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中学生編
閑話 バレンタインはきみと【後編】
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昨日はお風呂から上がったあと、大翔のベッドで抱き合って眠った。
大翔が僕を抱きしめて。
僕も大翔を抱きしめた。
朝目が覚めると、大翔はまだ眠っていた。
寝ている時の大翔はとてもあどけない顔をしていて、すごく可愛い。
ふわふわの髪の毛に指を入れて、頭をそっと撫でて大翔の額に口付ける。
そうするの、長いまつ毛が揺れて大翔と目が合う。
僕を見つけたその目はゆっくり細められて、少し掠れた声で「おはよう。」って言う。
僕も「おはよう。」って返して、2人でちょっと照れ笑いをする。
すごく幸せな時間。
僕はちょっと布団に潜り込むようにして大翔の胸に耳をくっつけると、大翔の拍動が聞こえてくる。
僕の頭を撫でて、旋毛にキスをしてくれる。
今日はバレンタインデー。
午前中から出掛けるから、早く起きなきゃ。
「凛、そろそろ起きる?」
「うん。」
2人で起きて、寝室の隣にある洗面台で顔を洗って歯を磨く。
軽くキスをして。
くっつきながら移動して、着替えて。
2人でまたくっつきながら1階の食堂に行くと、すでにパパさんとママさんがいて朝食を食べていた。
「おはよう。今日も仲良しねー。」
「おはよう。凛くん、大翔。」
「おはようございます。」
「おはよ。」
少し気恥ずかしくなりながら朝ごはんをたべる。
「今日は2人ともどこにいくの?」
「今日は水族館に行こうと思って。」
「あら、ショー見るなら寒いから膝掛け持っていった方がいいわよ。」
「はい。」
今日は水族館に行こうって前から決めていた。
前に2人で行きたいねって話してたから。
ママさんに言われた通りに少し厚着できるようにシャツの上にカーデガンを着て、コートを羽織る。
僕は大翔がくれたマフラーをして、大翔は僕があげた手袋をしてくれた。
手を繋いで玄関を出ると、柴田さんが既に車の所で待っていた。
今日行くのは海の近くにある、おっきな水族館。
ここからはちょっと遠くて車で1時間近くかかる。
「今日は随分と…。」
「何だ柴田。」
「いや、…なんでもないです。」
柴田さんは何かを察したのか深くは追及して来なかったけど、なんだか意味深な目線を大翔に投げていた。
****
今日は平日だからか比較的水族館は空いていた。
柴田さんは外で待っていてくれるらしい。
「勝手にしてますんで、なんかあったら電話してくださいね。」
そう言っていた。
柴田さんも本当だったら家族と来たいよね。
僕らは手を繋いだまま、水族館の中を見て回る。
ショーはあと30分後らしいから、それまで中を順番に見ていく。
最初に出迎えてくれたのは小さなカクレクマノミだった。
本当に小さくてかわいい。
あとは大きなホッキョクグマもいた。
のそのそと大きな体を揺らして歩いたかと思うと、次には犬かきの要領で水の中をおよいでいる。
僕はホッキョクグマが好きなので、じっと観察するように見つめていたら大翔が頭を撫でてくる。
「どうしたの?」
「ん?いや…、凛はシロクマ好きなの?」
「うん。可愛いよね腕太くて。」
「そこなの?可愛いポイント…。」
腕太いのって可愛くない?大型犬とか子供の頃から足ずっしりしてて、手はクリームパンみたいで可愛いと思うんだけどな。
次は大きな水槽の前に来た。僕らの何倍もの高さのある水槽にたくさんのイワシの群れ。
サメやエイも泳いでる。
群れで泳ぐイワシがキラキラと輝いていて本当に綺麗だった。
「凛、上に行こうか。」
「うん。」
上に上がるのは水槽の中をトンネルみたいにくぐっていくエスカレーター。
まるで海の中にいるみたいですごく綺麗だった。
僕を一段上に立たせた大翔は僕の腰から前に手を回してきてくっついてる。
僕は回された腕に手を重ねながらキョロキョロと水槽の中を見回す。
「きれいだね。」
「そうだな。」
20cmほど背が高くなった僕だけど、それでやっと大翔と同じぐらいの背丈で、後ろを振り向くと大翔の顔がすぐそこにある。
「なんかおんなじぐらいの身長ってすごい新鮮。」
「そうか?」
僕は振り向いたまま大翔の頬に軽くキスをする。
普段の身長差だと屈んでもらわないとできないから。
「こういうの、いつもできないから。」
「フッ…確かに、新鮮かも。」
大翔はそう言ってお返しに僕の頬にの軽くキスをしてくれた。
「ねぇ、大翔!カワウソタッチだって!」
「へぇ、カワウソに餌をあげられて、さらに手を触れるのか。やってみるか?」
「うん!」
今人気のカワウソだけど、ここもそこまで人はいなかった。
小魚をあげて、手にタッチする。
けっこうエグい顔して魚食べるんだな…。普段は可愛いのに…。
「食べてるとこ以外は凛に似てる。」
「え!僕こんな顔してる?」
「むくれた顔がそっくり。」
そう言って大翔は人差し指で僕の頬を押した。
むくれてるとカワウソに似てるの?
