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人工勇者編

進撃開始

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「どうしたアル!? そんな怪我をして、よほど手ごわい相手がいたのか?」

「うん、目の前にいた」

 そう言ってほくほく顔のキューティーさんを見た。
 皆それで察してくれた。

「アル、ご苦労だった。いろんな意味で」

 うん、別の意味で大変な任務だったよ。

「この子は私が連れて帰るわ!」

 確保した獣人の子を抱き寄せながらキューティーさんが宣言する。

 まぁ、俺も古代竜とか勝手に連れ帰ってきちゃったし、問題ないんじゃないの?

 獣人の子の記憶は連れ帰るときに読んでおいた。

 レムレス王国がメガラニカ大陸に攻め込んで攫ってきた獣人だった。
 両親を含め大人は全員殺害、子供を勇者にするためだけに攫われてきていた。

 メガラニカ大陸が獣人の国という事もわかった。
 この情報を伝えるとだ。

「よし、レムリア大陸をとっとと制圧してメガラニカ大陸に友好を深めに行こう!」

 と、エンジェルさんが宣言。
 MGLだけが盛り上がっていた。

「エンジェルよ、大陸の制圧などそう簡単には」

「ゲルググ帝王様、これだけ規格外の流れ人がいるんだ。今から制圧した後の政策を考えておかないと間に合わないぞ」

 佳乃杜がゲルググ帝王に自信ありげに言った。

「予は運が良かったのだろうか」
「いや、時代に必要とされているだけさ。それに全大陸をまとめてもらえれば俺の目的のためにも行動しやすくなる」
「そうか」

 佳乃杜の目的?
 今はそんなこと気にしている場合じゃないな。
 とりあえず報告するか。

「ゲルググ帝王様。勇者の生産場所はレムレス王国王城地下です、そこにオリジナルの勇者と称号を付けられるスキルを持った者と精神を操る魔術師がいます」

「王都か、攻め入るのが大変だな」

「いや、簡単じゃないか?」

 エンジェルさんが言う。

「一人が王都まで飛んで行って、そこからゲートを開いて進軍」
「身も蓋もない戦術だな……」
「ですが、確実です。ゲルググ帝王の一軍だけで進軍し残りの部隊はここを死守。同行する流れ人も我々「MLG」だけで充分でしょう」
「戦とは何なのかわからなくなるな。してエンジェルよ予は何をすればよい?」
「露払いは我々がします。正門より王城へ入りそのままレムレス王を御打ち下さい」
「わかった。それと、敵国であっても民には」
「承知しております。ですが向かってくる者には手加減は致しますが、保証は出来ません」
「それでよい、十分だ」
「はっ」

「それでは私が先行しゲートを開きます」
「頼んだぞ、エンジェル」

 エンジェルさんは天幕を後にし夜空へと飛んで行った。

「それでは私と哀戦士が帝王様の護衛を、アルとキューティは勇者対応。後は遊撃部隊で良いだろう」

 エンジェルさんの代わりにボンドさんが作戦を伝える。
 と言ってもいつも通りの展開だ。
 違うのは俺とキューティーさんが別任務を負っているくらいだ。

「今回は市街戦、城内での戦闘となる、破壊行動は控えるように」

「負傷した兵はシャドウの所へ来てくれ」

 ボンドさんの言葉にシャドウさんが手を挙げてアピールする。
 シャドウさんを見る兵士さんたちの目が不安そうだった。

 エンジェルさんがゲートを開くまでの間、俺たちは細かい打ち合わせを行った。





 一時間後、俺たちの前に大きなゲートが開きエンジェルさんが姿を現した。

「帝王様、準備が出来ました」
「うむ、ごくろう。ティマイオス軍、進軍を開始する! 予に続け!」

 ゲルググ帝王を先頭に部隊が進軍していく、ボンドさんと哀戦士さんは先行して安全を確保済み。
 ほかのメンバーはすでに王都内に侵入している。

 ゲルググ帝王がゲートをくぐると、街を囲う城壁にある正門の前だった。
 全員がゲートを抜けたところで、空に巨大なスクリーンが現れる。
 俺たちの魔道具だ。

「レムレス王国に次ぐ、予はティマイオス王国帝王ゲルググ・リーン・ティマイオスである」

 巨大スクリーンから街全土に聞こえるほどの音量で帝王の声が流れた。

「ティマイオス軍はこれよりレムレス王国に進撃を開始する。だが無抵抗な者には決して攻撃しない。兵でない者は建物の中に避難せよ。向かってくる者には容赦はしない」

 巨大スクリーンの隣に大きな砂時計が現れる。
 これも俺たちが作った術具だ。

「避難の期限はこの砂が全て落ちるまでとする。この砂が落ち切った時、我々は攻め入るものとする」

 そうして、巨大スクリーンは消え砂時計だけが残った。
 砂時計は三十分ほどで落ち切る。
 この世界の時間概念が分からなかったので砂時計にしたのだ。

 もちろん、マップで周囲は常に警戒している。
 早速、マップにこちらに向かってくる赤い点が現れる。
 単体で動いているので暗部の類だろう。

「ゲルググ帝王様、我々「MGL」は露払いに入ります」
「うむ、頼んだ」

 そう言って重戦士のボンドさんと哀戦士さんを除いてそれぞれ散っていった。
 俺とキューティーさんは身を隠しながら王城へと向かって行った。





 レムレス城の玉座に太ったヒキガエルのような男が顔を真っ赤にして座っていた。
 レムレス王国国王、ボボルゲである。

 ボボルゲは基本的に玉座から命令するだけである。
 人工勇者を大量生産が可能となった今攻めに出ない理由が無いと、国内外に攻め込んでいるのだ。
 特にティマイオス王国の国王は慈愛の王として有名であり、決して女子供は手にかけない事を知られていた。
 ボボルゲにとってこれを利用しない手は無かった。
 子供を攫いまくり次々と勇者にしてティマイオス王国へ送り込んだ。
 今、この時ですら勇者を生産しているのだ。
 負けるはずが無いと思っていた。
 だが、国境付近にいるはずのティマイオス軍が何故か王都の前に現れた。
 それも突然の出来事だ。
 それまで誰一人、進軍に気づかない事にボボルゲは腹を立てた。
 すぐに暗部を動かしゲルググ帝王の首を持って来いと言ったのだ。
 だが、ゲルググ帝王が指定した刻限である砂時計の砂が残り少なくなっても誰一人暗部の者は帰ってこなかった。

「どういう事だ! 兵士は? 何故攻めない! 砂時計を待つ必要ないだろう!」

「そ、それが……」

 近くにいた兵士が答えた。

「向かった者全員やられました」
「はぁ!?」

 そして、砂時計の砂が落ち切った。

「これよりティマイオス軍は進撃を開始する!」

 外からゲルググ帝王の声が響いた。
 そして、大きな破壊音が響く。

「な、なんだ!?」
「せ、正門が破壊されました!」

 即座に伝令が走ってきて伝える。
 時間稼ぎすらできずに正門はあっさりと破壊されたのだ。
 そして、すぐにまた別の伝令が走ってきた。

「伝令! 城内地下に侵入者有との事です!」
「い、一体、何が起こっているんだ!?」

 ティマイオス軍、いや「MGL」の蹂躙劇が始まった。






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