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人工勇者編
女神様はヒステリー
しおりを挟む「「エリアフリーズ」」
氷の魔法で部屋の熱を冷ます。
キューティーさんは言わないが、錬金術で失った酸素などを作ってくれたみたいだ、普通に呼吸が出来る。
ゾンビ兵は灰すら残すことなく消え去っていた。
「かはぁ……こ……この……」
「肺が焼けて苦しいでしょう、のどが焼けて声が出ないでしょう。ぎりぎりで生かしておいてあげたわ」
壁に埋め込まれた男は、皮膚は解け見るも無残な姿になっていた。
それでも回復しようとしているのか、口が動いている。
「無詠唱も出来ないなんて。その程度の実力でどうしてこんなことが出来るのかしら」
あの男の相手はキューティーさんに任せるとして、俺は勇者の方を見るか。
鑑定だと洗脳状態としか表示されないんだよなぁ。
とりあえず「魔法解除」してみるか。
特に解除対策は無くあっさりと解除できた。
すぐさま女の目の焦点が合う。
正気に戻った女の目が見開いた。
「あ……ああぁぁ……」
女はそのまま泣き崩れた。
「記憶があるのか?」
俺の質問に女は頷いた。
「騙されたの……あの女神に騙されたの……」
「騙された?」
女は泣きながら語った。
女が呼ばれたのはレムリア大陸の女神によってだった。
異世界転移の際、この世界にはないスキルを与えることが出来る。
それを女神は利用していた。
レムリアの女神は自分の大陸の人類しか愛していなく、ほかの大陸人類、異世界人も全て糧でしかないと考えている。
レムリアの女神に呼ばれたとき本人の意思関係なしに「称号」のスキルを与えられ、盗賊の出没するエリアへ送られた。
そして、勇者の総合を与える条件が「勇者の血を飲むこと」。
そう言った女の体には無数の切り傷があった。
魔術師の男は一々回復するのが面倒だったのだろう、勇者を作るたびに彼女の体を切り刻み、限界までの血を取り出し、また血が回復するのを待って取り出す。
これを繰り返していたそうだ。
「その勇者の称号を解除する方法ないのか?」
「……一つだけあるわ。私を殺すこと……血を与えたオリジナルが死ねば、その血を飲んだ者の称号は消える」
「知っているわ」
突然後ろからキューティーさんが言った。
「知っているって……」
「私の能力は原因究明から対策まで分かる。その結果、勇者の称号を解除するにはオリジナルを殺す以外なかったわ」
「でも、この人に罪は……」
「分かっているわ。だから言ったでしょ。私は覚悟を決めたの。最悪の手しかない場合、私は迷わずその方法をとるわ」
人を殺すという覚悟じゃなかったのか。
キューティーさんは戸惑うことなく女の心臓を止めた。
「アル、悪いけど子供たちから勇者の称号が消えたか確認してもらえる?」
「あ、あぁ」
俺は隣の牢屋へ行くと、子供たちを鑑定した。
全員、勇者の称号が消えている。
俺は戻ってそれをキューティさーん伝えた。
「そう、それなら。彼女を蘇生してもらえる?」
「へ?」
あ、そう言えば『緋色の国』じゃ普通に蘇生があったな。
メンバーは全員使えるはずだけど。
「念のためよレスキルのペナルティがあるかもしれないでしょ」
なるほどね、殺した本人が蘇生することで勇者の称号が復活するかもしれないと。
俺は魔法で女を蘇生した。
「「リジェネート」」
女の目が開く。
念のため鑑定で女のステータスを確認する。
特に問題はなさそうだけど……。
ん?
「アル、子供たちを」
「確認してくるよ」
子供たちに勇者が復活したものはいなかった。
「これで勇者問題は解決ね。後はこの男どうしてあげようかしら」
魔術師の男は壁に四肢を埋め込まれ、貼り付けのようになっている。
苦しそうに呼吸をしているが、眼球が動いているのを見ると意識はあるようだ。
「あ、あの……。私は、どうして……?」
「生きているのが不思議なの?」
「ええ、だって私死んだはずじゃ……」
「私たちは「蘇生」が使えるのよ。そうじゃなきゃ、無傷で殺したりしないわよ。最もあなたが自分の意思で子供を勇者にしていたならこの男と同じ目になっていたけど」
女は魔術師の男を見てごくりと唾をのんだ。
男の状況はひどいものだ、四肢を壁に融合され、皮膚は焼けただれている。
肺と咽は焼け声を発する事すらできない。
それでも意識を失うことなく生かされているのだ。
「まるで、女神と知恵比べしているような気分ね。勇者の大量生産は全て女神が仕組んだ事。ただ、相手が悪かっただけね」
「そうでもないぞ」
突然、男が言葉を発した。
「また、めんどうな」
キューティーさんが男を見て苛ついた声を上げる。
「キューティーさん?」
「鑑定で見てみなさい、滑稽よ」
言われたとおりに男を鑑定する。
ステータスが異常に上がり始めている。
各スキルも上昇中だ。
ん? 上昇中?
そして最後にレムリアの女神の使徒と称号がついている。
使徒って。
「黒幕さんのお出ましの様ね」
男の顔がみるみる修復されている。
壁と一体化していた四肢を引きちぎり歩き出す。
あっという間にちぎれた四肢が修復された。
「さすがにね、流れ人ごときに遊びを邪魔されるのは気分が良くないのよ」
ステータスの上昇が止まる。
そのステータスは勇者を上回っている。
「この程度の入れ物じゃこれくらいが限界かしら」
「まるで、違う入れ物だったらもっと強くなれる言い方だな」
「当たり前じゃない元から強いんですもの。顕現できれば軽くつぶしてあげられるのに残念だわ」
「なるほど、これが噂に聞く性格ブスってやつね」
キューティーさんの言葉に男のこめかみがぴくっと動いた。
「女神に向かってブスですって……」
「大体さ、おっさんの体に乗り移ってその言葉使いって、気持ち悪い以外のなんでもないぞ」
「これだから流れ人は……神に見捨てられた世界のくせに」
「ふーん、神に見捨てられた方が文明が発展するのか?」
「そうね、この世界はどう見ても五百年は遅れてるし。っていうか女神って時代遅れ? まるで時代錯誤したおばさんね」
女神って挑発に乗りやすいのか?
もう怒りで顔が真っ赤だぞ。
「殺す! みじめに、むざんに、苦しめながら殺してあげるわ!」
うわぁ、ヒステリー起こしたおばさんみたいだ。
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