それって喜んで良いのかな…。
「かわいいよ。」
「うっ…。」
前は『可愛い』って言われるのが苦手だったはずなのに、大翔が『可愛い』って言ってくれるのが今は嬉しくなっちゃうんだから困る。
そんな甘い顔して僕のこと見ないでよ…。
大翔が笑顔で僕を見ると、何故か飼育員のお姉さんの顔が赤くなる。
繋がれたままだった手を指を絡めるように繋ぎ直す。
所謂『恋人繋ぎ』ってやつ。
自然と体が大翔と近くなるからこっちの繋ぎ方の方が好きかも。
そう思いながら手指をにぎにぎとすると、大翔は少し照れたのか目元が赤くなっている。
ふふ。
「大翔可愛い。」
「可愛いは少し複雑だな…。」
「へへへ、いつもはかっこいいんだよ?でもちょっと照れてる大翔は可愛い。」
すると大翔は握った手を引っ張って僕の体を引き寄せると、こめかみに軽く口付けた。
大翔はにっこりと笑っている。
大翔の笑顔が見れるの本当に嬉しくて、楽しい。
もうすぐショーが開演するらしく、館内にアナウンスが流れた。
館内は人がまばらだったけどショーだからか、人が結構集まっていた。
僕たちは中央の少し上の席に座る。
外はママさんに言われて持ってきた膝掛けが役に立ちそうな寒さだった。
お手伝いさんが小さなホッカイロも入れてくれてたからそれを大翔に渡して、少し大きめの膝掛けを2人で並んで掛ける。
「凛、これ使って。」
「…?大翔片手だけになっちゃうよ?」
大翔は僕に左手だけ手袋を貸してくれたので、返そうとすると、大翔の左手が僕の右手をぎゅっと握って膝掛けの下に潜り込んだ。
「こうすれば寒くないから、だからそっちだけつけて。」
そう言って大翔は僕の左手に手袋をつけてくれた。
さっきまで使ってた大翔の体温で手袋はほんのりあったかい。
素手のままだった手を再び恋人繋ぎにして、膝掛けの下で温める。
周りも、僕たちもみんなカップルたちは寄り添って、互いの熱で暖を取るみたいにしてる。
軽快な音楽と元気な飼育員さんの声が場内に響き渡って、ショーが始まった。
****
久しぶりにイルカのショーをみたかも。
可愛いし頭いいし、ジャンプも揃っててすごかった。
僕はちょっと興奮しつつ大翔に感想を話している。
少し休憩がてら来たカフェで、冷えた体を温めつつ僕らはお昼も食べずに水族館を回っていたのでお昼は中華街に行こうってことになった。
カフェを出て歩いている途中で見かけたお土産物屋さんに、でっかいシロクマのぬいぐるみを見つけた。
「大翔…。」
「どうした?」
「ちょっと見てもいい?」
そいうって大翔の手を引っ張ってお土産物屋さんへ向かう。大きなシロクマのぬいぐるみはふかふかと柔らかく毛並みも気持ちい。
か…かわいい…。
姉の影響かぬいぐるみが好きなんだけどあんまり持ってないんだよね。
まぁ、高校生にもなるのにぬいぐるみってのもなぁ。
本当は欲しい…今日の記念に…でもなぁ…。
両手でシロクマのほっぺたを潰してふかふかを堪能したあとそっと商品を棚に戻す。
「凛、買わないの?」
「え?うーん。おっきいし、それに高校生にもなってぬいぐるみってのもなぁって思って。」
「でも好きなんでしょ?」
「え?あ、うん。」
「そしたら、俺がプレゼントしたら貰ってくれる?」
「えっ?」
「俺が凛にあげたいからプレゼントする。だから貰ってくれるか?」
こう言うことさらっとしてくれるの、すごく嬉しい。
僕が欲しいけど躊躇って諦めたことをわかってくれてるんだと思う。
それをあの言い回しで言われたら僕は断れない。
それを狙ってやってくれてるんだと思うとすごく嬉しい。
「大翔からのプレゼントなら喜んで受け取るし、大事にする。」
「よかった。」
大翔は僕がさっきまで悩んでいたシロクマを手に取るとレジまで向かった。
「大翔、ありがとう。」
「どういたしまして。」
へへへと笑った僕は大翔の手をぎゅっと握りしめて駐車場まで歩いた。
心がふわふわする。嬉しくて、楽しくて、ずっと大翔の隣にいたくなるぐらい心があったかい。
いつの間にか柴田さんに連絡を取っていたんだろうか、すでに柴田さんは車に戻っていて僕らが近づくと後部座席の扉を開けて待っていてくれた。
「楽しまれましたか?」
「はい!」
「お昼を軽く中華街付近で食べようと思うんだが。」
「承知しました。」
****
「今日の夜はお肉も魚もあるので…ちょっと軽めにしたいんだけど。」
「そうだな、じゃあ甘いものがあるところに行くか。」
そう言って中華街の程近くにある路地へと車が入っていく。
お店に駐車場は無いらしいので近くのコインパーキングに停めて歩いて向かう。
お店はこじんまりとしているけど少し高級そうなケーキ屋さん?かな…?
「いらっしゃいませ、カフェのご利用ですか?」
「はい。」
「では、こちらへどうぞ。」
入ってきた大翔の顔を見て一瞬だけ目を瞠った感じがしたんだけど、すぐに接客用の笑顔を浮かべて客席へと案内された。
店内は若草色の壁紙に絨毯敷きでテーブルや椅子はアンティーク風で統一されている。
壁にもアンティーク調の鏡があり、天井からはシャンデリアが吊り下がっている。
大翔が店員さんに何か言うと、少し頷いて奥の部屋へと通してくれた。
奥は個室で壁紙が先程の若草色から変わってダークグレーで少し大人の雰囲気だ。
ヴィンセントのアームチェアはレッドベルベッドのものと、マーブルブラウンのものが置かれている。
壁側にはチェスターフィールドのワインレッドの2人掛けソファがあった。
大翔と僕は2人掛けソファーに座りフレンチトーストサレと、種類のケーキが少しづつ食べれるセットをオーダーした。
2人でシェアしながら小腹を満たして、お店特製ブレンドの紅茶をいただく。
「美味しかった!」
「あぁ、美味しそうに食べてたな。」
「へへへ、僕しょっぱいフレンチトーストって初めて食べたかも。」
「確かに珍しいかもな。」
「今度家で作ってみたいなぁ。」
「それは俺も食べれる?」
「もちろん。」
大翔は足を組んでソファの背もたれの淵に肘を乗せて僕の方へ向き直ると、頬杖をついたまま僕の髪をそっと撫でる。
ふふふって笑って僕は大翔の方を向いて頭を撫でてくれる手の方に傾ける。
大翔にいっぱい『美味しい』って言ってもらいたい。
僕はそれを隣でずっと見ていたいな。
大翔は髪を撫でていた手をスルッと頬まで下ろした、手の甲で頬を撫であげて少し親指と人差し指でフニフニと柔らかく挟む。
僕の頬を撫でる大翔の顔はどこか楽しそうだから、僕はされるがままになっている。
あと、大翔に撫でられるの気持ちがいいんだ。
少し乾燥した指先は僕より太くて、でも綺麗な形をしてる。
顔に触れられるのが気持ち良くって、つい目を閉じて堪能してたら不意に瞼の裏に影が差したので目を開くと目の前に大翔の顔があった。
ちゅっと軽く唇に口付けられて、僕はもう一度目を閉じる。
少し首を傾げて、さっきよりも少し長めのキス。一旦離れて、もう一度…今度は唇を喰むようなキス。
僕も大翔の頬を両手で触れて、キスに応える。少し僕より薄い唇を甘噛みして、引っ張って、口付ける。
最後にもう一度軽く触れ合うだけのキスをして。
大翔に触れてた手を上からぎゅっと握られて、今日ずっと繋いでた手なのにドキドキする。
大翔の顔がすぐそばにあって、僕らは額と額をくっつけて。
少しだけ甘さを含んだ目で見つめあって、息を溢すように笑った。
お会計をしてお店を出るときに、大翔がママさんと未亜さんにお土産としてケーキを買ってた。
2人なら絶対喜んでくれそう。
****
夕方になる前に家に帰って来れた。
車を降りて柴田さんがトランクから、水族館で大翔が買ってくれたぬいぐるみを出してくれた。
お礼を言って家の中に戻った。
今15時だから…ちょっと先にパイとか焼いた方がいいかな。
この後の工程を考えていると、大翔に少しだけゆっくりしようって言われてリビングに行くとママさんと未亜さんがいた。
「あら、2人ともお帰りなさい。」
「「ただいま。」」
「これ、母さんと未亜に。」
「あら!なになに~?」
「あっ!これ知ってる!確か都内にも店舗あるとこよね!」
「あぁ、凛と行ったんだけど。お土産。」
「まぁ、珍しい。ありがとう!」
「バレンタインだもんねぇ、凛ちゃんどうだった?楽しかった?」
「はい!へへへ。楽しかったです。」
「そっか~いいなぁ~私も彼氏欲しいわぁ…。」
お手伝いさんが僕たちの分の紅茶を運んできてくれたので、2人に今日のことを色々話した。
水族館が楽しかったこと、カワウソに触ったこと。
あとケーキを買ったお店もとてもおいしかったこと。
2人は聞きながらもお土産の箱を開けている。
「今食べるのか?」
「だってちょうど15時でしょ!晩御飯にはデザートつくし。まさ兄帰ってきたら取られちゃうし。」
そう言って未亜さんはお手伝いさんにケーキをお皿に移してもらうようお願いしていた。
「ところでその大きい袋は何かしら?」
「あ、これ…大翔が買ってくれたんです。」
「へぇ~また服?」
「いえ、シロクマのぬいぐるみなんです。僕がシロクマ好きで…。」
そう言って僕は包みをゆっくりと開ける。
おっきい包み紙の中から現れたのは真っ白でふかふかしたおっきなシロクマ。
僕は膝の上に乗せて向かい合わせになって、シロクマの頭をポンポンと撫でる。
「ふふふ。」
「何笑ってんだ?凛。」
「可愛いなぁって思って。これ大事にするね。寮にも持っていく。」
「そう言って貰えてよかった。」
僕はシロクマの脇に手を入れて持ち上げると、大翔もシロクマの頭を撫でた。
シロクマももちろん嬉しいけど、大翔がくれたってことも嬉しい。
でも、大翔が僕の気持ちを汲んでくれたんだって、そのことが凄く嬉しかったんだ。
「凛ちゃんとぬいぐるみって…可愛すぎないかしら…。」
「隣にいるヒロと本当に同い年なの…?あの可愛さ…反則じゃない?」
2人がそんな話をしていると、お手伝いさんがケーキを移し替えて戻ってきた。
2人はケーキを食べつつ、僕らの話を聞いてくれていた。
「はぁ~~~おいしかったぁ~!ヒロありがとう!」
「ほんと!美味しかったわ!」
「どういたしまして。」
「そろそろ料理に取り掛かりましょうか。」
「そうね!」
僕らは厨房へ、大翔は卒業式で答辞をするらしくその準備で部屋へと戻っていった。
さて、ディナーの仕上げしなきゃ!
