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人工勇者編
雪兎無双
しおりを挟む「おいおい、ここは迷子案内じゃないんだぜ」
いかにもと言うお約束な台詞を吐いたいかにもアホそうな筋肉質の男二人が、傭兵ギルドに入って来るなり雪兎さんに絡み始めた。
うわぁ……。
面白そうだから他人の振りをしよう!
「それとも冒険者ごっこがしたい年ごろか?」
俺たちを佳乃杜が連れてきたことを知っている冒険者は一斉に端の方へと逃げだした。
中には俺みたいに期待に満ちた目をしている奴もいる。
「後五年したら来るんだな、そしたら俺たちが相手してやるよ」
「もちろん、夜のな」
男たちがぎゃははと笑う。
本当にあるんだな、下ネタにもならないただ下品なだけの言い方って。
「あ゛あ゛?」
雪兎さんが不愉快な声を上げながらすごい目で男たちを見た。
忘れていたけど、雪兎さん生産職メインなくせに対人戦大好きなんだよ。
特に下に見てくる相手を、これでもかというくらいオーバーキルするのが大好きだ。
「お~怖い怖い。あまり大人を怖がらせるもんじゃないぞ」
「後でしつけされても知らないぞ」
あ、完全に死んだなこれ。
「おねーさん、うっかり殺しちゃったらどうなるの?」
「え? あ、正当防衛なら罪には問われないですが……」
「あれは……」
そう言って雪兎さんを指さす。
「えっと……正直、判断が微妙です……銀級の冒険者も瞬殺できますよね……?」
「銀級がどれくらいの強さかわからないけど、城にいた兵士なら全員雪兎んさんだけで瞬殺できるな」
「本当ですか……」
受付のお姉さんの顔が引きつる。
「ちなみに、あのおっさんのランクは?」
「えっと二人とも藍級で、したから三番目です」
「ご愁傷様だな」
「いや、止めてくださいよ……」
大丈夫、死体が残っていれば蘇生するから!
死体が残っていればね。
「一応、私も傭兵だけど」
雪兎さんが黒い傭兵カードを出す。
「黒! ぎゃはははは。登録だけなら十二歳になれば誰でもできるからな」
「職業は何だ、剣士か? 魔法使いか?」
おっさん二人はげらげら笑いながら、雪兎さんに少しずつ近づいて行ってる。
あ、今二人やる気だ。
「裁縫師。こう見えても二十歳は越えてるわ」
「……裁縫師だと。おいおい、もっとくる場所が違うじゃないか」
「戦う気が無いのに登録なんて迷惑なだけなんだよな」
「それに、嬢ちゃん人族だろう。背伸びしたいのは分かるけど嘘はいけないな」
あ、それまずい。
雪兎さんキャラは思い切り幼女なんだけど、中身の本人も二十後半でありながら、中学生に間違われるほどの童顔で、ゲーム内でも童顔をネタにされるとメンバーでも容赦なく切れる。
「って言うか、体もくさいし、口臭もくさいからそれ以上近づかないでくれる?」
「あぁ?」
「大体、私みたいなのに絡むって、よっぽど女性に縁が無いのね。あぁ、そんな身なりじゃ誰も寄ってこないか。あんたたち傭兵?盗賊の間違いじゃないの?」
「おい、嬢ちゃん、言っていい事と悪いことがあるんだぞ」
「そうだぞぉ、おじさんたち傷ついちゃうな~」
「御託は良いからかかってきなさい。その年で頭は幼児並みって恥ずかしいわよ」
「このガキ、俺たちが教育してやるよ!」
お、はじまった!
・・・・・・・・・。
が、盛り上がることは無かった。
「ん~! んー!!」
「んも! も、おおおお」
とびかかろうとした瞬間、おっさんたちの口が縫い付けられた。
「裁縫師だって戦えるのよ。それにどんなに強くても登録した直後は誰だって最低ランクでしょ」
雪兎さんの迫力に押されおっさんたちが、逃げる機会をうかがい始めた。
「逃がすと思うの? 口を縫の見えた? 逃げられると思う?」
雪兎さんがニコッと笑った次の瞬間だった。
どん!
一瞬で男二人は倒され、床に縫い付けられた。
うわぁ、痛そう。
「んー!! んんー!」
「んお! おおおおお!」
必死にもがいてるみたいだが、男たちの体はピクリとも動かない。
「この糸は特別性よ。ミスリルを編み込んであるの、そうそう切れないわ」
「ねえ、お姉さん。こういった絡まれイベントって盛り上がる物じゃないの?」
野次馬が騒ぐかと思ったら、シーンと静まり返っている。
「いや、盛り上がると言うか……ある意味、一方的な捕獲にしか見えないですし。ましてや雪兎さんのようなかわいらしい方がそんな残酷なことをする絵図らはちょっと……」
つまり、全員引いてしまっていると。
「つまらなかったわね。ところでお姉さん」
「はい!? なんでしょう」
「ドラゴンの皮が欲しいのだけど、どこにいるのかしら?」
「ド、ドラゴンですか?」
「ええ、出来れば下級竜じゃなくてシルバーかブラックあたりが理想だけど。最悪、古代竜(エンシエント)でもいいわ」
「エ、エンシエントですか……た、倒せるので……」
「単体なら問題ないわ。群れだと面倒だけど」
「あ、面倒ってだけで倒せない訳じゃないのですね……」
「さすがに百、二百は無理よ? そんなの逃げるわ」
いや、俺は知っている。
イベントで大発生した時に魔力回復ポーション飲みながら遠距離大魔法を撃ちまくって殲滅させていたのを!
雪兎さんにとって竜は素材にしか見えないはずだ。
「オリハルコンゴーレムの湧く洞窟に三日籠っていたあなたに言われたくないわ」
いつの間にか雪兎さんにジト目で見られていた。
何故考えていることが分かった!?
「オリハルコンゴーレムって……古代竜もそうですが、軍が動くレベルの魔物ですよ……」
「「あれは素材」」
雪兎さんとはもった。
「そ、そうですか……」
「軍って言えば、お城にいた騎士の人たちって強いんですか?」
「え? ええ、下級兵士でも傭兵ギルドで言えば、橙ランク、部隊長は銀ランク、総大将で金ランクの実力はあります」
あんまり強くないんだな……。
俺は受け取っていたギルドの案内みたいな説明書をみる。
黒>紫>藍>青>緑>黄>橙>赤>銀>金
とランクアップするらしい。
多いな……って、これ虹の七色か?
もちろん、黒と銀、金は除くが。
微妙に科学要素が混じっているようなものが出てくるな。
「アル! 古代竜の巣がわかったわ! 行くわよ!」
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理想はどこ行った……。
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