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中学生編

閑話 クリスマスの夜に

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あの後、僕は意識を飛ばして2時間ぐらい寝てたみたい。
気付いたら夕方で外はもう薄暗くなっていた。

起きたのは大翔のベッドの上で、少しぶかぶかな白のロンTだけを着て下着もつけていなかった。
体は綺麗になってたから大翔が処理してくれたのかも…。

…抜き合い…しちゃったな…。

あと、なんか結構恥ずかしいこと言ったな…僕…。
テンション上がって色々口走ったことは覚えてる。
ど、どどどどうしよう!

そういえば大翔いないなぁ、部屋を見回してみるけどどこにもいない。
でも僕下着付けてないから、この部屋から出られそうにないんだけど…。

「凛、起きたのか。」

部屋の扉が開いたのでそちらを見ると大翔が戻ってきたようだった。
手に紙袋を持っているけど、買い物?行ってきたのかな…?

「う、うん。」
「これ、服…今洗濯してるから。」

出された紙袋を受け取ると中には新品の服が一式入っていた。

「え、あ…でもこれ…。」
「先に脱がせば良かったんだけど…我慢できなかった俺が悪い。」
「いや、そんな…。」
「クリスマスプレゼントだと思って、受け取って欲しい。」

大翔はベッドに腰掛けて僕の頭を優しく撫でる。
そんなこと言われちゃうと断り辛い…それに確かに着るものがないと帰れないし。

紙袋から服を出すと、下着と一緒にインナー。
白の少し大きめのケーブルニット、ダークグレーのセンタープリーツが入ったアンクル丈のワイドスラックス。あとカシミアの少し大きめなグレーのマフラー。

可愛い!

「凛、着てみて。」
「うん…ん?ここで?」
「そうだけど?」
「え、大翔の目の前で?」
「それ以外に選択肢があると思ってるのか?」

お、おう。
え、いや…まぁ男同士…とは言えど一応さっきまでなにやらしちゃった仲だし、好き合ってるわけだし?問題…ない…のかな??

でも、ほんとここで着替える以外の選択肢無さそうなので、ベッドの中でそっと下着を取り履いてインナーに着替えようと手を伸ばしたところで何故か大翔に手を止められた。

「??ん?なに?」
「一回その格好のまま立って。」

「?この格好?」

言われた通りにベッドから降りて大翔の前に立つ。

「…クッ…これが彼シャツ…。」

…彼シャツって今言ってましたよね…。

確かにこれは(多分)大翔のロンTなんだろうな、ブカブカで袖が余って萌え袖みたいになってるし。
裾はだたい太ももぐらい。

うーん。僕男なんだけどもそれでも良いのかな…?
そんな事考えてたら何故か大翔が腰に抱きついてきたので僕もぎゅっと大翔の頭を抱えた。

「大翔さん?そろそろ着替えても良いですかね?」
「…写真だけ撮らして…。」

「え…それは…いや…かな…。」
「…ダメ?」

うっ、だからその顔ダメなんだって!
眉毛八の字にして捨てられた子犬みたいな目で見ないで!何故かついてないはずの耳と尻尾が幻覚で見えてくるから…。

「ぅ、うう。また…この格好するから…ね?」
「…。」
「こ、今度は、大翔のワイシャツ着るよ??」
「…写真欲しい。」

ダメだー!折れない…。
でもこの格好の写真恥ずかしすぎて無理…。

「…クリスマスプレゼント。」
「…え?」
「凛からのクリスマスプレゼントとして…欲しい。」
「…クリスマス…プレゼント。」
「そう。」
「あの、いちおうプレゼントは用意してあるんだけど…。」