シェフさんに手伝ってもらいながら、料理を着々と仕上げていく。
今回ステーキはいいお肉なんだけど、やってみたかった低温調理にしてみた。
六浦家の厨房に低温調理器があったので、シェフさんにお願いして使わせてもらうことにしたんだ。
パイ生地もうまく焼けたし、前菜もすでにお皿に並べてる。
スープも仕上げてあるからあとはタイミングを見て出してもらうだけ。
魚も味付けしてあるし、ソースも作ったからあとは焼いてもらうだけ。
準備が終わりそうになったタイミングで、パパさんと理人さんが帰宅してきた。
僕は大翔を呼びにいき、みんなでバレンタインのディナーのため食堂に集まってもらった。
「今日は凛くんが提案してくれたんだろ?ありがとう。」
「ヒロが凛ちゃんのご飯美味しいって家でも自慢するんだよ。」
「いえ、皆さんに手伝ってもらってやっとできたので…僕こそありがとうございます。」
今日の料理は僕だけじゃできなかった。
シェフさん達にはとてもお世話になったし、ママさんや未亜さんと一緒に作れて本当によかった。
僕はお辞儀をして、みんなに感謝を伝える。
「お口に合うといいんですが。」
「大丈夫、凛が作ったものはどれも美味しいから。」
「へへへ、そうかな。」
「失礼いたします。」
料理の準備が終わったらしく、お手伝いさんが前菜を運んできてくれた。
前菜はサーモンのマリネ、レバーペーストのカナッペにドライいちじくを添えたもの。
あとはコンソメで煮た根菜のミニロールキャベツ。
「ん、美味しい。」
「ほんと!サーモンのマリネにディルが入ってるのね!良いアクセントになって美味しいわ。」
「大翔が自慢するのもわかるな。」
よかった。みんなの口にあったみたいだ。
僕はちょっと胸を撫で下ろし、隣に座る大翔を見ると。美味しそうにバゲットを食べていた。
「うん、このレバー臭みが少なくて滑らかで美味しい。甘いイチジクと合うんだな。」
「ほんと?よかった!」
次にスープ、あと魚料理と続いてメインのお肉料理。
最後に焼き目をつけるのはシェフさんにお願いした。
少し席を立たせてもらってソースだけ仕上げて盛り付ける。
お肉料理も好評で、シェフさん達も今後は低温調理でステーキを作るって言ってくれた。
最後のデザートはママさんと未亜さんと席を立って3人で仕上げる。
作っておいたカスタードクリームとパイ生地とイチゴを重ねて、脇にはイチゴのソルベ。
ミルフィーユには上から溶かしたビターチョコレートと粉糖でデコレーションして、ちょっとだけバレンタインっぽく仕上げた。
ママさんはパパさんに、未亜さんは理人さんに、僕は大翔に一皿づつサーブしていく。
「鞠さんすごい!食べるのもったいないぐらいだよ。ありがとう!」
「ふふ、信人さんのために作ったのよ。そんなこと言わないでちゃんと食べてね!」
「はい、まさ兄。早く彼女作ってよ!」
「お前も早くこれを食べてくれる彼氏作れよ!」
パパさんはこれ以上ないぐらい目尻を下げて嬉しそうに笑ってる。
理人さんと未亜さんは…いつも通り?でも理人さん嬉しそう。
「はい、大翔…ハッピーバレンタイン。いつもありがとう。」
「凛…こちらこそ。今日は美味しいご飯をありがとう。」
「これちょっと甘さ控えめに作ったんだ…。」
「俺のために?」
「うん。甘いのちょっと苦手でしょ?」
「あぁ、でも凛の作ったものだったら甘いものでも美味しいよ。あのかき氷だって美味しかった。」
そう言いながら、大翔はミルフィーユを器用にナイフとフォークで切り分けて食べていく。
「うん。やっぱり美味しい。ありがとう、凛。」
「ほんと?よかった。」
僕たち3人の分はシェフさんが仕上げてくれたので、それを美味しくいただいた。
ちょっと大変だったけど、ディナー作ってよかった。
みんな喜んでくれて、大翔も美味しいって言ってくれた。
最後まで食べ終わると、リビングへ移動した。
そこでパパさんと理人さんからバレンタインのプレゼントをもらった。
中身は有名なお店のチョコレート。
これすっごく高くて美味しいって評判のやつだ…。
「ありがとうございます。」
「どういたしまして。こちらこそ今日は本当にありがとう。」
「凛ちゃんのご飯食べれてよかった。また食べたいけど、次を強請ると多分ヒロに怒られそうだなぁ。」
「当たり前だろ?」
「当たり前なのかよ。」
理人さんは大袈裟なため息をついて恨めしそうに大翔を見てる。
僕は全然作っても構わないんだけど、大翔がいい顔しないだろうなってのはなんとなくわかる気がした。
「そういえば、今日ももう遅いから泊まっていくだろ?」
「え、あ…いいのかな?」
「別に構わないよ。」
じゃあ、お言葉に甘えようかな…。
僕も大翔と居たいし。
ゆっくりしてたらもう21時すぎていた。
僕は今日1日の疲れが出たのか少しうとうとしてきたので、大翔に連れられて2階の部屋まで戻ってきた。
「凛、お風呂は?」
「ん、入る…。」
お手伝いさんが今日は大翔の部屋のお風呂を用意してくれてたので、先にお風呂に入らしてもらった。
はぁ、湯船に浸かってると本当に寝ちゃいそう…、でも湯船で寝るのは危ないから…。
ちょっとだけうとうとしていると、お風呂の扉が開いて大翔が入ってきた。
「こら、凛。お風呂で寝ると危ないぞ。」
「んむっ…まだ寝てない…。」
「まだって…この後寝るみたいな言い方して…。」
大翔は素早く髪の毛と体を洗ってシャワーで泡を落とすと、湯船に浸かる僕の両脇に手を差し込んできた。
「ん、ひろと?」
「もう眠いんだろ?腕を首に回して。」
「ん…。」
僕は言われるがままに大翔の首に腕を回してぎゅっと抱きつく、そうすると大翔が僕の膝裏に腕を入れて横抱きにしてきた。
これ、お姫様抱っこじゃん…。
そう頭ではわかってるし恥ずかしいのに、眠くって思考がゆらゆらしているせいか反論する元気もない。
横抱きにされたまま脱衣所に戻ると大翔が僕の体をタオルで拭いていく、脱衣所に置かれた椅子に座らされて壁にもたれかかりつつ待っていると、大翔が手早く自分の体を拭いて下着とTシャツだけを着るのが見えた。
大翔は器用に僕に寝間着を着せて、そのまま髪の毛を乾かしてくれた。
再び僕を横抱きにするとベッドまで運んでくれる。
大翔が僕の体から離れていくのがわかって、それが寂しくてつい大翔のシャツを握ってしまった。
「ん、いっちゃだめ…。」
「ちょっとスウェット取りにくだけだから待ってて。」
ベッドの上でうとうとと微睡む僕の頭を何回か撫でて、大翔は離れていってしまった。
大翔のおっきなベッドの上に1人で寝るのって寂しい。
早く、戻ってきて…。
必死に戻ってくるまで寝ないように何度もくっつきそうになる瞼を無理矢理こじ開けるのに、気づくと数秒眠りに落ちそうになっている。
時間にしたらきっと1分にも満たなかったと思う、大翔が部屋の電気を消して戻ってきたのがベッドが沈む感覚でわかった。
戻ってきた大翔が布団の中に入ってくると、僕はすかさず大翔の胸に抱きつく。
「凛どうしたの?」
「寂しかった。」
「ちょっと離れただけだけど?」
「いっちゃだめって、言ったのに…。」
僕の頭の上で大翔が微かに笑う声が聞こえた。
「ごめんね。」
「んー…。ひろぉ…ぎゅぅ、して…。」
「いいよ。」
大翔が僕のことをぎゅっと抱きしめてくれる。
寂しくって僕の周りにできてた冷たい空気が一気に無くなったみたいに、大翔の温度に包まれてく。
無理矢理抗っていた眠気がどんどんと押し寄せてくる。
大翔におやすみのキスを送りたかったなぁ。
でももう目が開かないし、体も自由に動かない。
「おやすみ、凛。」
大翔はそっと僕の額に口付ける。いつも車で送ってくれる時のおやすみの合図。
「ん…おや…す…」
最後まで言えてたかわからない、でも僕はそこで深く眠りに落ちてしまった。
****
僕は夢を見た。
夢だったか、過去の思い出せない記憶かはわからなかった。
いつも出てくる顔の見えない男の子が、僕にプレゼントをくれた。
おっきな…ぬいぐるみ。
僕が隠れてしまいそうなほど大きなぬいぐるみ…。
