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第三章:第四創世主の弱点
三話:貧者の洞窟1
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「こちらが貧者の洞窟の入り口で間違いなさそうです」
グステンからかなり離れた――といっても近くまではファフミルが転移してくれた――海沿いの、崖の隙間に隠れるように開いていた横穴へと入り、さらにそこから歩くこと一時間。
ようやく着いたらしい入り口は、四角い線の四隅の点をさらに四角でそれぞれ囲った、幾何学模様のような奇妙なデザインの模様がそこかしこに掘られているだけの、ただの行き止まりだった。
「入り口って……行き止まりだぞ? 本当にこんなところに神器なんてあるのか?」
「私も話に聞いていただけですし、実際に来るのは初めてですので何とも……ただ、過去に強欲な協会長が神器欲しさにここを訪れたものの、この貧者の紋章に触れた瞬間に姿が消え、二度と帰らなかったなどという逸話も残されておりますので――」
そういってグエンが壁に刻まれている模様に手を触れた瞬間、今までそこに人などいなかったかのように姿が掻き消えた。
「グ、グエン!?」
「……不明」
何が起きたのか分からず、無意識に解説を求める視線を送ってしまったが、セルフィも無表情ながら困惑した様子で呟く。
「状況的に、どうやらこの紋章に触れるとどこかへ飛ばされるといった感じなのでしょうか……」
「あるいは瞬時に存在を消してしまうような死の罠……という可能性もあるか?」
「やめろよおっさん……」
メリシアの考察におっさんが不吉な可能性を追加するので、思わず背筋が寒くなる。
神器が安置されてるっていうから神殿みたいなところを想像してたら、実際はこんなにヤバそうなところだったとは……。
「ご主人様、ボクに試させて欲しいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
「いいけど……何をする気だ?」
「とても単純なことです」
そう言うと、髪の毛を後ろで一本に纏めるために結わいていた紐を解き、セルフィに手渡してから、ファフミルが壁の模様に触れた。
「ファフミ――」
途中でファフミルが試そうとしていることに気が付き、慌ててスローモーションへと移行するが既に遅く、伸ばした手はその白い肌へ触れることなく空を切る。
「くそっ! 安全かどうかも分からないってのに無茶しやがって!」
「平気、ファフミルはここからおよそ十三里ほど下に転移」
「本当か!! っつーかなんでそんなことが分かるんだ!?」
「回答、コレにファフミルの位置情報が同期されている」
魔術か!
「よ、良かった……」
「よし。ならば次はオレが行こう」
水やら食料やらを目一杯つめこんだ、いったい何十キロあるのか分からない革のカバンを背負ったおっさんが壁の模様に手を触れ、消える。
「では次は私が……行きますね」
「待った! べ、別に一人ずつ行かなくても……みんなで一緒に行ってもいいんだろ?」
「回答、転移先座標に障害物無し。問題無い」
安全っぽいことはファフミルのお陰で証明されたとはいえ、おっさんのせいで無駄にビビってしまい、そう提案する。
メリシアが一瞬キョトンとした表情を浮かべるが、すぐに優しく微笑んで俺の左手を握ってくれた。
「フフッ。はい、そうしましょうね」
ムニュギュッ――
まるで子供をあやす母親のような優しい表情を浮かべるメリシアに見惚れていると、突然、温かいモノが右腕に触れる。
少し驚いて右を向くと、セルフィが俺の体に絡みつくようにしてギュッと抱きしめてきていた。
「ソウタ、セルフィもいるから大丈夫。安心して」
「セルフィ……メリシアも、ありがとう」
女性二人に心配されるというこの状況は男としてかなり情けないものを感じるが、怖いものは怖いのだからしかたがない。
「じゃ……じゃあ、触るぞ」
「……はい」
「了解」
ゆっくりと右腕を壁の模様へと近づけていき、触れた――と思った次の瞬間には、閉塞感ただよう先ほどまでの洞窟とはガラリと様相の変わった……ジオフロントとでも言うのか、陽光ともまた違った不思議な淡い光に照らされた、草木の生い茂る広大な地下空間がどこまでも続く一画の、地面が不自然に隆起した場所へと転移していた。
