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第三章:第四創世主の弱点

九話:神器とダイヤ

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 気が付くと、三人が心配そうにしながら俺を取り囲んでいた。

 「――はぁっ! はぁっ! はぁっ!」

 い、今のはいったい……?

 「ソウタ様っ! 良かった……お戻りになられたのですね」
 「報告、精神操作は解除。未知の存在の気配も消失した」
 「ご主人様……お守りできず大変申し訳ございません……」
 「ちょ……ちょっと待った。俺、いま何がどうなってた……?」

 言い知れぬ疲労感に襲われ、ドカっと尻餅をつくように地面へと腰を下ろす――と、少し離れた道の上に一振りの剣が突き立っているのに気が付く。

 「あれは……ディモズの……っ!?」

 確か、神剣グリフェルとかいったか……なぜここに!?

 「あの剣は、ソウタ様が突然独り言を呟きはじめ……暫くすると上から降ってきたのです」
 「解説、障壁が意味を為さないほど高出力の念波によりソウタは精神操作されていた。解除試行中、突然あらわれた神剣からの魔力干渉が発生。念波の中和が行われ、精神操作を解除することができた」
 「……なんだよ。助けられちまったのか」

 他人に手を貸すなどおよそディモズらしくない行動ではあるが、よほど俺に負けたことが悔しかったのか……いや、自分以外のヤツにいい様にやられてんじゃねえ、ってとこか?
 立ち上がり、剣の柄に手をかける。

 「ま、今回は素直に感謝しておくか……」

 ほとんど何の力も入れていないのに、地面に深く突き刺さっていた剣が音もなく抜けていく。

 「ソウタ様……?」

 突然ブツブツ言いながら剣を引き抜くという奇行を始めたため再び心配になったのか、メリシアが眉を寄せながら隣まできて顔を覗いてくる。

 「ああ、ごめん……もう大丈夫だよ」
 「……いったい何があったのか、お聞かせ頂いてもよろしいですか?」
 「さっきのは、恐らく創世の救主の仕業だな。それも、二番目のヤツだと思う」
 「創造の恩恵主様……ですか?」
 「そうそう、それそれ。なんかそんなようなこと自分で言ってた――また会おう、みたいなことも」
 「恐れ多くもご主人様に害をなすとは、いくら救主様といえど許せません」
 「同意、しかしセルフィ達の力不足のせいでソウタを危険な状態にさせたことは、認めなければならない事実」
 「そう、ですね……私なんて、初めてお会いした日から何のお役にも立てておりませんが……」

 何やらメリシアがションボリとうなだれるが、いやいやそんなことないでしょ! 俺の発作止めてくれてるのメリシアでしょ!! 自信もって! と、とても口には出せない励ましの言葉を心の中で叫ぶ。

 「……いや、みんなは良くやってくれてるよ。問題は俺だ……魔術という存在に対して何の心構えも準備もできていないから、こんな簡単に相手の術中に落ちるんだ」
 「回答、適性も無いのに心構えをしても意味は無い。準備なら今、神器捜索という方法で行っている。やれることをやっているソウタが気に病む必要はない」
 「セルフィの言う通りでございます。ボク達は、魔術の使えないご主人様を魔術から守る、鎧のようなもの。その役割も果たせないのであれば存在意義などありません」
 「そんなことは無いと思うけど……そっか。それじゃ、これからみんなで努力して高め合っていくってのはどうだ? セルフィとファフミルは魔術障壁の強化を頑張る。俺はおっさんやラオとやってる訓練と並行して、メリシアに剣を教えて貰う、とか」
 「――ッ!?」

 メリシアが驚くような、喜ぶような、複雑な表情を浮かべてこちらを見る。

 「ディモズがこの剣……貸してくれるっていうからさ。ちょっとは使えるようにならないとだろ?」
 「わ、分かりましたッ! お任せください!」
 「了解」
 「かしこまりました。二度とこのようなことが無いよう、イチから鍛え直します」
 「頼りにしてるよ。それじゃ、探索を続けようか。早く神器っての見つけないとな――」

 言い終わると同時に、グリフェルが俺を引っ張るように地面に対して水平になった。

 「んんっ? なんだ……?」

 握力を弱めるとスルスルと手から抜けていきそうになり、慌てて力を入れ直す。
 俺が少し抵抗感を覚えるほど引っ張られているため、常人ならばとても持っていられないだろう。