このぬいぐるみ…、僕知ってる。確か…あれは…。
思い出そうとしたところで、意識がゆっくりと浮上する感覚を覚えた。
まだ、思い出してないのになあ…。
****
「んっ…。」
うっすらと目を開けると、部屋は薄暗かった。
まだ…明け方なのかな…。
昨日眠ったままの抱き合った状態で目を覚ましたから、変に動くと大翔のこと起こしちゃいそうだな…。
「…凛…?起きた…?」
「大翔…起こしちゃった?」
「いや、そんなことないよ。」
大翔はベッドの上で大きく伸びをすると、サイドテーブルに置かれたスマホを見る。
「もう7時なんだ、その割には暗いね…天気悪いのかな。」
そう言って起き上がってベッドを出るのかと思ったら、そのままベッドに座ったままだ。
僕が寝っ転がったまま大翔を見上げると、大翔は僕の方を見ている。
ん?なんだろ…。
「…このまま1人でベッドを出たらまた凛に泣かれちゃうかと思うと出れないな。」
「な!…泣いてない…。」
「ほんと?」
「な、泣いてなかった。ちょっと寂しくなった、だけだし…。」
「昨日の凛ほんと可愛かった…破壊力しかなかったよ…。あんなこと言われたら、我慢できなくなりそうだった…。」
「がまん?」
「…こっちの話。」
そう言って僕の額にキスをして、大翔はベッドから出て窓の外を見にいく。
「あ、凛。おいで。」
「ん?どうしたの?」
大翔に呼ばれたので、もそもそとベッドから這い出して窓に近づいていく。
大翔は僕の手を取って引き寄せると、僕を抱え込むようにして僕の背中に回る。
「ほら、外見て。」
「外?…あ、雪積もってる!」
昨日は晴れてたし、夜外見てなかったけどいつの間にか降り出していた雪が一晩中降り続いていたらしい。
朝になったら外は真っ白、でも日差しがないから灰色と白色の世界になっていた。
1年以上ぶりぐらいかな、積もったの。大翔に二回目にあった時以来だ…。
「去年、凛に二回目会った時以来かな…積もるの。」
「…今僕もおんなじこと考えてた。」
「あの時は、まだ凛と一緒にいれるって思ってなかった。」
「僕も…。」
「俺は最初から凛のこと、可愛いいって思ってて、仲良くなりたかったんだけどなー。」
「ふふ、最初大翔意地悪だったんだもん。」
でも、違うってわかってる。
今こうやって僕のことを抱きしめてくれる腕は、すごく優しくて温かい。
僕のことを映す目も、僕の名前を呼ぶ声も…すごく、すごく優しくて甘くて。
あの時は1年後、大翔と一緒にこんな風に雪を見れるって思ってなかった。
「凛…。」
「ん?」
「また、2人でみたいな。」
「うん。」
大翔は僕の旋毛に優しく口付ける。
今年のバレンタインデー、大翔と一緒にいれて良かった。
「また、来年も…僕とバレンタインデーにデートしよ?」
「あぁ。バレンタインじゃなくてもな。」
「うん。」
「水族館だけじゃなくて、色んなところに行こう。」
「うん。」
「凛と…色んな景色が見たい。」
「…僕も。大翔と一緒に見たい、大翔の隣で。ずっと…。」
「あぁ。」
僕、今幸せなんだ。
大翔のあったかさに包まれて。
一緒にいられて。
本当に嬉しいんだよ。
僕は振り向いて、大翔に正面から抱きついた。
鼻を擦り合わせるようにして、額と額をくっつけて。
二人で笑い合うんだ。
大翔…知ってる?それだけで、僕にとってすごく幸せな朝になるんだよ。
大翔が僕を抱きしめて。
僕も大翔を抱きしめた。
朝目が覚めると、大翔はまだ眠っていた。
寝ている時の大翔はとてもあどけない顔をしていて、すごく可愛い。
ふわふわの髪の毛に指を入れて、頭をそっと撫でて大翔の額に口付ける。
そうするの、長いまつ毛が揺れて大翔と目が合う。
僕を見つけたその目はゆっくり細められて、少し掠れた声で「おはよう。」って言う。
僕も「おはよう。」って返して、2人でちょっと照れ笑いをする。
すごく幸せな時間。
僕はちょっと布団に潜り込むようにして大翔の胸に耳をくっつけると、大翔の拍動が聞こえてくる。
僕の頭を撫でて、旋毛にキスをしてくれる。
今日はバレンタインデー。
午前中から出掛けるから、早く起きなきゃ。
「凛、そろそろ起きる?」
「うん。」
2人で起きて、寝室の隣にある洗面台で顔を洗って歯を磨く。
軽くキスをして。
くっつきながら移動して、着替えて。
2人でまたくっつきながら1階の食堂に行くと、すでにパパさんとママさんがいて朝食を食べていた。
「おはよう。今日も仲良しねー。」
「おはよう。凛くん、大翔。」
「おはようございます。」
「おはよ。」
少し気恥ずかしくなりながら朝ごはんをたべる。
「今日は2人ともどこにいくの?」
「今日は水族館に行こうと思って。」
「あら、ショー見るなら寒いから膝掛け持っていった方がいいわよ。」
「はい。」
今日は水族館に行こうって前から決めていた。
前に2人で行きたいねって話してたから。
ママさんに言われた通りに少し厚着できるようにシャツの上にカーデガンを着て、コートを羽織る。
僕は大翔がくれたマフラーをして、大翔は僕があげた手袋をしてくれた。
手を繋いで玄関を出ると、柴田さんが既に車の所で待っていた。
今日行くのは海の近くにある、おっきな水族館。
ここからはちょっと遠くて車で1時間近くかかる。
「今日は随分と…。」
「何だ柴田。」
「いや、…なんでもないです。」
柴田さんは何かを察したのか深くは追及して来なかったけど、なんだか意味深な目線を大翔に投げていた。
****
今日は平日だからか比較的水族館は空いていた。
柴田さんは外で待っていてくれるらしい。
「勝手にしてますんで、なんかあったら電話してくださいね。」
そう言っていた。
柴田さんも本当だったら家族と来たいよね。
僕らは手を繋いだまま、水族館の中を見て回る。
ショーはあと30分後らしいから、それまで中を順番に見ていく。
最初に出迎えてくれたのは小さなカクレクマノミだった。
本当に小さくてかわいい。
あとは大きなホッキョクグマもいた。
のそのそと大きな体を揺らして歩いたかと思うと、次には犬かきの要領で水の中をおよいでいる。
僕はホッキョクグマが好きなので、じっと観察するように見つめていたら大翔が頭を撫でてくる。
「どうしたの?」
「ん?いや…、凛はシロクマ好きなの?」
「うん。可愛いよね腕太くて。」
「そこなの?可愛いポイント…。」
腕太いのって可愛くない?大型犬とか子供の頃から足ずっしりしてて、手はクリームパンみたいで可愛いと思うんだけどな。
次は大きな水槽の前に来た。僕らの何倍もの高さのある水槽にたくさんのイワシの群れ。
サメやエイも泳いでる。
群れで泳ぐイワシがキラキラと輝いていて本当に綺麗だった。
「凛、上に行こうか。」
「うん。」
上に上がるのは水槽の中をトンネルみたいにくぐっていくエスカレーター。
まるで海の中にいるみたいですごく綺麗だった。
僕を一段上に立たせた大翔は僕の腰から前に手を回してきてくっついてる。
僕は回された腕に手を重ねながらキョロキョロと水槽の中を見回す。
「きれいだね。」
「そうだな。」
20cmほど背が高くなった僕だけど、それでやっと大翔と同じぐらいの背丈で、後ろを振り向くと大翔の顔がすぐそこにある。
「なんかおんなじぐらいの身長ってすごい新鮮。」
「そうか?」
僕は振り向いたまま大翔の頬に軽くキスをする。
普段の身長差だと屈んでもらわないとできないから。
「こういうの、いつもできないから。」
「フッ…確かに、新鮮かも。」
大翔はそう言ってお返しに僕の頬にの軽くキスをしてくれた。
「ねぇ、大翔!カワウソタッチだって!」
「へぇ、カワウソに餌をあげられて、さらに手を触れるのか。やってみるか?」
「うん!」
今人気のカワウソだけど、ここもそこまで人はいなかった。
小魚をあげて、手にタッチする。
けっこうエグい顔して魚食べるんだな…。普段は可愛いのに…。
「食べてるとこ以外は凛に似てる。」
「え!僕こんな顔してる?」
「むくれた顔がそっくり。」
そう言って大翔は人差し指で僕の頬を押した。
むくれてるとカワウソに似てるの?
