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真実の欠片を求めて(三)

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     ◇     ◇     ◇


 大廊下をユリティスが先頭となって歩き進める。

 歩調を合わせる気のない彼は、自分の速度でスタスタとかなり前にいた。

 初めはその速度に合わせようとした私も、後ろにいる侍女たちのことを考えて、速度を速めることを早々に放棄した。

 こいつは女性をエスコートしたことがないのだろうかと内心怒りを感じても、あくまでも優雅に、それを表情にはのせない。

 どうせ馬車の発着は一か所しかないのだ。

 急いでも急がなくても、なにも変わらない。


「あれ……なんで、私……」

「どうかされましたか? アーシエ様」


 急に立ち止まった私に、すぐ後ろを歩いていた侍女が不安そうに声をかけて来た。


「あ、いえ。なんでもないですわ。少し、考えごとをしていたの」


 そう考えごと。

 なぜ私は、馬車の発着場を知っているのかという。

 そもそも記憶というのはどこにあるのだろう。

 この体なのか、魂なのか。

 もし前者ならば、私が馬車の発着場を覚えているのは分かる。

 ただ後者ならば、少しおかしなことだ。

 ホントに、ますます混乱してきてしまったわ……。

 問題は今この答えを誰も持っていないというところ。

 実家に帰ることで、真実の欠片でも見つけられるといいのだけれど。


「ごめんなさいね、ユリティス様。なにせドレスですので、足が遅くて」


 先に馬車に着いて、そのドアを開けているユリティスへ私は微笑みながら声をかけた。

 訳:こっちはドレスなんだから、気を遣ってゆっくり歩けよ。

 などと嫌味を述べても、ユリティスの顔色は全く変わらない。


「大丈夫ですよ。ご実家でも、ずっとごゆっくりして頂ければ、結構ですよ。しばらくお帰りなられてないので、積るお話もたくさんあるでしょう。今回のことで、ご両親も心配なさっているかもしれませんし」

「まぁ。ルド様が早くとおっしゃっているのに、そんな戻って来るなと言わんばかりに言われましても、困りますわ。あの方のお言葉は私にとっては絶対ですので」


 嫌味に嫌味で返してくるとは思っていたものの、まさか実家でゆっくりして帰ってこなくても結構というような勢いで言われるとは思ってもいなかった。


「殿下のお立場のためにも、どうぞそのままごゆっくり」

「それは、どういう意味です?」


 しかしユリティスは私の問いに答えることなく、私が乗り込んだ馬車のドアを勢いよく閉めた。

 あまりの扱いに、素で馬車のドアを殴ろうとして思い留まる。

 さすがに今の私はアーシエだ。

 さすがに最低限は令嬢としての立ち振る舞いをしなければ先ほどの言葉ではないが、それだけでもルドの立場を悪くするかもしれない。

 たとえユリティスの言った言葉の真意が、分からなかったとしても。

 それだけは避けないと。

 ゆっくりと進み出す馬車の中で、ただぼんやりとその街並みを眺めた。

 見たことがあるのかないのか。

 曖昧な記憶の中で、その街並みはただ平和だった。   
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