「?そうなの?」
「うん。」

僕はペタペタと裸足のままソファーの近くに置いてあった自分のカバンを取りに行くと、中から紙袋を取り出した。

「…こ、これ。大翔はいいの持ってるだろうけど。」

おずおずと大翔に紙袋を渡す。
ネイビーの袋に赤いリボンで彩られたただの紙袋なんだけど、大翔はそれを大事そうに受け取って嬉しそうに微笑んでくれた。

「開けていい?」
「うん。」

こっちにおいでと大翔に呼ばれて、ベッドの上で胡座をかくように座った大翔の足の間に背中を預けるように座ると、素足が出たまんまの僕のために掛け布団を掛けてくれる。

紙袋を慎重に開ける大翔の手元を見てると、何故だか緊張してきてしまう。

「これ、手ぶくろ。」
「うん。大翔は良いの持ってるだろうけど…。この前見かけて似合いそうだなって思って、ネットで買ったんだ。」

すらっと指の長い大翔の手に似合いそうだと思って買った黒のカシミアの手ぶくろ。
色は迷ったけど、黒ならどのコートでも似合いそうだし。

「これ、凛がつけて?」

そう言われたので僕が大翔の手に手袋をつけると、ぎゅっと手を閉じたり開いたりして感触を確かめてる。

「あったかいな。」
「ふふ、やっぱ似合うね。」

「ありがと、凛。」

大翔は僕のこめかみに軽くキスをくれた。
手袋をしたままの大翔の手が僕の手を覆うように握り込むと、じんわりと大翔の体温が僕の手に移るみたいで気持ちいい。

「凛。」
「ん?」

「写真は…?」
「あ、忘れてなかった?」
「この手袋は本当に嬉しい。でも、凛の写真欲しい…。」

後ろから抱きしめるようにして大翔は僕の肩に額をグリグリと押し付けてくる。

うぅ、可愛い…。

くっ…自分でもわかってるけど…チョロい…。
そして大翔に甘すぎる…。

「……わかった。」

「!!ほんと?」

あぁ、目がキラキラしてる。
…僕より身長だって大きくて、顔つきだって大人っぽいのに…可愛いって思っちゃうんだもん。

僕はベッドから降りて少し乱れた服を直す。

「はい。撮っていいよ。」

「ちょ、ちょっと待った。」

ガサガサとポケットから取り出したスマホで写真を撮っていく。
その音、連写??

「…凛さん?」
「はい?」
「ちょっとベッドに座ってもらっていいですか?」
「なんで、敬語なんですか?」

「ちょっ、こっちきて。」

ベッドに引っ張られて座ると、ポーズを指定される。
この座り方って女の子座りってやつ?
両膝を外側に向けてペタンと座る。
手は萌え袖が見えるようにして膝の間に手をつく。

大翔って結構王道な感じが好きなのかな?

「こう?」
「良い、すごい可愛い。」

何枚撮ったんだろうか、結構な枚数を撮って大翔は満足したらしい。

「じゃ、着替えるね。」

…ところでこの服、僕が寝てる間に買ってきたのかな?2時間ぐらいだったけど。

「ねぇ、大翔この服ってさっき買ってきたの?」
「あ、いや…柴田に買ってきてもらった。品物指定して。」
「そうなんだ。」

柴田さん大変だなぁ。この寒いのに買い物まで行って。

「…本当は買いに行こうと思ったんだけど。」
「?」
「眠ってる凛が可愛すぎて、動けなかった…。」
「え…?」
「体拭いてベッドまで運んだは良いんだけど…。りんが俺の服掴んだまま寝ちゃって…可愛くて、外せなかった。」