それって喜んで良いのかな…。
「かわいいよ。」
「うっ…。」
前は『可愛い』って言われるのが苦手だったはずなのに、大翔が『可愛い』って言ってくれるのが今は嬉しくなっちゃうんだから困る。
そんな甘い顔して僕のこと見ないでよ…。
大翔が笑顔で僕を見ると、何故か飼育員のお姉さんの顔が赤くなる。
繋がれたままだった手を指を絡めるように繋ぎ直す。
所謂『恋人繋ぎ』ってやつ。
自然と体が大翔と近くなるからこっちの繋ぎ方の方が好きかも。
そう思いながら手指をにぎにぎとすると、大翔は少し照れたのか目元が赤くなっている。
ふふ。
「大翔可愛い。」
「可愛いは少し複雑だな…。」
「へへへ、いつもはかっこいいんだよ?でもちょっと照れてる大翔は可愛い。」
すると大翔は握った手を引っ張って僕の体を引き寄せると、こめかみに軽く口付けた。
大翔はにっこりと笑っている。
大翔の笑顔が見れるの本当に嬉しくて、楽しい。
もうすぐショーが開演するらしく、館内にアナウンスが流れた。
館内は人がまばらだったけどショーだからか、人が結構集まっていた。
僕たちは中央の少し上の席に座る。
外はママさんに言われて持ってきた膝掛けが役に立ちそうな寒さだった。
お手伝いさんが小さなホッカイロも入れてくれてたからそれを大翔に渡して、少し大きめの膝掛けを2人で並んで掛ける。
「凛、これ使って。」
「…?大翔片手だけになっちゃうよ?」
大翔は僕に左手だけ手袋を貸してくれたので、返そうとすると、大翔の左手が僕の右手をぎゅっと握って膝掛けの下に潜り込んだ。
「こうすれば寒くないから、だからそっちだけつけて。」
そう言って大翔は僕の左手に手袋をつけてくれた。
さっきまで使ってた大翔の体温で手袋はほんのりあったかい。
素手のままだった手を再び恋人繋ぎにして、膝掛けの下で温める。
周りも、僕たちもみんなカップルたちは寄り添って、互いの熱で暖を取るみたいにしてる。
軽快な音楽と元気な飼育員さんの声が場内に響き渡って、ショーが始まった。
****
久しぶりにイルカのショーをみたかも。
可愛いし頭いいし、ジャンプも揃っててすごかった。
僕はちょっと興奮しつつ大翔に感想を話している。
少し休憩がてら来たカフェで、冷えた体を温めつつ僕らはお昼も食べずに水族館を回っていたのでお昼は中華街に行こうってことになった。
カフェを出て歩いている途中で見かけたお土産物屋さんに、でっかいシロクマのぬいぐるみを見つけた。
「大翔…。」
「どうした?」
「ちょっと見てもいい?」
そいうって大翔の手を引っ張ってお土産物屋さんへ向かう。大きなシロクマのぬいぐるみはふかふかと柔らかく毛並みも気持ちい。
か…かわいい…。
姉の影響かぬいぐるみが好きなんだけどあんまり持ってないんだよね。
まぁ、高校生にもなるのにぬいぐるみってのもなぁ。
本当は欲しい…今日の記念に…でもなぁ…。
両手でシロクマのほっぺたを潰してふかふかを堪能したあとそっと商品を棚に戻す。
「凛、買わないの?」
「え?うーん。おっきいし、それに高校生にもなってぬいぐるみってのもなぁって思って。」
「でも好きなんでしょ?」
「え?あ、うん。」
「そしたら、俺がプレゼントしたら貰ってくれる?」
「えっ?」
「俺が凛にあげたいからプレゼントする。だから貰ってくれるか?」
こう言うことさらっとしてくれるの、すごく嬉しい。
僕が欲しいけど躊躇って諦めたことをわかってくれてるんだと思う。
それをあの言い回しで言われたら僕は断れない。
それを狙ってやってくれてるんだと思うとすごく嬉しい。
「大翔からのプレゼントなら喜んで受け取るし、大事にする。」
「よかった。」
大翔は僕がさっきまで悩んでいたシロクマを手に取るとレジまで向かった。
「大翔、ありがとう。」
「どういたしまして。」
へへへと笑った僕は大翔の手をぎゅっと握りしめて駐車場まで歩いた。
心がふわふわする。嬉しくて、楽しくて、ずっと大翔の隣にいたくなるぐらい心があったかい。
いつの間にか柴田さんに連絡を取っていたんだろうか、すでに柴田さんは車に戻っていて僕らが近づくと後部座席の扉を開けて待っていてくれた。
「楽しまれましたか?」
「はい!」
「お昼を軽く中華街付近で食べようと思うんだが。」
「承知しました。」
****
「今日の夜はお肉も魚もあるので…ちょっと軽めにしたいんだけど。」
「そうだな、じゃあ甘いものがあるところに行くか。」
そう言って中華街の程近くにある路地へと車が入っていく。
お店に駐車場は無いらしいので近くのコインパーキングに停めて歩いて向かう。
お店はこじんまりとしているけど少し高級そうなケーキ屋さん?かな…?
「いらっしゃいませ、カフェのご利用ですか?」
「はい。」
「では、こちらへどうぞ。」
入ってきた大翔の顔を見て一瞬だけ目を瞠った感じがしたんだけど、すぐに接客用の笑顔を浮かべて客席へと案内された。
店内は若草色の壁紙に絨毯敷きでテーブルや椅子はアンティーク風で統一されている。
壁にもアンティーク調の鏡があり、天井からはシャンデリアが吊り下がっている。
大翔が店員さんに何か言うと、少し頷いて奥の部屋へと通してくれた。
