁお前も大変だよなー。影森なんかに付き纏われて…、でもあいつ…オメガだったのか…。」
「どういうことだ?」
「いや…あいつんち全員父親は底辺アルファらしいけど、母親も兄弟もベータなんだよな…。それに…数年前はあんな匂いしなかったんだよな…。」
「確かに…、中学に入ってからちょっとしてだったか…あの悪臭がするようになったのは…。」
「悪臭って。」
そう言いながら豊杜は爆笑してる。
爆笑してるってことはお前も思ってんじゃないか。
「颯斗にそこら辺は調査してもらってるよ。」
「あぁ、なるほど颯斗さんなら分かるかもななんてったってバース研究では世界でも十指に入るって噂だもんな。」
「ああ、町医者みたいなこともしてるけどな。」
「ははっ颯斗さんらしいというか何というか。」
「豊杜は颯斗のこと好きだよな。」
「言い方に語弊があるな、尊敬してるんだよ。」
普段はチャラい物言いばかりする豊杜だけど、根は真面目で憎めないやつだ、おべっかを使うこともせず俺と対等にしてくれる数少ない存在だと思う。
まぁ、大半は喧嘩みたいになるんだが…。
二人で支度をし、俺は凛を迎えにオメガ寮の方へ向かう。
「お、今日もお迎えか!」
「ああ、昨日凛が寮内でトラブルに巻き込まれたらしくてな…。」
「まぁ、お前の横に立つんだ多少なりともやっかみはあるだろうな。俺はちょっと医務室行ってくるわ。」
「?体調悪いのか?」
「いや、ちょっと確かめたいことがある。」
そう言って豊杜は医務室へと向かって行ってしまった。
俺は凛にメッセージを飛ばし、もうすぐ着くと伝えるとすぐに「了解」のスタンプが飛んできた。
++++
お弁当よし!!制服もよし!!髪型も大丈夫!!
鏡の前で準備をしていると、明くんが何とも言えない顔でこっちを見ていた。
「え、あ!邪魔だった?ごめん!使うよね。」
「いーや、僕はもう準備終わってるから大丈夫!」
「そう?」
じゃあなんでこっちをそんな見るんだろうか、首を傾げながらカバンの中身を確認して肩にかける。
お弁当は二つ入れると重いからお弁当用のサブバッグに入れた。
「凛はさぁ、可愛いよね。」
「え!?何急に!!」
「六浦くんと会う時さ身嗜み整えてさ、お弁当なんて作っちゃって…嫁じゃんもう」
「よ!よめ!!ち、ちがうよ!!」
身嗜みは、人前に出るなら…いやまぁ、大翔と会う時はいつもより入念にチェックしてるかも…。
お弁当は…自分の分作るし…この前作り置き作っといたし…大翔は他の食事だと美味しく感じないっていうし…。
つらつらと言い訳ばっかり出てきちゃうな。
でも…嫁って!!付き合ってる(仮)状態なんだけど…。
「もう、嫁でいいじゃん。めちゃくちゃ大事にされてるし。」
「ぅ…、僕も…そうなれたらいいなって…最近思う。」
「なれるでしょ。」
「だといいな。」
本当にそう思う。
毎日大翔と一緒にいて、ご飯食べて、夜は一緒に眠る。
そうなれたらいいのに。
今日も二人で登校して、勉強して…。
お弁当をカフェテリアで食べた。
平和な時間だった。
大翔とは行き帰りも、教室でも、いつでも一緒にいた。
勉強は大変だったけど、学ぶことはとても楽しい。
この学校に入れてよかった。
****
そんな感じで数週間が経ったある日のお昼の時間…。
大翔は先生に呼ばれたからと職員室に行っている。
その間に僕はお弁当箱を持ってカフェテリアへと急いだ。
はずだったんだけど、これは…もしかして非常にまずいのでは無いだろうか…。
僕の前には知らない生徒達。
多分別のクラスのアルファだろうか、随分とガタイがいい。
ここはどこだろうか…薄暗い、来たこともない空き教室のようだ。
なんでこんなことになったのか、いつもだったら大翔が近くにいたし…明くんなりクラスの人がいつも一緒にいたから僕が一人になることはなかった。
今日たまたま明くんがお昼に委員の仕事があると図書室へ行き、大翔は呼び出されていたしカフェテリアに向かうだけだからと一人で廊下を歩いていたら突然変な薬を嗅がされて気づいた時にはここにいた。
僕の背中を冷や汗が垂れるのがわかった。
非常にまずい…だけど、僕は運動に関してはからっきしだし、体躯から考えて腕で勝てるとも思えない。
スマホは抜き取られていて手元にはない。
ものすごく状況が悪い。
それだけは分かった。
どうにかしてこの状況を脱したい…大翔は今どうしてるだろうか…。
僕はこのあと何が起きるのかわからず項垂れた。
++++
「六浦どうした?」
「え?先生が呼んでいるからと伝言をもらっていたんですが。」
「?呼んでないけどな…。」
まさかと思った。
もしかして、凛と俺を引き離すための罠…?