グステンからかなり離れた――といっても近くまではファフミルが転移してくれた――海沿いの、崖の隙間に隠れるように開いていた横穴へと入り、さらにそこから歩くこと一時間。
ようやく着いたらしい入り口は、四角い線の四隅の点をさらに四角でそれぞれ囲った、幾何学模様のような奇妙なデザインの模様がそこかしこに掘られているだけの、ただの行き止まりだった。
「入り口って……行き止まりだぞ? 本当にこんなところに神器なんてあるのか?」
「私も話に聞いていただけですし、実際に来るのは初めてですので何とも……ただ、過去に強欲な協会長が神器欲しさにここを訪れたものの、この貧者の紋章に触れた瞬間に姿が消え、二度と帰らなかったなどという逸話も残されておりますので――」
そういってグエンが壁に刻まれている模様に手を触れた瞬間、今までそこに人などいなかったかのように姿が掻き消えた。
「グ、グエン!?」
「……不明」
何が起きたのか分からず、無意識に解説を求める視線を送ってしまったが、セルフィも無表情ながら困惑した様子で呟く。
「状況的に、どうやらこの紋章に触れるとどこかへ飛ばされるといった感じなのでしょうか……」
「あるいは瞬時に存在を消してしまうような死の罠……という可能性もあるか?」
「やめろよおっさん……」
メリシアの考察におっさんが不吉な可能性を追加するので、思わず背筋が寒くなる。
神器が安置されてるっていうから神殿みたいなところを想像してたら、実際はこんなにヤバそうなところだったとは……。
「ご主人様、ボクに試させて欲しいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
「いいけど……何をする気だ?」
「とても単純なことです」
そう言うと、髪の毛を後ろで一本に纏めるために結わいていた紐を解き、セルフィに手渡してから、ファフミルが壁の模様に触れた。
「ファフミ――」
途中でファフミルが試そうとしていることに気が付き、慌ててスローモーションへと移行するが既に遅く、伸ばした手はその白い肌へ触れることなく空を切る。
「くそっ! 安全かどうかも分からないってのに無茶しやがって!」
「平気、ファフミルはここからおよそ十三里ほど下に転移」
「本当か!! っつーかなんでそんなことが分かるんだ!?」
「回答、コレにファフミルの位置情報が同期されている」
魔術か!
「よ、良かった……」
「よし。ならば次はオレが行こう」
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「では次は私が……行きますね」
「待った! べ、別に一人ずつ行かなくても……みんなで一緒に行ってもいいんだろ?」
「回答、転移先座標に障害物無し。問題無い」
安全っぽいことはファフミルのお陰で証明されたとはいえ、おっさんのせいで無駄にビビってしまい、そう提案する。
メリシアが一瞬キョトンとした表情を浮かべるが、すぐに優しく微笑んで俺の左手を握ってくれた。
「フフッ。はい、そうしましょうね」
ムニュギュッ――
まるで子供をあやす母親のような優しい表情を浮かべるメリシアに見惚れていると、突然、温かいモノが右腕に触れる。
少し驚いて右を向くと、セルフィが俺の体に絡みつくようにしてギュッと抱きしめてきていた。
「ソウタ、セルフィもいるから大丈夫。安心して」
「セルフィ……メリシアも、ありがとう」
女性二人に心配されるというこの状況は男としてかなり情けないものを感じるが、怖いものは怖いのだからしかたがない。
「じゃ……じゃあ、触るぞ」
「……はい」
「了解」
ゆっくりと右腕を壁の模様へと近づけていき、触れた――と思った次の瞬間には、閉塞感ただよう先ほどまでの洞窟とはガラリと様相の変わった……ジオフロントとでも言うのか、陽光ともまた違った不思議な淡い光に照らされた、草木の生い茂る広大な地下空間がどこまでも続く一画の、地面が不自然に隆起した場所へと転移していた。
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