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第二章:帝国の滅亡
六話:うっかり
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ルル商会……確かチラシの協賛に載ってたな。
商店と思しき建物が立ち並ぶ大通り沿いにあって一際目立つ両開きの入り口は、金の縁取りに煌びやかな装飾が施された見事なもので、恐る恐る中を覗くと、高級百貨店にあるブランドショップのような、オシャレな服がオシャレにレイアウトされたオシャレ空間が広がっていた。
「うわぁ……」
元いた世界なら、まず足を踏み入れないタイプの店だ。
奥に階段があるのにフロアの真ん中を占有している謎の螺旋階段、その横に配置されているなぜか一体しかないマネキン、踏むのもためらうような無駄に毛の長い絨毯――どこを見ても怒涛の如く押し寄せるオシャレに、思わず扉の前でしり込みしてしまう。
むぅ、何やら空気すらオシャレな気が……。
「これは香水の香りですね」
俺がスンスンと鼻を鳴らしオシャレを匂っていたのに気が付いたのか、メリシアが教えてくれる。
「香水なんかもあるのか」
「はい。オールタニアでは禁制品に指定されておりましたから、滅多に体験できるものではありませんでしたが……やはりお花みたいないい香りですね」
俺とは対照的に、実に興味深げにそこかしこへ視線をさまよわせながら服やら内装やらを見ている。
やっぱりそこは女の子なんだな……などと微笑ましく思っていると、何の躊躇もなく店内に乗り込んだおっさんがいつもの調子で大声を張り上げた。
「すまぬが、クシュナを呼んでくれぃ!」
すると、螺旋階段の横で微動だにせず立っていた店員(マネキンじゃなかった!?)が、まるでランウェイを歩くモデルのように堂々と歩いてきた。
「恐れ入りますが、ルルー代表は席を外されております。ご用件でしたらこちらでお伺いいたします」
近くで見ると、左目の下に小さなホクロがある年上のお姉さん――といった印象の、メリシアとはまた違ったベクトルの美人だった。
健康的に痩せながらもしっかりと主張するおっぱい――巨乳党的主観ではE~Fと判断する――も、プルプルと柔和な母性を振りまきながら、俺と同じくらいの身長がある彼女に対する印象を和らげてくれている。
雪国に吹く風のようなシュッと通った声と受け答えの内容が相まって、さすがに冷たくあしらわれているように感じてしまうが、おっさんは意にも介していないように続けた。
「トルキダスが来たと伝えろ。それだけでいい」
「トルキダス様……で、ございますか。失礼ながら――」
「おじさまっ!」
美人店員が何やら言いかけたところで、扉がバーンと開かれる音が奥にある階段のほうから響いてきて、次いで女性がこちらに向かって走ってきた。
それを見たおっさんが頬を緩ませ両手を広げる。
「おお、クシュナ! 元気にしていたか!」
「おじさまぁっ!!」
そのままの勢いで飛び付いてきた女性をおっさんが抱きとめ、クルクル回転しながら何やら嬉しそうにしている。
「クシュナよ。こやつが以前話したメリシアと――その護衛を任せているイマイソウタだ」
メリシアと俺が紹介されると、クシュナとか呼ばれている女性がおっさんの胸にうずめていた顔を起こしてこちらを見た。
「おじさまのお連れの方、遠路はるばるようこそ。私はクシュナ・ルルー、このルル商会の代表です。以後お見知りおきを」
メリシアがエロに全振りしているグラドル的な美人なのに対して、ルルーさんは綺麗に全振りしている女優的な正統派美人といった感じなのだが、芯の強さを感じさせるその眼差しはどこか憂いを帯びていて、なんとも神秘的な雰囲気を醸し出している。
因みにおっぱいは普乳だ。
「オールタニア枢機卿、メリシアという。トルキダスが世話になっているようで礼を言う」
「あら、お礼なんてとんでもないわ。お世話されてるのは私の方だもの」
「ほう、それは興味深いな」
「どうお世話されてるか、よかったら奥の客室で詳しく――」
「あー……クシュナよ、すまぬな。積もる話もあろうが……このあともまだ用事があってな。今日は挨拶だけしに来たのだ」
「え~っ! もう行っちゃうの!?」
「明日、必ずまた来る――」
「まだ日も高いんだし、お連れの二人には観光でもしてきて貰って、おじさまは私とお話しましょ」
「そういう訳には――」
「イヤッ、明日までなんて待てないわ! おじさまぁ、お願いよ~」
「ぬ~ん……」
おお、あのおっさんが困ってる。この姉ちゃんただモンじゃねえ。あと俺挨拶してねえ。
まあいっか……いつもの礼もあるし、ここは俺が一肌脱いでやろう。
「メリシア、俺、今すげぇ甘いもの食べたい気分でさ。一緒に食べに行かない?」
「えっ? は、はい、喜んで……でも、トルキダスは?」
「おっさんは何か用事があるみたいだから、日が落ちる頃にロイタージェンで待ち合わせればいいだろ」
「そう、ですか?」
「ほら早く行こうメリシア」
おっさんが、恩に着る、って感じで視線だけでお辞儀するのが見えたが、俺はそれに気付いていないフリをして踵を返す。
男ってのはよ……こういうとき、背中で語るもんなんだぜ。