その時スマホが着信を知らせた。
画面を見ると『颯斗』の文字が見える。
担任に挨拶をして職員室を足早に出ると受話マークを押した。
「大翔?お昼休みにごめん、わかったよ。」
「颯斗…今ちょっとまずいことになってる。」
「なに?どうしたの?」
「凛に何かあってかもしれない。」
「どういうこと!?」
俺は今起きたこと、そして起きているであろうことを颯斗に伝えた。
「まさか、調べてるのがバレたか…いや、そんなはずは…。」
「ちょっと…凛の状況を確認したい。すぐ折り返す。」
「私も調べよう、柴田をそちらに向かわせるから。」
「ああ、頼む。」
柴田からの報告は昨晩貰っていた、あとはもう一つ…それはきっと颯斗が証拠を掴んでるはずだ。
凛のスマホに電話をしてみるが電源が入っていないとアナウンスが流れる。
いつもであれば絶対そんなことはない。
俺は足早に教室へと戻る。
「り、いや芦屋くんならカフェテリアに行くって20分前ぐらいに出たけど。着いて行くって言ったんだけど断られちゃって。」
「おい、大翔どうした。」
「豊杜…凛が…連れ去られたかもしれない。」
「なに!?」
「俺への呼び出しは嘘だった…。それに今日は九条もいない。」
「電話は!?」
「通じない…。」
「クソっ…俺も探す。」
「僕たちも探すよ。」
「すまない。」
豊杜とクラスメイト達は凛を探すのを手伝ってくれた。
探しながら九条に連絡すると図書室には来てないと言われた…。
じゃあ、やっぱりカフェテリアに向かう途中で何かあったのかもしれない。
目を離すべきじゃなかった…。
もし、凛に何かあれば…俺は…。
「おい、大翔しっかりしろ!俺は一旦医務室に向かう…もしかしたらなんか薬使われる可能性がないわけじゃないからな…。」
「…ック…そうだな…。」
どこにいる…凛は…今どこにいるんだ…。
医務室に向かう豊杜の背中を見ながら、俺は両手を傷が付くほどに握りしめた。
++++
僕は項垂れたまま床に座っている。
手足と口ををガムテープで拘束されていて話すことはできない。
僕を攫ってきた生徒も何も言わず、椅子に腰掛けている。
どれくらい時間が経っただろうか…大翔は僕がいない事に気付いているだろうか。
もし番だったら僕に何かあった時わかるんだって、前に颯斗さんに言われたことがあったな。
そういえば、昔…小さい頃にもこんなことがあった気がする。
あの時も、僕は縛られていて…地下室に…。
「まだ時間かかりそうだな。」
「眠らしとくか。」
見知らぬ生徒が僕のそばに来て何かの薬品を嗅がせようとする、僕は必死に首を横に振って抗うけど髪の毛を思いっきり引っ張られ頬を平手で殴られた。
脳が揺れるほど強く叩かれて、放心した僕の口にあるガムテープを引き剥がして鼻と口を押さえるように布が充てがわれる。
いやだ!助けて!!!
