魔法学院の護衛騎士

球磨川 葵

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第49話 戦いの訳

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『いよいよ魔法大会も大詰めです! 学院の部、決勝は、シロナ・シュヴァリエール選手VSユキナ・キーライト選手です!』
『互いに名家の対決じゃな』
『これまで得意の火属性魔法で次々と突破してきたシュヴァリエール選手! その他にも様々な魔法を見せてくれております』
『対するキーライト選手、キーライト家に相応しい魔力で圧倒しておるの。幻覚から地形変化まで面白い魔法を使うわい』
『しかし、これまで一度も攻撃魔法を使用しておりません……これはどういう事でしょうか? 授業でも見たことがないのですが……』
『ふむ、何か事情があるか……もしくはそれも作戦の内か、温存しておるのか、どちらにしろ楽しみではあるの』
『そうですね、騎士の部の決勝もお二人のパートナーでした! これは期待できそうです!』

 実況が流れる中、俺はふと思ったことを口にする。

「なぁ、キーライト家ってそんなに有名なのか?」

 話はちょくちょく聞いてはいたが、あまり興味がないので今まで気にしてもいなかった。しかし、こうなると多少は興味がわくというものだ。

「え、えっ? 知らないの?」

 戸惑ったようにリーフが俺に聞き返す。それほど有名という事だろう。

「ああ、そこらへんに疎くてな」
「んー確かにクロトさんは興味なさそうではあるよね……えっと、まずキーライト家のご当主さんは代々、皆さん第1等級魔法使いなんだよ」
「ほーそれはすごい、だからアイツの魔力も凄いんだな」

 第1等級と言えば歴代に名を残せるほどの大魔法使いといっても過言ではないだろう。……その威力はこの体がよく知っている。

「家系という事もあるだろうけど、ユキナちゃんは中でも天才と呼ばれる程の実力者なんだよー」
「そうなのか? 授業ではさほど目立ったような事はなかった気がするが」

 学院での実技や特訓で、さほど目立った動きはなかった気がする。
 確かに魔力は凄まじく、一番きついと言われていた魔法授業後、全員疲れる中一人だけ平然とした顔をしていたのを見たことはあるが、印象が薄いのはやはり攻撃魔法を見ていないからかもしれない。

「攻撃魔法を結局今まで見たことないが、何かあったのか?」

 それを聞くと皆少しうつむき始める。そしてゆっくりと少し暗いような感じでリーフが口を開いた。

「えっとね……それは……」
「そこからは僕が話すよ」

 リーフが何か言葉を紡ごうとした瞬間、背後から声がかかる。

「何だ、もう身体は大丈夫なのか?」
「うん、おかげさまでね」
「言ってくれるぜ」
「はは、それくらい言わせておくれよ。とりあえず座っていいかな?」

 少しぎこちない動きでやってきたのはウインドだ。治療がおわり医務室からやってきたのだろう。所々に包帯が巻かれており、治療跡があるが重症ではない様で少し安心した。

「それで、話の続きなんだけどいいかな」
「ああ、だが俺たちに話して大丈夫なのか?」
「うん、クロトになら……お嬢様も納得してくれるはずだよ」
「ならいいが……」
「心配してくれてありがとう。……それでね、ユキナお嬢様なんだけど」
「ああ」
「ユキナお嬢様がまだ幼い頃、少し事故があってね。それからなんだ、攻撃魔法が使えなくなったのは」
「事故?」
「恐らく有名な話なのでご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、ユキナお嬢様の御父様がお倒れになりました……魔法暴発事故とありますが、その原因となったのがユキナお嬢様の攻撃魔法でした」
「……なるほどな、そのショックで攻撃魔法が使えなくなったのか」
「はい……お医者様は既に問題ないとの事ですが、何度試しても攻撃魔法だけが撃てないんです。それと同時に御父様の意識が今も戻っておりません……それも原因が不明で……」

 攻撃魔法がショックで撃てない事はあるだろうが、親の件はこれだけ長く意識が戻らないという事は異常だろう。

「……たしかに無関係とは思えないわねぇ」
「色々と試せることは行ったのですが、どれも失敗で……。もう諦めかけていたそんな時、この大会の優勝で願いが叶えられると聞いて」
「治してもらおうと思ったのか」
「うん。だからユキナお嬢様も必死なんだ」
「最初の余裕がない戦い方もそういう事か」
「ごめんね、でも最後はちゃんと全力で戦えたと思うよ」
「ああ、楽しかった」
「それは……よかった。っとごめんなさい、話を戻しますね。なので、ユキナお嬢様の態度もきつい部分はあるでしょうがそこは……」
「うん、気にしないよ」
「む・し・ろ そんな事隠さないで相談してくれないことが お・こ・よ♡」

 二人の早い返答に驚くも、すぐに笑顔になるウインド。こいつも心配だったんだな。

「ありがとう……」
「まぁ心配ないとは思うが、この話を先にシロナに話さなくて正解だろうな」
「うん、ユキナお嬢様も望んではないと思う」
「(俺には負ける様言ってきたがな)」

 話したらまたややこしくなるからやめておく。

「それじゃ始まるみたいだし、決勝を見守るとするか」

 俺たちは今から戦いが行われる中央へと視線を移した。


―闘技場中央―

「……始まる前にひとつ聞きたいのだけれど、いいかしら」
「……何」
「大会の事を聞いてから今までいつもと様子が変だわ。何かあったの?」
「……別にないよ」
「嘘。それなら私が触れても構わないわね?」
「……」

 ユキナは俯き黙ったままである。
 その様子を見たシロナは更に心配になったのか再度声をかけた。

「私達にも話せない事なの? 少しでも力になれるかもしれないわ」
「……いい。早く戦おう」

 予想外の返答に少し驚いたのか、返答するまでに時間ががかるシロナ。だが意を決した様で、顔つきが変わりユキナに返答する。

「今日はやけに気合が入っているわね。何時もなら、大会なんて~とか言ってさらりと流しそうなものだけれど」

 そう言われたユキナの口調は何時ものようだが少し鋭い言葉で返した。

「……違う、今日は負けられない」

 その言葉に違和感があったのか、シロナはさらに言葉を重ねた。

「……本当どうしたの? 何時ものユキナらしくないわ。大会が始まってからずっとそんな感じよ? よかったら私にも話……」
「シロナには関係ない!!」
「!?」

 最後まで言葉を紡ぐ事なくユキナの声が発せられた。
 普段聴くことのないユキナの声に少し驚いたのか、一瞬表情が固まるシロナ。
 しかし、すぐにその顔は変貌した。

「……そう。そっちがその気なら、勝負が終わってからゆっくり聞かせてもらうわ。勿論私が勝った後にね」

 売り言葉に買い言葉だろうか、互いに冷静でない事はわかるが、普段の二人であれば絶対にしないであろう言葉が飛び交う。

「本当はこんな気持ちで戦いたくなかったわ」 
「……っ」

 その言葉に一瞬胸を苦しめるような仕草を見せるが、悟られない様にすぐに表情を戻す。

「シロナに……負けてなんて……言えないよ」

 話をすれば優しいシロナなら聞いてくれるかもしれない。でもそれはダメだと自分に必死に言い聞かせる。
 そしてその小さな呟きはシロナに伝わることはなかった。


『さぁ! それでは本戦決勝! 開始ですっ!』



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