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違和感の正体
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私は日記をぱたりと閉じた。
これがアーシエとルドとの出会い。
出会ったその次の日には、アーシエを婚約者候補とルドがしたのだ。
そうだ……。
候補者は二人だった。
侯爵家の令嬢であったアーシエと、公爵家の令嬢であったユイナ様。
ある意味三角関係は、あの時から始まっていたんだ。
「……ただ、これ……日記というには……」
日付も書かれている、普通の日記。
しかしその内容が、当時子どもだったアーシエが書いていたにしてはずいぶんと大人びている。
パラパラと数ページめくっても、同じように日にちは飛んでいるものの、その日起きたことを書いているようだっだ。
「ん-、なにかな……さっきから……」
日記から伝わる、漠然たる違和感。
その日の出来事とそぐわないような大人びた感想以外にも、もっと根本的ななにか。
「お嬢様、お迎えの馬車がお待ちですが」
部屋をノックした後、執事が部屋に入ってくる。
窓の外を覗けば、やや日は傾きかけてきていた。
ルドに早く帰ると言った手前、これ以上実家にいるのはまずいだろう。
あれだけアーシエに執着を見せているルドだ。
なにかあれば、もう外出させてもらえなくなってしまう。
ヤンデレルートからの脱出は信頼関係だと私は思っている。
それをこんなことで崩すわけにはいかなかった。
「すぐに荷物を積めて、行くわ」
「では、そのように伝えますね」
執事の返事を聞くと、クローゼットからカバンを取り出す。
その中に、ルドからの手紙と新品のレターセットを入れた。
「これぐらいかな」
置かれた人形たちには興味はない。
それにドレスや装飾品はルドが買ってくれたものがたくさんある。
下手にここのモノを持ち出すのは、あまり得策とは思えないからこれで十分だろう。
「あとは日記だけで十分ね」
そう言って日記をカバンに入れようとした時、手からするりと日記が落ちる。
「もぅ」
拾い上げようとした時に、そのページに目が留まった。
内容ではない。
先ほどから感じていた違和感は、文字だ。
「これ、日本語……」
日記に書かれていた文字は、この世界の文字ではない。
全てが日本語で書かれていた。
「まって……どういうことなの?」
アーシエが日本語を使えていた。
それが事実ならば、答えはもう一つしかない。
しかしそれを答えとするには、問題がある。
まずは記憶だ。
なぜ今、どうして……。
「お嬢様?」
「ああ、ごめんなさい。もう降りるわ」
全ての疑問もカバンに押し込め、私は足早に馬車へと向かった。
今はとにかく帰宅することが、一番の目的だ。
疑問は帰ってからゆっくりと考えればいい。
この時の私を、ほんの数分後に後悔が襲うとも知らずルドの元へと急ぐ。
それだけを胸に、馬車に乗り込んだのだった。
これがアーシエとルドとの出会い。
出会ったその次の日には、アーシエを婚約者候補とルドがしたのだ。
そうだ……。
候補者は二人だった。
侯爵家の令嬢であったアーシエと、公爵家の令嬢であったユイナ様。
ある意味三角関係は、あの時から始まっていたんだ。
「……ただ、これ……日記というには……」
日付も書かれている、普通の日記。
しかしその内容が、当時子どもだったアーシエが書いていたにしてはずいぶんと大人びている。
パラパラと数ページめくっても、同じように日にちは飛んでいるものの、その日起きたことを書いているようだっだ。
「ん-、なにかな……さっきから……」
日記から伝わる、漠然たる違和感。
その日の出来事とそぐわないような大人びた感想以外にも、もっと根本的ななにか。
「お嬢様、お迎えの馬車がお待ちですが」
部屋をノックした後、執事が部屋に入ってくる。
窓の外を覗けば、やや日は傾きかけてきていた。
ルドに早く帰ると言った手前、これ以上実家にいるのはまずいだろう。
あれだけアーシエに執着を見せているルドだ。
なにかあれば、もう外出させてもらえなくなってしまう。
ヤンデレルートからの脱出は信頼関係だと私は思っている。
それをこんなことで崩すわけにはいかなかった。
「すぐに荷物を積めて、行くわ」
「では、そのように伝えますね」
執事の返事を聞くと、クローゼットからカバンを取り出す。
その中に、ルドからの手紙と新品のレターセットを入れた。
「これぐらいかな」
置かれた人形たちには興味はない。
それにドレスや装飾品はルドが買ってくれたものがたくさんある。
下手にここのモノを持ち出すのは、あまり得策とは思えないからこれで十分だろう。
「あとは日記だけで十分ね」
そう言って日記をカバンに入れようとした時、手からするりと日記が落ちる。
「もぅ」
拾い上げようとした時に、そのページに目が留まった。
内容ではない。
先ほどから感じていた違和感は、文字だ。
「これ、日本語……」
日記に書かれていた文字は、この世界の文字ではない。
全てが日本語で書かれていた。
「まって……どういうことなの?」
アーシエが日本語を使えていた。
それが事実ならば、答えはもう一つしかない。
しかしそれを答えとするには、問題がある。
まずは記憶だ。
なぜ今、どうして……。
「お嬢様?」
「ああ、ごめんなさい。もう降りるわ」
全ての疑問もカバンに押し込め、私は足早に馬車へと向かった。
今はとにかく帰宅することが、一番の目的だ。
疑問は帰ってからゆっくりと考えればいい。
この時の私を、ほんの数分後に後悔が襲うとも知らずルドの元へと急ぐ。
それだけを胸に、馬車に乗り込んだのだった。
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