奥は個室で壁紙が先程の若草色から変わってダークグレーで少し大人の雰囲気だ。
ヴィンセントのアームチェアはレッドベルベッドのものと、マーブルブラウンのものが置かれている。
壁側にはチェスターフィールドのワインレッドの2人掛けソファがあった。
大翔と僕は2人掛けソファーに座りフレンチトーストサレと、種類のケーキが少しづつ食べれるセットをオーダーした。
2人でシェアしながら小腹を満たして、お店特製ブレンドの紅茶をいただく。
「美味しかった!」
「あぁ、美味しそうに食べてたな。」
「へへへ、僕しょっぱいフレンチトーストって初めて食べたかも。」
「確かに珍しいかもな。」
「今度家で作ってみたいなぁ。」
「それは俺も食べれる?」
「もちろん。」
大翔は足を組んでソファの背もたれの淵に肘を乗せて僕の方へ向き直ると、頬杖をついたまま僕の髪をそっと撫でる。
ふふふって笑って僕は大翔の方を向いて頭を撫でてくれる手の方に傾ける。
大翔にいっぱい『美味しい』って言ってもらいたい。
僕はそれを隣でずっと見ていたいな。
大翔は髪を撫でていた手をスルッと頬まで下ろした、手の甲で頬を撫であげて少し親指と人差し指でフニフニと柔らかく挟む。
僕の頬を撫でる大翔の顔はどこか楽しそうだから、僕はされるがままになっている。
あと、大翔に撫でられるの気持ちがいいんだ。
少し乾燥した指先は僕より太くて、でも綺麗な形をしてる。
顔に触れられるのが気持ち良くって、つい目を閉じて堪能してたら不意に瞼の裏に影が差したので目を開くと目の前に大翔の顔があった。
ちゅっと軽く唇に口付けられて、僕はもう一度目を閉じる。
少し首を傾げて、さっきよりも少し長めのキス。一旦離れて、もう一度…今度は唇を喰むようなキス。
僕も大翔の頬を両手で触れて、キスに応える。少し僕より薄い唇を甘噛みして、引っ張って、口付ける。
最後にもう一度軽く触れ合うだけのキスをして。
大翔に触れてた手を上からぎゅっと握られて、今日ずっと繋いでた手なのにドキドキする。
大翔の顔がすぐそばにあって、僕らは額と額をくっつけて。
少しだけ甘さを含んだ目で見つめあって、息を溢すように笑った。
お会計をしてお店を出るときに、大翔がママさんと未亜さんにお土産としてケーキを買ってた。
2人なら絶対喜んでくれそう。
****
夕方になる前に家に帰って来れた。
車を降りて柴田さんがトランクから、水族館で大翔が買ってくれたぬいぐるみを出してくれた。
お礼を言って家の中に戻った。
今15時だから…ちょっと先にパイとか焼いた方がいいかな。
この後の工程を考えていると、大翔に少しだけゆっくりしようって言われてリビングに行くとママさんと未亜さんがいた。
「あら、2人ともお帰りなさい。」
「「ただいま。」」
「これ、母さんと未亜に。」
「あら!なになに~?」
「あっ!これ知ってる!確か都内にも店舗あるとこよね!」
「あぁ、凛と行ったんだけど。お土産。」
「まぁ、珍しい。ありがとう!」
「バレンタインだもんねぇ、凛ちゃんどうだった?楽しかった?」
「はい!へへへ。楽しかったです。」
「そっか~いいなぁ~私も彼氏欲しいわぁ…。」
お手伝いさんが僕たちの分の紅茶を運んできてくれたので、2人に今日のことを色々話した。
水族館が楽しかったこと、カワウソに触ったこと。
あとケーキを買ったお店もとてもおいしかったこと。
2人は聞きながらもお土産の箱を開けている。
「今食べるのか?」
「だってちょうど15時でしょ!晩御飯にはデザートつくし。まさ兄帰ってきたら取られちゃうし。」
そう言って未亜さんはお手伝いさんにケーキをお皿に移してもらうようお願いしていた。
「ところでその大きい袋は何かしら?」
「あ、これ…大翔が買ってくれたんです。」
「へぇ~また服?」
「いえ、シロクマのぬいぐるみなんです。僕がシロクマ好きで…。」
そう言って僕は包みをゆっくりと開ける。
おっきい包み紙の中から現れたのは真っ白でふかふかしたおっきなシロクマ。
僕は膝の上に乗せて向かい合わせになって、シロクマの頭をポンポンと撫でる。
「ふふふ。」
「何笑ってんだ?凛。」
「可愛いなぁって思って。これ大事にするね。寮にも持っていく。」
「そう言って貰えてよかった。」
僕はシロクマの脇に手を入れて持ち上げると、大翔もシロクマの頭を撫でた。
シロクマももちろん嬉しいけど、大翔がくれたってことも嬉しい。
でも、大翔が僕の気持ちを汲んでくれたんだって、そのことが凄く嬉しかったんだ。
「凛ちゃんとぬいぐるみって…可愛すぎないかしら…。」
「隣にいるヒロと本当に同い年なの…?あの可愛さ…反則じゃない?」
2人がそんな話をしていると、お手伝いさんがケーキを移し替えて戻ってきた。
2人はケーキを食べつつ、僕らの話を聞いてくれていた。
「はぁ~~~おいしかったぁ~!ヒロありがとう!」
「ほんと!美味しかったわ!」
「どういたしまして。」
「そろそろ料理に取り掛かりましょうか。」
「そうね!」
僕らは厨房へ、大翔は卒業式で答辞をするらしくその準備で部屋へと戻っていった。
さて、ディナーの仕上げしなきゃ!
