魔法学院の護衛騎士

球磨川 葵

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第38話 シャングリラ魔法大会

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『さぁ~遂にやってまいりました! シャングリラ魔法大会! 今回実況役として私ミノリ・イブリアントと、解説役として学院長のレイド・ヴィクトワールで試合の模様をお伝えしていきますね』
『ほっほ。よろしくの』

 伝達魔法でミノリと学院長の声が、学院全体に響き渡る。
 参加する学院生、並びに騎士達は、開会式の為中庭に突如建てられた巨大なコロシアムの様な建物の中央に集められていた。恐らくここで戦う事になるのだろう。
 楕円形の4階建ての建物で、中央以外は観客席となっている。天井部分は開放されており、まさに決闘場と言ったところか。
 この魔法大会は観戦自由となっており保護者をはじめ、第1区画の人から第2区画の人まで様々な人が、一目見ようとシャングリラ魔法学院に押し寄せており、学院用の席を除き既に満員に近い状態である。

「しかし、昨日までこんなのなかったよな……」

 俺は隣にいるシロナに話しかける。

「授業があるからって夜に建てられたらしいんだけど、あまりにも突貫作業だったらしくて、サース先生が魔力切れで倒れてるって話よ」
「それはお気の毒に……相変わらず魔法には驚かされるわ」
「こんなの1日で建てられるのなんて、相当な使い手じゃないと無理よ」
「へぇー」

 そんなこんな話していると再びミノリと学院長の声が響いてくる。

『今大会は予選、本戦と2日に渡って行われます。学院生と騎士の部は分かれていますが、基本的なルール等は同じです。ルールは簡単で降参するか戦闘不能と判断された場合、そこで試合終了となります』
『武器、使用魔法は自由。身体に多大なる影響を及ぼすダメージがあれば結界が緩和してくれるんじゃが、すぐに意識が飛んでしまうので気を付けるのじゃぞ』
『1日目に行われる予選は3回勝利すると通過です、勝ち残った方は2日目の為にしっかりと休んでくださいね』
『騎士達の予選後に学院生の予選が行われるぞい。決勝も同様じゃ』
『観客席に特殊な結界が張ってありますので、ご安心してご覧になられてください』
『学院生も騎士の諸君も頑張るんじゃぞ。それでは……シャングリラ魔法学院、魔法大会を始まりじゃ!』

 学院長の声と同時に、幾つもの大きな爆発音がコロシアム上空で起こる。そのどれもが色鮮やかな爆発で見るもの全てを魅了し、歓声が起こる。

『対戦表はこれより中央上部に表示されますので、チェックしておいてくださいね!』

 ミノリが説明すると、俺達の上空に巨大なスクリーンの様な物が出てきた。魔法による投影だろう。
 そこには各騎士の名前と対戦時刻が記入されていた。

「おー俺は少し後みたいだ」
「確か騎士から先なのよね~暫く私は席にいる事になると思うから、クロトも出番まで戦いの様子でも一緒に見ましょ?」
「それもそうだな」

 俺とシロナは学院生にいる生徒達用の席へと移動する。
 基本的に出番の一つ前までに控室に居れば、後は自由行動みたいだ。
 適当な場所を見つけて座ると既に第1戦目が始まろうとしていた。

『さぁ! まずは騎士達からの戦いとなります。第1戦目はこちら! ランス・クロフォードVSメイビー・モノ!』

 両者がコロシアム中央に現れる。

「お、槍の奴に……あの時のデブ騎士か。そんな名前だったんだな」
「あんた何気に酷いわね」

 両者は数メートル離れてからのスタートだ。
 ランスは槍を構え、デブ騎士は……なにやら本を片手に持っている。確かに魔法は土属性が得意と聞いていたが、騎士同士の戦いに武器なしとは何か策でもあるのだろうか?
 それに気づいたのかランスもデブ騎士に問いかける。