 「……どこかに連れていこうとしてるのか?」
 「いかがいたしましたか、ソウタ様」
 「いや、なんかコイツが俺のこと引っ張ってきてさ……とりあえず、行ってみようか」

 引かれるがままに歩きはじめる。
 どうやらコイツには道沿いに行くという概念など無いらしく、時折一か所に固まるようにして落ちているダイヤを回収しながら、建物の壁を壊し、飛び越えていく。
 ……かれこれ四時間ほどぶっ続けで歩いたところで、真四角の形に立っている柱それぞれを、また四つの柱が囲むように並んでいる不思議な……祭壇のような場所の前で、剣が引っ張るのを止めた。
 祭壇の中央にはいかにもな石棺が置いてあり、どうやら雰囲気的に、その中に神器が納められているらしい。
 俺は正直なところまだまだ大丈夫なのだが、さすがに他の皆は休みらしい休みなしでここまで来ているため、疲労の色が濃くなってきていた。

 「どうやら、ここみたいだ……みんな、大丈夫か?」
 「ボ、ボクのことならお気遣いなく。ご主人様と共に歩ける……喜びで、全身が満ち溢れております……」
 「私も……まだ、大丈夫です……」
 「回答、また襲撃がある可能性も考慮すると、神器の確保が最優先」
 「……分かった」

 と言っても、この手の遺跡は宝物をゲットしたら崩れるというのがお約束と思われるため、何かあった時のため、先に地下空間へ続く穴を掘っておくことにする。
 拠点との位置関係は途中ですっかり分からなくなってしまっていたものの、そこはセルフィがしっかり把握してくれていたようで「拠点までは、ソウタなら直線で十七秒」とのことだった。

 「――よし、それじゃ開けるぞ……」

 穴を掘り終え、いよいよ石棺のフタに手をかける。
 ゆっくりと……渇きに粘つく唾液をゴクリと飲み込みながら押し開いていく。

 ズズ、ズズズズ……ゴゴンッ

 フタが棺の向こう側へと落ち、真っ暗だった内部に光が当たる――

 「……エッ」

 なにこれ……腕輪?
 人間なら二、三人は入れそうなほどでかい棺の真ん中に置かれていたのは、小さな腕輪が一つと、ドラゴンの喉に刺さっていた物と同じような白い巻物が一本置いてあるだけで、なんだか拍子抜けしてしまう。
 神器ってくらいだから、剣とか鎧とか盾とかそういう類のモノだとばかり思ってたのに……こんな細い腕輪が一つだけって……。

 「回答、魔術的な罠などは仕掛けられていない」
 「ソウタ様、早くお手に取ってみてください」
 「さすがは神器でございますね……存在感がそこらの装飾品とは一線を画しております」
 「えっ、そ、そうなの……?」

 今のところ、俺にはその凄さのほどがまったく伝わってこないのだが……とりあえず、腕輪を取るのを三人が期待の眼差しで見ているようなので、そっと拾い上げる。

 「……何も起きないな」

 建物が崩壊し始めるとか虫の大群が沸き始めるとか隠れ潜んでいた原住民が襲い掛かってくるとか――そういうことは特になく、辺りは相変わらずシーンと静まり返っていて、こちらも別の意味で拍子抜けしてしまう。
 これが考古学者や墓泥棒だったら……いやいや、現実なんてこんなもんだろ。
 むしろ何も無くて良かったじゃないか、俺。

 「ど、どうかな……?」

 腕に着けると、ユルすぎずキツ過ぎない、まるで俺専用に作られたかのような絶妙なフィット感で、ピッタリと肌に密着してくる……が、いくら待っても期待していた色々を腕輪が起こしてくれる様子はなかった。

 「お似合いです!」

 いや、似合ってるかどうかってことじゃなくて……。
 え、これでおしまい? 神器ってこんなもんなの?
 なんか、身体能力が向上した! とか、謎のオーラに包まれた! とか、そういうのがあったりするんじゃないの?

 「セルフィ、この腕輪のことって……そこに何か書いてないか?」

 巻物を解読しているセルフィへと声をかける。

 「回答、その腕輪は神器ラファムレアで間違いない。それを巡った争いの果てに、有機物は全て金剛石になったらしい。ここに安置したまま持ち出さないで欲しいと締めくくられている」

 腕輪の機能的なことについて質問したのに、思いもよらない答えが返ってきたため、困惑してしまう。
 有機物は全部ダイヤになったって……じゃあ、

 「このダイヤ、元々は人間だったってことか……?」
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