シェフさんに手伝ってもらいながら、料理を着々と仕上げていく。
今回ステーキはいいお肉なんだけど、やってみたかった低温調理にしてみた。
六浦家の厨房に低温調理器があったので、シェフさんにお願いして使わせてもらうことにしたんだ。
パイ生地もうまく焼けたし、前菜もすでにお皿に並べてる。
スープも仕上げてあるからあとはタイミングを見て出してもらうだけ。
魚も味付けしてあるし、ソースも作ったからあとは焼いてもらうだけ。
準備が終わりそうになったタイミングで、パパさんと理人さんが帰宅してきた。
僕は大翔を呼びにいき、みんなでバレンタインのディナーのため食堂に集まってもらった。
「今日は凛くんが提案してくれたんだろ?ありがとう。」
「ヒロが凛ちゃんのご飯美味しいって家でも自慢するんだよ。」
「いえ、皆さんに手伝ってもらってやっとできたので…僕こそありがとうございます。」
今日の料理は僕だけじゃできなかった。
シェフさん達にはとてもお世話になったし、ママさんや未亜さんと一緒に作れて本当によかった。
僕はお辞儀をして、みんなに感謝を伝える。
「お口に合うといいんですが。」
「大丈夫、凛が作ったものはどれも美味しいから。」
「へへへ、そうかな。」
「失礼いたします。」
料理の準備が終わったらしく、お手伝いさんが前菜を運んできてくれた。
前菜はサーモンのマリネ、レバーペーストのカナッペにドライいちじくを添えたもの。
あとはコンソメで煮た根菜のミニロールキャベツ。
「ん、美味しい。」
「ほんと!サーモンのマリネにディルが入ってるのね!良いアクセントになって美味しいわ。」
「大翔が自慢するのもわかるな。」
よかった。みんなの口にあったみたいだ。
僕はちょっと胸を撫で下ろし、隣に座る大翔を見ると。美味しそうにバゲットを食べていた。
「うん、このレバー臭みが少なくて滑らかで美味しい。甘いイチジクと合うんだな。」
「ほんと?よかった!」
次にスープ、あと魚料理と続いてメインのお肉料理。
最後に焼き目をつけるのはシェフさんにお願いした。
少し席を立たせてもらってソースだけ仕上げて盛り付ける。
お肉料理も好評で、シェフさん達も今後は低温調理でステーキを作るって言ってくれた。
最後のデザートはママさんと未亜さんと席を立って3人で仕上げる。
作っておいたカスタードクリームとパイ生地とイチゴを重ねて、脇にはイチゴのソルベ。
ミルフィーユには上から溶かしたビターチョコレートと粉糖でデコレーションして、ちょっとだけバレンタインっぽく仕上げた。
ママさんはパパさんに、未亜さんは理人さんに、僕は大翔に一皿づつサーブしていく。
「鞠さんすごい!食べるのもったいないぐらいだよ。ありがとう!」
「ふふ、信人さんのために作ったのよ。そんなこと言わないでちゃんと食べてね!」
「はい、まさ兄。早く彼女作ってよ!」
「お前も早くこれを食べてくれる彼氏作れよ!」
パパさんはこれ以上ないぐらい目尻を下げて嬉しそうに笑ってる。
理人さんと未亜さんは…いつも通り?でも理人さん嬉しそう。
「はい、大翔…ハッピーバレンタイン。いつもありがとう。」
「凛…こちらこそ。今日は美味しいご飯をありがとう。」
「これちょっと甘さ控えめに作ったんだ…。」
「俺のために?」
「うん。甘いのちょっと苦手でしょ?」
「あぁ、でも凛の作ったものだったら甘いものでも美味しいよ。あのかき氷だって美味しかった。」
そう言いながら、大翔はミルフィーユを器用にナイフとフォークで切り分けて食べていく。
「うん。やっぱり美味しい。ありがとう、凛。」
「ほんと?よかった。」
僕たち3人の分はシェフさんが仕上げてくれたので、それを美味しくいただいた。
ちょっと大変だったけど、ディナー作ってよかった。
みんな喜んでくれて、大翔も美味しいって言ってくれた。
最後まで食べ終わると、リビングへ移動した。
そこでパパさんと理人さんからバレンタインのプレゼントをもらった。
中身は有名なお店のチョコレート。
これすっごく高くて美味しいって評判のやつだ…。
「ありがとうございます。」
「どういたしまして。こちらこそ今日は本当にありがとう。」
「凛ちゃんのご飯食べれてよかった。また食べたいけど、次を強請ると多分ヒロに怒られそうだなぁ。」
「当たり前だろ?」
「当たり前なのかよ。」
理人さんは大袈裟なため息をついて恨めしそうに大翔を見てる。
僕は全然作っても構わないんだけど、大翔がいい顔しないだろうなってのはなんとなくわかる気がした。
「そういえば、今日ももう遅いから泊まっていくだろ?」
「え、あ…いいのかな?」
「別に構わないよ。」
じゃあ、お言葉に甘えようかな…。
僕も大翔と居たいし。
ゆっくりしてたらもう21時すぎていた。
僕は今日1日の疲れが出たのか少しうとうとしてきたので、大翔に連れられて2階の部屋まで戻ってきた。
「凛、お風呂は?」
「ん、入る…。」
お手伝いさんが今日は大翔の部屋のお風呂を用意してくれてたので、先にお風呂に入らしてもらった。
はぁ、湯船に浸かってると本当に寝ちゃいそう…、でも湯船で寝るのは危ないから…。
ちょっとだけうとうとしていると、お風呂の扉が開いて大翔が入ってきた。
「こら、凛。お風呂で寝ると危ないぞ。」
「んむっ…まだ寝てない…。」
「まだって…この後寝るみたいな言い方して…。」
大翔は素早く髪の毛と体を洗ってシャワーで泡を落とすと、湯船に浸かる僕の両脇に手を差し込んできた。
「ん、ひろと?」
「もう眠いんだろ?腕を首に回して。」
「ん…。」
僕は言われるがままに大翔の首に腕を回してぎゅっと抱きつく、そうすると大翔が僕の膝裏に腕を入れて横抱きにしてきた。
これ、お姫様抱っこじゃん…。