「一番槍ってね……ん? おい、デブ、武器はないのか」
「ご心配無用。特に君みたいなやつには特にね」
「あーそうかい。接近戦になっても後悔すんなよ」

 両者準備が整ったところで、学院長の声が入った。


 *


『さぁ! 両者準備はいいの? それでは……はじめ!』
 
 開始の合図と同時にランスが槍を突き出し、デブ騎士へと飛び出す。

「そら! 速攻終わらせてやるよ!」

 対してデブ騎士は避ける素振りもなく、余裕の表情を見せている。

「ふぅ……やはり君は単純だ。お陰で魔法がかけやすい」

 デブ騎士は本を開くと詠唱を始めた。

「彼の者を幻へと誘っておくれ……ファントムマインド<空想洗脳>」

 デブ騎士の本が赤く輝く。そして詠唱を終えた瞬間、勢いよく突進していたランスの動きが槍を構えたまま突然止まった。
 外傷はなく、魔法で直接攻撃した様子はない。恐らく水魔法の精神干渉系魔法だろう。

「実は僕、この日の為に隠していたけど土属性だけじゃなくて、水属性も得意なんだ。といっても、この特殊媒体がないと難しいんだけれど、それでも効果は抜群の様だね」

 ゆっくりとランスの周りをぐるぐると回るデブ騎士。

「この単細胞君は今頃、死ぬような恐怖体験をしている筈だよ。ぶふふふ、もうそろそろしたら泡でも吹いて倒れるんじゃないかな? いつも大きな顔しやがって、これで少しは考えを改めるだろう……さて、決着はついたよ。学院長判定を」

 これで終わりと言わんばかりに余裕の表情をしていたデブ騎士。しかしまだ試合終了の合図はない。
 馬鹿な奴だ。勝機を取りこぼしたな。
 暫くの沈黙の後、次の瞬間突如ランスの目がカッと開かれ、その視線はデブ騎士の目を穿いた。

「てめぇ……よくもやってくれたなぁぁ……」
「ひぃ!? ばばばば馬鹿な! 第2等級の魔法使いでさえ昏倒させる魔法だぞ!」
「すっげぇ怖ぇ目にあったぜ……だがよ……俺はそれより怖い奴を知ってるもんでな!!!」

 ランスは槍を再び構えなおしデブ騎士へと再び突撃する。

「穿て!! ペネトレイト・アルマ<魂貫き> !!」

 ランスの構える槍が魔法の瘴気により包まれ先端が更に鋭く、大きな槍と化す。

「くそっ!! 次の魔法を……」
「おせぇよ!!」

 ランスの槍は詠唱する前にデブ騎士の胴体に直撃。デブ騎士は大きく吹き飛び起き上がることはなかった。
 ダメージ緩和がなければ胴体に大きな穴が空いていた事だろう。
 槍を下ろし、呼吸を整えるランス。

「だから言ったろ。お前も騎士なら武器を持っておけ……それと今回はあいつに感謝だな」
「勝負あり!! 勝者ランス・クロフォード!」

 その声と同時に片腕を上げ観客席に手を振るランス。彼に応えるかのように、大きな声援に包まれた。


  *

『第1戦目から力と魔法の素晴らしい勝負でしたね』
『今まで属性を隠しておったというのは一度きりじゃが素晴らしい策じゃの。しかしそれに驕ってしまったのもまた敗因じゃったな』
『それと、魔法をかけられたのに無事なランス・クロフォード君も見事ですね』
『精神干渉の魔法は、それに耐えうる心を持つか、魔法で対抗。もしくはそれ以上の体験をしていた場合は効き目が薄い事はあるが……彼の場合は後者じゃの。良い経験をしておる』

 第1戦目が終え、会場は盛り上がりを見せている。
 シロナも少しばかり興奮した様子だった。

「まさかあん時のアレが役に立ったとはな」
「ん? 何の事?」
「気にすんな、しかし精神干渉まで使ってくるのか」
「騎士でなかなか見る事はないと思うけどね。精神干渉……そうね。私も一応対策しておかないと! さっ!次の試合よ!」

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