声に出したいのに、僕の意識は次第に白んでいく。
「…ひろ、と」
僕グッタリとして床に寝そべった。
僕はカナダの1番人口の多い都市で生まれて、育った。
これは多分2~3歳の頃だと思う。
よく見る夢だとずっと思ってた。
でもこれは夢じゃない気がするっていつから感じてのかな。
その男の子は、ふわふわとした髪の毛でキリッとした目鼻立ちで、大きくなったらイケメンに育ちそうだな…なんて思ってた。
ちょっと大翔に似てるかも。
そう、大翔に似てるんだ。
男の子は数週間だけカナダに滞在してた。
たまたま迷子になってるところを僕が見つけたんだ。
泣きそうな顔で、少し寂しそうな…昨日の大翔の表情によく似てた。
僕は男の子からする甘い香りが好きだった。
彼も僕の匂いがいい匂いだねって笑ってた。
まだフェロモンの匂いはしないはずなのに、どうしてだか彼からは甘い香りがしてた。
男の子は帰る時に僕にぬいぐるみをくれたんだ、真っ白なテディベア。
僕と同じぐらいの大きさの、ふわふわした…真っ白なぬいぐるみ。
あれはまだカナダの家に置いてある。
持って行こうか迷ったけど、スーツケースには入らなかったから今度送って欲しいって家族に頼んだんだ。
僕がシロクマを好きになったのって、あのぬいぐるみをもらったからだった気がする。
あの男の子の名前はなんて言ったっけ…。
僕はなんで昔のことを忘れてしまったんだっけ…。
すごく大切なことなのに、宝物みたいな時間だったはずなのに、なんで…思い出せないんだろう。
****
朝目が覚めるといつも通りの寮のベッドで、スマホには家族から入学式おめでとうの連絡が来ていた。
次の夏休みはカナダに帰ってきて欲しいって書かれてた。
あと、ずっと送り忘れてたぬいぐるみと僕が好きだったお菓子や服なんかを送ったから1週間ぐらいで届くはずだと書かれていた。
僕はお礼のメールを打って朝の支度に取り掛かった。
++++
またいつもの夢だと思った。
俺が小さい頃の、多分…記憶。
小学生の頃に飲まされた薬のせいで高熱を出し生死を彷徨ったおかげて以前の記憶は歯抜けになった。
海外の大きなショッピングモールで大人達と逸れてしまった俺を助けたのは、可愛らしい女の子だった。
さらさらの黒髪は肩ぐらいまであって、目は薄い茶色で新緑が所々に散っている。
ほっぺたは桜色に染まってて、真っ白な手で僕の頭を撫でて「大丈夫だよ」って可愛い声で話しかけてくれた。
今思えば凛にそっくりだ。
あの目…、でも女の子だったはず。
それに俺よりも年下だと思う、体も小さかったし。
俺が滞在してたホテルの近くに住む女の子の家に、お礼がてら親と向かってそこで遊ぶようになった。
親同士は直接仕事の関係はなかったみたいだけど、向こうの親も有名な企業の家系らしく仕事の話をしていたし、うちの親は視察で来ていたから良ければその間預かると申し出てくれた。
日本に帰るまでの数週間はその子とよく遊んだ。
女の子はよく僕の匂いを嗅いでいい匂いだねって笑ってくれた。
俺もその子の匂いが大好きだった、花やミルクみたいに甘くって優しくって安らぐ匂い。
凛の香りに似てる。
もしかして、あの子は凛なんじゃないか…。
今日改めて夢を見た事でなんとなく、そう思う。
あの子の名前はなんて言った?
凛はこの事覚えているの?
たしか、俺は帰る間際にぬいぐるみを渡したんだ…真っ白な…おっきなぬいぐるみ…。
あの子と別れる時俺はなんて言ったっけ…。
****
久しぶりあの夢を見た…。
あの場所はどこだった?もし、あれが凛の住んでいたカナダだったら?
子供の頃の記憶が抜けていることを、今日ほど悔しいと思ったことはない。
どうして、思い出せないんだろう。
あと少しなのに…。
枕元のスマホを手に取り柴田へ進捗の確認と昨日凛に危害を加えた生徒について連絡する。
加害者の生徒は六浦の関係者の中にいるはずだ、もし…影森の息のかかったものであれば…。
影森の件は颯斗にも調査を依頼しているし、近々わかるだろう。
すべて片付いたら…凛に全てを話そうと思う。
俺は一つ息を吐いて、朝の支度をしようとすると凛からメッセージが来た。
ーー
RIN:大翔おはよう。今日早く起きちゃったから、お弁当作ろうと思うんだけど…。
RIN:作ったら食べてくれる?
