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買われて行った先(二)
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今ここで全てを脱ぐというのは、一体どういう意味だろうか。ここは玄関ホールにしか過ぎない。
辺りを見渡しても、着替えが出来るような部屋はなかった。
しかもここでということは、今数人いる使用人たち前で、全てを脱ぐということだろう。
男の言葉の意味が分からず、ミルティアナはただ混乱した。
「あの、ここで、今脱ぐのですか?」
どうか、ただの冗談であって欲しい。そんな思いから、ミルティアナは男にもう一度聞き返す。
すると男は眉間にシワを寄せ、機嫌の悪さを隠そうとはしなかった。
一瞬、男の言葉を聞き返したことを後悔しそうになった自分に、ミルティアナは自嘲した。
こんな理不尽なことですら、平気で受け入れようとしている自分自身にミルティアナは悲しくなる。
「学がないということは分かっていましたが……。何度同じことを言わせるのですか?」
「で、でも、ここで全てを脱ぐだなんて」
「別にこれは、あなたにお願いをしているわけではないんですよ?」
お願いをしているわけではない。つまりは、命令ということだろうか。
どちらにしても、男はミルティアナに有無を言わせる気はないようだった。
「これ以上抵抗して騒ぐのならば、この場で誰かに脱がさせますが、どうしますか」
脱がなければ、無理やりにでも脱がす。丁寧であって、決して親切ではないその言葉にミルティアナは恐怖を覚えた。
「分かりました……。せめて、理由を……ここで服を脱ぐ理由を聞いてもいいですか」
しっかり上を見て、男を見据える。彼の真意がどこにあるのか。必死にミルティアナはそれを探ろうとしていた。
「それはもちろん、外からこの屋敷に危険物を持ち込まれても困りますからね」
十代の娘が、ましてや買われてきたに過ぎない子が、どんな危険物を屋敷に持ち込むというのだろうか。
これはただの辱めであり、嫌がらせに過ぎない。ミルティアナの中でその思いは確信に変わる。
しかしだからといって、この行為に抵抗する術はない。
もしボディーチェックという名目で触られたらと思うと、それは今以上の屈辱だろう。
そんな自分の無力さに泣きだしそうになるのを、ミルティアナは唇を噛みしめながら必死に堪えた。
「わかりました」
そう言いながら、ミルティアナは荷物を下ろし、着ていたワンピースを脱ぎ始める。
その途中、先ほどの母の言葉が甦ってきた。
『聞こえやしないわよ。こんな立派な扉はね、声なんて漏れないのよ』
外の声が聞こえないといことは、中からの声も聞こえないということだと、今はっきりとミルティアナは理解した。
(こんな時に、泣ける子なら……)
ここに、この屋敷に入ってしまった自分がいくら悔しさや悲しさで泣き叫んだとしても、その声は誰にも届きはしない。
ストンっと床に落ちるワンピースと共に、ミルティアナの絶望が、足元から床にへと広がって行く気がした。
辺りを見渡しても、着替えが出来るような部屋はなかった。
しかもここでということは、今数人いる使用人たち前で、全てを脱ぐということだろう。
男の言葉の意味が分からず、ミルティアナはただ混乱した。
「あの、ここで、今脱ぐのですか?」
どうか、ただの冗談であって欲しい。そんな思いから、ミルティアナは男にもう一度聞き返す。
すると男は眉間にシワを寄せ、機嫌の悪さを隠そうとはしなかった。
一瞬、男の言葉を聞き返したことを後悔しそうになった自分に、ミルティアナは自嘲した。
こんな理不尽なことですら、平気で受け入れようとしている自分自身にミルティアナは悲しくなる。
「学がないということは分かっていましたが……。何度同じことを言わせるのですか?」
「で、でも、ここで全てを脱ぐだなんて」
「別にこれは、あなたにお願いをしているわけではないんですよ?」
お願いをしているわけではない。つまりは、命令ということだろうか。
どちらにしても、男はミルティアナに有無を言わせる気はないようだった。
「これ以上抵抗して騒ぐのならば、この場で誰かに脱がさせますが、どうしますか」
脱がなければ、無理やりにでも脱がす。丁寧であって、決して親切ではないその言葉にミルティアナは恐怖を覚えた。
「分かりました……。せめて、理由を……ここで服を脱ぐ理由を聞いてもいいですか」
しっかり上を見て、男を見据える。彼の真意がどこにあるのか。必死にミルティアナはそれを探ろうとしていた。
「それはもちろん、外からこの屋敷に危険物を持ち込まれても困りますからね」
十代の娘が、ましてや買われてきたに過ぎない子が、どんな危険物を屋敷に持ち込むというのだろうか。
これはただの辱めであり、嫌がらせに過ぎない。ミルティアナの中でその思いは確信に変わる。
しかしだからといって、この行為に抵抗する術はない。
もしボディーチェックという名目で触られたらと思うと、それは今以上の屈辱だろう。
そんな自分の無力さに泣きだしそうになるのを、ミルティアナは唇を噛みしめながら必死に堪えた。
「わかりました」
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その途中、先ほどの母の言葉が甦ってきた。
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(こんな時に、泣ける子なら……)
ここに、この屋敷に入ってしまった自分がいくら悔しさや悲しさで泣き叫んだとしても、その声は誰にも届きはしない。
ストンっと床に落ちるワンピースと共に、ミルティアナの絶望が、足元から床にへと広がって行く気がした。
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