そのまま扉を出て三歩進んだところで、俺はニヤリと笑ってふたたび店の中へと戻る。
「おっさん、そういや俺カネ持ってないわ」
商店と思しき建物が立ち並ぶ大通り沿いにあって一際目立つ両開きの入り口は、金の縁取りに煌びやかな装飾が施された見事なもので、恐る恐る中を覗くと、高級百貨店にあるブランドショップのような、オシャレな服がオシャレにレイアウトされたオシャレ空間が広がっていた。
「うわぁ……」
元いた世界なら、まず足を踏み入れないタイプの店だ。
奥に階段があるのにフロアの真ん中を占有している謎の螺旋階段、その横に配置されているなぜか一体しかないマネキン、踏むのもためらうような無駄に毛の長い絨毯――どこを見ても怒涛の如く押し寄せるオシャレに、思わず扉の前でしり込みしてしまう。
むぅ、何やら空気すらオシャレな気が……。
「これは香水の香りですね」
俺がスンスンと鼻を鳴らしオシャレを匂っていたのに気が付いたのか、メリシアが教えてくれる。
「香水なんかもあるのか」
「はい。オールタニアでは禁制品に指定されておりましたから、滅多に体験できるものではありませんでしたが……やはりお花みたいないい香りですね」
俺とは対照的に、実に興味深げにそこかしこへ視線をさまよわせながら服やら内装やらを見ている。
やっぱりそこは女の子なんだな……などと微笑ましく思っていると、何の躊躇もなく店内に乗り込んだおっさんがいつもの調子で大声を張り上げた。
「すまぬが、クシュナを呼んでくれぃ!」
すると、螺旋階段の横で微動だにせず立っていた店員(マネキンじゃなかった!?)が、まるでランウェイを歩くモデルのように堂々と歩いてきた。
「恐れ入りますが、ルルー代表は席を外されております。ご用件でしたらこちらでお伺いいたします」
近くで見ると、左目の下に小さなホクロがある年上のお姉さん――といった印象の、メリシアとはまた違ったベクトルの美人だった。
健康的に痩せながらもしっかりと主張するおっぱい――巨乳党的主観ではE~Fと判断する――も、プルプルと柔和な母性を振りまきながら、俺と同じくらいの身長がある彼女に対する印象を和らげてくれている。
雪国に吹く風のようなシュッと通った声と受け答えの内容が相まって、さすがに冷たくあしらわれているように感じてしまうが、おっさんは意にも介していないように続けた。
「トルキダスが来たと伝えろ。それだけでいい」
「トルキダス様……で、ございますか。失礼ながら――」
「おじさまっ!」
美人店員が何やら言いかけたところで、扉がバーンと開かれる音が奥にある階段のほうから響いてきて、次いで女性がこちらに向かって走ってきた。
それを見たおっさんが頬を緩ませ両手を広げる。
「おお、クシュナ! 元気にしていたか!」
「おじさまぁっ!!」
そのままの勢いで飛び付いてきた女性をおっさんが抱きとめ、クルクル回転しながら何やら嬉しそうにしている。
「クシュナよ。こやつが以前話したメリシアと――その護衛を任せているイマイソウタだ」
メリシアと俺が紹介されると、クシュナとか呼ばれている女性がおっさんの胸にうずめていた顔を起こしてこちらを見た。
「おじさまのお連れの方、遠路はるばるようこそ。私はクシュナ・ルルー、このルル商会の代表です。以後お見知りおきを」
メリシアがエロに全振りしているグラドル的な美人なのに対して、ルルーさんは綺麗に全振りしている女優的な正統派美人といった感じなのだが、芯の強さを感じさせるその眼差しはどこか憂いを帯びていて、なんとも神秘的な雰囲気を醸し出している。
因みにおっぱいは普乳だ。
「オールタニア枢機卿、メリシアという。トルキダスが世話になっているようで礼を言う」
「あら、お礼なんてとんでもないわ。お世話されてるのは私の方だもの」
「ほう、それは興味深いな」
「どうお世話されてるか、よかったら奥の客室で詳しく――」
「あー……クシュナよ、すまぬな。積もる話もあろうが……このあともまだ用事があってな。今日は挨拶だけしに来たのだ」
「え~っ! もう行っちゃうの!?」
「明日、必ずまた来る――」
「まだ日も高いんだし、お連れの二人には観光でもしてきて貰って、おじさまは私とお話しましょ」
「そういう訳には――」
「イヤッ、明日までなんて待てないわ! おじさまぁ、お願いよ~」
「ぬ~ん……」
おお、あのおっさんが困ってる。この姉ちゃんただモンじゃねえ。あと俺挨拶してねえ。
まあいっか……いつもの礼もあるし、ここは俺が一肌脱いでやろう。
「メリシア、俺、今すげぇ甘いもの食べたい気分でさ。一緒に食べに行かない?」
「えっ? は、はい、喜んで……でも、トルキダスは?」
「おっさんは何か用事があるみたいだから、日が落ちる頃にロイタージェンで待ち合わせればいいだろ」
「そう、ですか?」
「ほら早く行こうメリシア」
おっさんが、恩に着る、って感じで視線だけでお辞儀するのが見えたが、俺はそれに気付いていないフリをして踵を返す。
男ってのはよ……こういうとき、背中で語るもんなんだぜ。
そのまま扉を出て三歩進んだところで、俺はニヤリと笑ってふたたび店の中へと戻る。
「おっさん、そういや俺カネ持ってないわ」
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