ーー
画面を見てちょっとニヤついてしまった。
凛が作ったものを俺が断るわけないのに、多分このメッセージを送りながら凛は少し顔を赤くして眉尻を下げて不安そうな顔をしてるんだろうな…。
俺の中で優先順位は凛が常に1番なんだけど、何故か凛は何か頼んだり、伺ったりする時に躊躇する癖がある。
昨日の一件もそうだ。
俺はすぐに凛から聞きたかったのに、凛は俺が忙しいとか心配をかけたくないと引いてしまう。
まあ、それについては今後ゆっくりと教え込んでいくつもりだから、良いのだけど。
昨日もつい泣かせてしまったし…。
まあ、その後の凛があまりにも可愛かったから全部吹き飛んでしまったんだけど。
ーー
HIRO:おはよう。もちろん食べるよ。
HIRO:凛の作る弁当楽しみにしてる。
ーー
あまりにも画面を見る目がニヤついていたのか、寝起きの豊杜に思いっきり怪訝な表情をされてしまった。
「お前もそんな顔すんのな。」
「そんな顔ってなんだよ。」
「その締まりのねー顔だよ。どうせ相手は凛ちゃんだろ?」
「ああ。」
「かぁーー!お熱いことで!良いなー凛ちゃん。可愛いし、特Aに来るぐらいだから頭もいい。ちょっと天然ぽいけど、そこも含めて可愛い。」
「当たり前だろ?」
「でもまぁお前も大変だよなー。影森なんかに付き纏われて…、でもあいつ…オメガだったのか…。」
「どういうことだ?」
「いや…あいつんち全員父親は底辺アルファらしいけど、母親も兄弟もベータなんだよな…。それに…数年前はあんな匂いしなかったんだよな…。」
「確かに…、中学に入ってからちょっとしてだったか…あの悪臭がするようになったのは…。」
「悪臭って。」
そう言いながら豊杜は爆笑してる。
爆笑してるってことはお前も思ってんじゃないか。
「颯斗にそこら辺は調査してもらってるよ。」
「あぁ、なるほど颯斗さんなら分かるかもななんてったってバース研究では世界でも十指に入るって噂だもんな。」
「ああ、町医者みたいなこともしてるけどな。」
「ははっ颯斗さんらしいというか何というか。」
「豊杜は颯斗のこと好きだよな。」
「言い方に語弊があるな、尊敬してるんだよ。」
普段はチャラい物言いばかりする豊杜だけど、根は真面目で憎めないやつだ、おべっかを使うこともせず俺と対等にしてくれる数少ない存在だと思う。
まぁ、大半は喧嘩みたいになるんだが…。
二人で支度をし、俺は凛を迎えにオメガ寮の方へ向かう。
「お、今日もお迎えか!」
「ああ、昨日凛が寮内でトラブルに巻き込まれたらしくてな…。」
「まぁ、お前の横に立つんだ多少なりともやっかみはあるだろうな。俺はちょっと医務室行ってくるわ。」
「?体調悪いのか?」
「いや、ちょっと確かめたいことがある。」
そう言って豊杜は医務室へと向かって行ってしまった。
俺は凛にメッセージを飛ばし、もうすぐ着くと伝えるとすぐに「了解」のスタンプが飛んできた。
++++
お弁当よし!!制服もよし!!髪型も大丈夫!!
鏡の前で準備をしていると、明くんが何とも言えない顔でこっちを見ていた。
「え、あ!邪魔だった?ごめん!使うよね。」
「いーや、僕はもう準備終わってるから大丈夫!」
「そう?」
じゃあなんでこっちをそんな見るんだろうか、首を傾げながらカバンの中身を確認して肩にかける。
お弁当は二つ入れると重いからお弁当用のサブバッグに入れた。
「凛はさぁ、可愛いよね。」
「え!?何急に!!」
「六浦くんと会う時さ身嗜み整えてさ、お弁当なんて作っちゃって…嫁じゃんもう」
「よ!よめ!!ち、ちがうよ!!」
身嗜みは、人前に出るなら…いやまぁ、大翔と会う時はいつもより入念にチェックしてるかも…。
お弁当は…自分の分作るし…この前作り置き作っといたし…大翔は他の食事だと美味しく感じないっていうし…。
つらつらと言い訳ばっかり出てきちゃうな。
でも…嫁って!!付き合ってる(仮)状態なんだけど…。
「もう、嫁でいいじゃん。めちゃくちゃ大事にされてるし。」
「ぅ…、僕も…そうなれたらいいなって…最近思う。」
「なれるでしょ。」
「だといいな。」
本当にそう思う。
毎日大翔と一緒にいて、ご飯食べて、夜は一緒に眠る。
そうなれたらいいのに。
今日も二人で登校して、勉強して…。
お弁当をカフェテリアで食べた。
平和な時間だった。
大翔とは行き帰りも、教室でも、いつでも一緒にいた。
勉強は大変だったけど、学ぶことはとても楽しい。
この学校に入れてよかった。
****
そんな感じで数週間が経ったある日のお昼の時間…。
大翔は先生に呼ばれたからと職員室に行っている。
その間に僕はお弁当箱を持ってカフェテリアへと急いだ。
はずだったんだけど、これは…もしかして非常にまずいのでは無いだろうか…。
僕の前には知らない生徒達。
多分別のクラスのアルファだろうか、随分とガタイがいい。
ここはどこだろうか…薄暗い、来たこともない空き教室のようだ。
なんでこんなことになったのか、いつもだったら大翔が近くにいたし…明くんなりクラスの人がいつも一緒にいたから僕が一人になることはなかった。
今日たまたま明くんがお昼に委員の仕事があると図書室へ行き、大翔は呼び出されていたしカフェテリアに向かうだけだからと一人で廊下を歩いていたら突然変な薬を嗅がされて気づいた時にはここにいた。
僕の背中を冷や汗が垂れるのがわかった。
非常にまずい…だけど、僕は運動に関してはからっきしだし、体躯から考えて腕で勝てるとも思えない。
スマホは抜き取られていて手元にはない。
ものすごく状況が悪い。
それだけは分かった。
どうにかしてこの状況を脱したい…大翔は今どうしてるだろうか…。
僕はこのあと何が起きるのかわからず項垂れた。
++++
「六浦どうした?」
「え?先生が呼んでいるからと伝言をもらっていたんですが。」
「?呼んでないけどな…。」
まさかと思った。
もしかして、凛と俺を引き離すための罠…?