え!なにそれ…恥ずかし…。

「だから俺も一緒に寝てたんだ。」
「そ、そうだったんだ。」

恥ずかしすぎる。
離れたくないって思いながら寝ちゃったせいかな…。

「離れたくないって言われてるみたいで嬉しかった。」
「うん。」

恥ずかしいけど、何となくでも僕の思ってたことが伝わってて嬉しい。

「へへへ。」

恥ずかしいけど、嬉しくて僕はぎゅっと正面から大翔に抱きついた。

「凛?」
「ふへへ。」

変な笑いをしながら抱きつく僕に大翔はちょっと困惑してたけど、ぎゅっと抱きしめ返してくれる。
もっともっと僕の思ってることが伝われば良いのに。

「ねぇ、凛。」
「なに?」

「今日泊まって行かないか?」
「ぇっ…今日?」
「あぁ、今日は凛と一緒にいたい。」

良いのかな、でも僕も大翔と一緒にいたい。

「礼央さんには僕から話すよ。」
「うん。僕からもお願いする。」
「じゃあ2人とも下にいるから言いに行こう。」

礼央くんに言いに行くと、二つ返事で了承された。
明日は大翔と柴田さんが送ってくれるらしい。

泊まることより、僕の服が変わってたことの方が揶揄われてしまって恥ずかしかった。

晩御飯もみんなで食べた。
お鍋にするって言うから何かと思ったらまさかのフグ鍋だったんだけど、家でフグって食べるものなのかと驚いてしまった。

ふぐ鍋も最後の雑炊も本当に美味しかった。
やっぱりお出汁が美味しいもんな。

晩御飯の後みんなでリビングに移動して僕の話になった。
カナダ時代の事とか、あと趣味の料理の事とか。
高校に入ったら未亜さんも入っていたらしい、礼央くんが所属してた料理研究部に入るつもりだ。

もっと料理うまくなって、大翔に美味しい料理をいっぱい食べて欲しいって話したら大翔がぎゅっと肩を抱いてきて2人でふふふって笑い合った。

すごく幸せな時間だと思う。
好きな人と、好きな人の家族とも一緒に過ごせて。

みんなで他愛のない話で笑うんだ。
たまに理人さんが大翔のこと揶揄ったり、それで嫌そうな顔してる大翔見るのも新鮮で楽しかった。


夜も更けてきて礼央くんと颯斗さんは自宅に戻っていった。
ママさんは泊まっていけって言ってたけど、明日颯斗さんは朝から仕事だからって断っていた。
明日は礼央くんもお店だしね。

「そろそろ部屋に戻ろうか。」
「うん。」

部屋に戻るとベッドルームの脇の部屋に入っていくとそこはお風呂だった。

え、個々にお風呂あるの?
この家で驚くことないかもと思ってたけど、まだまだありそうだ。

「これ、凛のパジャマ。服と一緒に買ってきてもらったから。」
「?服買う時泊まるって決まってなかったよね?」
「うん、まぁ。そうなんだけど、いつか…泊まった時にって思って…。」

これ、さっきの紙袋以外にも僕の服…買ってきてそうだな…。
下着も新しいの出されたし。

「ふふ。」
「…嫌だったか?」
「ううん、なんか…可愛いなって思った。」
「…可愛い…のか?」

なんか、いろいろ僕のこと考えて用意してくれてるの思ったら可愛いなって思ったんだけど。
大翔には伝わらなかったみたい。

お風呂に入って買ってもらったパジャマを着て部屋に戻ると、大翔はパソコンで何やら作業していた。

「大翔?」
「あぁ、凛上がった?髪の毛まだ濡れてるよ?」

大翔が僕の髪の毛をタオルで拭いてくれる。
ソファに僕を座らせると洗面台まで行ってドライヤーと櫛とヘアオイルを持ってきて乾かしてくれる。

あ、このヘアオイルの匂い良い匂いだなぁ。

暖かい風をあてて、大翔の指が僕の髪の毛を梳くように髪の毛を乾かしていく。
そこまで長くない髪の毛だからすぐに乾いた。
ヘアオイルのおかげか髪の毛艶々だ。

艶々の髪に仕上がったとこで大翔は僕の旋毛にチュッと口付けた。

「大翔、このヘアオイルっていつも使ってるやつ?」
「…。」
「…?」
「凛用に買った…。高校入る前に使わなかったら、寮に持っていくつもりだった。」

一体僕のためにどれだけ用意してるんだろうか。
僕のために用意されたもの一つ一つが大翔の気持ちのカケラみたいで、何だかくすぐったい。
あんまり、お金は使ってほしくないけど…。

僕の後ろに座っていた大翔の胸に寄りかかって上を向くと、少し居心地の悪そうな顔をした大翔と目が合う。

「ふふ、ありがとう。でもあんまり買い込まないでね。」
「…嫌か?」
「ううん、嫌っていうか…申し訳ないから。」
「気にしなくていい。この前まで仕事を手伝ってたことで得た報酬を使ってるだけだし。それに、そのお金はいつか大事な人ができたら使おうと思って貯めてたんだ。」
「…大事な人。」
「そう、凛が俺の大事な人。」

そういって僕のことを抱きしめておでこに口付けた。

「ふへへ。」

変な笑い方をする僕に大翔も笑って髪を撫でる。

ああ、やっぱり幸せだな。

クリスマスの夜はそんな気持ちで心が満たされていった。


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