そう頭ではわかってるし恥ずかしいのに、眠くって思考がゆらゆらしているせいか反論する元気もない。
横抱きにされたまま脱衣所に戻ると大翔が僕の体をタオルで拭いていく、脱衣所に置かれた椅子に座らされて壁にもたれかかりつつ待っていると、大翔が手早く自分の体を拭いて下着とTシャツだけを着るのが見えた。
大翔は器用に僕に寝間着を着せて、そのまま髪の毛を乾かしてくれた。
再び僕を横抱きにするとベッドまで運んでくれる。
大翔が僕の体から離れていくのがわかって、それが寂しくてつい大翔のシャツを握ってしまった。
「ん、いっちゃだめ…。」
「ちょっとスウェット取りにくだけだから待ってて。」
ベッドの上でうとうとと微睡む僕の頭を何回か撫でて、大翔は離れていってしまった。
大翔のおっきなベッドの上に1人で寝るのって寂しい。
早く、戻ってきて…。
必死に戻ってくるまで寝ないように何度もくっつきそうになる瞼を無理矢理こじ開けるのに、気づくと数秒眠りに落ちそうになっている。
時間にしたらきっと1分にも満たなかったと思う、大翔が部屋の電気を消して戻ってきたのがベッドが沈む感覚でわかった。
戻ってきた大翔が布団の中に入ってくると、僕はすかさず大翔の胸に抱きつく。
「凛どうしたの?」
「寂しかった。」
「ちょっと離れただけだけど?」
「いっちゃだめって、言ったのに…。」
僕の頭の上で大翔が微かに笑う声が聞こえた。
「ごめんね。」
「んー…。ひろぉ…ぎゅぅ、して…。」
「いいよ。」
大翔が僕のことをぎゅっと抱きしめてくれる。
寂しくって僕の周りにできてた冷たい空気が一気に無くなったみたいに、大翔の温度に包まれてく。
無理矢理抗っていた眠気がどんどんと押し寄せてくる。
大翔におやすみのキスを送りたかったなぁ。
でももう目が開かないし、体も自由に動かない。
「おやすみ、凛。」
大翔はそっと僕の額に口付ける。いつも車で送ってくれる時のおやすみの合図。
「ん…おや…す…」
最後まで言えてたかわからない、でも僕はそこで深く眠りに落ちてしまった。
****
僕は夢を見た。
夢だったか、過去の思い出せない記憶かはわからなかった。
いつも出てくる顔の見えない男の子が、僕にプレゼントをくれた。
おっきな…ぬいぐるみ。
僕が隠れてしまいそうなほど大きなぬいぐるみ…。
このぬいぐるみ…、僕知ってる。確か…あれは…。
思い出そうとしたところで、意識がゆっくりと浮上する感覚を覚えた。
まだ、思い出してないのになあ…。
****
「んっ…。」
うっすらと目を開けると、部屋は薄暗かった。
まだ…明け方なのかな…。
昨日眠ったままの抱き合った状態で目を覚ましたから、変に動くと大翔のこと起こしちゃいそうだな…。
「…凛…?起きた…?」
「大翔…起こしちゃった?」
「いや、そんなことないよ。」
大翔はベッドの上で大きく伸びをすると、サイドテーブルに置かれたスマホを見る。
「もう7時なんだ、その割には暗いね…天気悪いのかな。」
そう言って起き上がってベッドを出るのかと思ったら、そのままベッドに座ったままだ。
僕が寝っ転がったまま大翔を見上げると、大翔は僕の方を見ている。
ん?なんだろ…。
「…このまま1人でベッドを出たらまた凛に泣かれちゃうかと思うと出れないな。」
「な!…泣いてない…。」
「ほんと?」
「な、泣いてなかった。ちょっと寂しくなった、だけだし…。」
「昨日の凛ほんと可愛かった…破壊力しかなかったよ…。あんなこと言われたら、我慢できなくなりそうだった…。」
「がまん?」
「…こっちの話。」
そう言って僕の額にキスをして、大翔はベッドから出て窓の外を見にいく。
「あ、凛。おいで。」
「ん?どうしたの?」
大翔に呼ばれたので、もそもそとベッドから這い出して窓に近づいていく。
大翔は僕の手を取って引き寄せると、僕を抱え込むようにして僕の背中に回る。
「ほら、外見て。」
「外?…あ、雪積もってる!」
昨日は晴れてたし、夜外見てなかったけどいつの間にか降り出していた雪が一晩中降り続いていたらしい。
朝になったら外は真っ白、でも日差しがないから灰色と白色の世界になっていた。
1年以上ぶりぐらいかな、積もったの。大翔に二回目にあった時以来だ…。
「去年、凛に二回目会った時以来かな…積もるの。」
「…今僕もおんなじこと考えてた。」
「あの時は、まだ凛と一緒にいれるって思ってなかった。」
「僕も…。」
「俺は最初から凛のこと、可愛いいって思ってて、仲良くなりたかったんだけどなー。」
「ふふ、最初大翔意地悪だったんだもん。」
でも、違うってわかってる。
今こうやって僕のことを抱きしめてくれる腕は、すごく優しくて温かい。
僕のことを映す目も、僕の名前を呼ぶ声も…すごく、すごく優しくて甘くて。
あの時は1年後、大翔と一緒にこんな風に雪を見れるって思ってなかった。
「凛…。」
「ん?」
「また、2人でみたいな。」
「うん。」
大翔は僕の旋毛に優しく口付ける。
今年のバレンタインデー、大翔と一緒にいれて良かった。
「また、来年も…僕とバレンタインデーにデートしよ?」
「あぁ。バレンタインじゃなくてもな。」
「うん。」
「水族館だけじゃなくて、色んなところに行こう。」
「うん。」
「凛と…色んな景色が見たい。」
「…僕も。大翔と一緒に見たい、大翔の隣で。ずっと…。」
「あぁ。」
僕、今幸せなんだ。
大翔のあったかさに包まれて。
一緒にいられて。
本当に嬉しいんだよ。
僕は振り向いて、大翔に正面から抱きついた。
鼻を擦り合わせるようにして、額と額をくっつけて。
二人で笑い合うんだ。
大翔…知ってる?それだけで、僕にとってすごく幸せな朝になるんだよ。
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