その時スマホが着信を知らせた。
画面を見ると『颯斗』の文字が見える。
担任に挨拶をして職員室を足早に出ると受話マークを押した。
「大翔?お昼休みにごめん、わかったよ。」
「颯斗…今ちょっとまずいことになってる。」
「なに?どうしたの?」
「凛に何かあってかもしれない。」
「どういうこと!?」
俺は今起きたこと、そして起きているであろうことを颯斗に伝えた。
「まさか、調べてるのがバレたか…いや、そんなはずは…。」
「ちょっと…凛の状況を確認したい。すぐ折り返す。」
「私も調べよう、柴田をそちらに向かわせるから。」
「ああ、頼む。」
柴田からの報告は昨晩貰っていた、あとはもう一つ…それはきっと颯斗が証拠を掴んでるはずだ。
凛のスマホに電話をしてみるが電源が入っていないとアナウンスが流れる。
いつもであれば絶対そんなことはない。
俺は足早に教室へと戻る。
「り、いや芦屋くんならカフェテリアに行くって20分前ぐらいに出たけど。着いて行くって言ったんだけど断られちゃって。」
「おい、大翔どうした。」
「豊杜…凛が…連れ去られたかもしれない。」
「なに!?」
「俺への呼び出しは嘘だった…。それに今日は九条もいない。」
「電話は!?」
「通じない…。」
「クソっ…俺も探す。」
「僕たちも探すよ。」
「すまない。」
豊杜とクラスメイト達は凛を探すのを手伝ってくれた。
探しながら九条に連絡すると図書室には来てないと言われた…。
じゃあ、やっぱりカフェテリアに向かう途中で何かあったのかもしれない。
目を離すべきじゃなかった…。
もし、凛に何かあれば…俺は…。
「おい、大翔しっかりしろ!俺は一旦医務室に向かう…もしかしたらなんか薬使われる可能性がないわけじゃないからな…。」
「…ック…そうだな…。」
どこにいる…凛は…今どこにいるんだ…。
医務室に向かう豊杜の背中を見ながら、俺は両手を傷が付くほどに握りしめた。
++++
僕は項垂れたまま床に座っている。
手足と口ををガムテープで拘束されていて話すことはできない。
僕を攫ってきた生徒も何も言わず、椅子に腰掛けている。
どれくらい時間が経っただろうか…大翔は僕がいない事に気付いているだろうか。
もし番だったら僕に何かあった時わかるんだって、前に颯斗さんに言われたことがあったな。
そういえば、昔…小さい頃にもこんなことがあった気がする。
あの時も、僕は縛られていて…地下室に…。
「まだ時間かかりそうだな。」
「眠らしとくか。」
見知らぬ生徒が僕のそばに来て何かの薬品を嗅がせようとする、僕は必死に首を横に振って抗うけど髪の毛を思いっきり引っ張られ頬を平手で殴られた。
脳が揺れるほど強く叩かれて、放心した僕の口にあるガムテープを引き剥がして鼻と口を押さえるように布が充てがわれる。
いやだ!助けて!!!
声に出したいのに、僕の意識は次第に白んでいく。
「…ひろ、と」
僕グッタリとして床に寝そべった。
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