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プロローグ

本気を出す

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 エンジェルさんがプレイヤー達をおちょくっている中。
 トップギルドの方々が参戦もあり一気にレイドボスの体力が削れていく。
 トップギルドのメンバーはユニークスキルを持っているプレイヤーが多くあちこちで派手なエフェクトが見られる。

 うらやましい。
 俺のスキルって地味だもんなぁ。

 四割ほどになったところでトッププレイヤーはいったん前線を退き始める。
 この時点でダメージ貢献度はうちのギルドを含む上位ギルドで独占できたからだ。
 かと言って他のギルドが入れないほど貢献度を持って行ってしまうと他のギルドからいらぬ反感をもらうので、ある程度のとこで引くのはトップギルドの暗黙のルールになっている。

 再び参戦するのは強化が始まってからだ。
 それまで攻撃担当アタッカーは休憩だ。

「やぁ、エンジェルさん今日も目立ってるね」

 ギルド『黄昏の翼』のマスターである猫鍋さんがあいさつに来た。

「エンジェルさん最後の曲をリクエストしたいんだけどいいかな?」

 リクエストに来たのはギルド『自由世界のアリス』の帽子屋さん。

「ちょっと待ってくれ雪兎さん大丈夫かな?」

「大丈夫だよ~、やっぱりあの曲かな?」

「もちろん! あれはテンション上がるからね」

「了解、五パーセントになったら始めるよ」

「ありがとう」

 定番となりつつある、日本が誇るビジュアル系バンドのトップに君臨するバンドの曲だ。
 その歌のタイトル通り、返り血でみんな真っ赤になるんだよなぁ。

「それじゃ、その曲が始まったら最大火力の一斉攻撃で良いかな?」

「了解、合図は任せるぞ」

「わかった、他のギルドにも伝えてくるよ」

「あぁ、ありがとうな」

 軽い打ち合わせをして鍋猫さんは他のギルドに伝えに行った。

「よし、俺も行ってくるよ」

「あぁ、そっちは頼んだぞ帽子屋さん」

 帽子屋さんも同じく伝達に走っていく。

 どうでも良い事だが、『MLG』に普通に話しかけてくるのは、『黄昏の翼』と『自由世界のアリス』だけだったりする。

 俺たちのギルドのバフの効果もあり、ほとんどのプレイヤーが普段のトッププレイヤー並みの火力になっているのと今でも遅れてきたプレイヤーがどんどん参戦しているため、レイドボスの体力の減りが早くなっていく。

 そして、レイドボスの体力がついに三割を切った。

「来るぞ!」

「前衛は防御態勢、後衛は退避!」

 狂化に備え所々から、それぞれのリーダーから指示が飛んでいる。

 GUGYAAAAAAAAAA!

 レイドボスの狂化が始まった。
 怒りの咆哮ともとれる雄叫びとともにレイドボスの体から無数の光線がほとばしった。
 まるで巨〇兵みたいに光線が走った先で大爆発が起こる。

 基本狂化は、性能が上がるだけで、追加パターンは無いはずだ。
 狂化が始まったとたん、違う攻撃、しかも強力なバフがかかっている状態にも関わらず即死するレベルの範囲攻撃だと……。
 今の攻撃で四割のプレイヤーが即死している。

「な、なんだよあれ……」

「こんなパターン今までなかったぞ……」

「だれか、情報は無いのか!?」

「情報班、情報班、連絡を!」

 プレイヤーの中には、キャラレベルが低いが為参戦せず、情報を集めるプレイヤーがいる。
 思わぬ反撃に、情報班と呼ばれる、参戦していないプレイヤーに情報を求めた。
 プレイヤー達から次々と現状のログがあがる。

「どういうこだ?」

「なんだ、どうした?」

「チャット機能が停止している……」

「蘇生魔法がキャンセルされます!」

 プレイヤーが混乱する中、何故かレイドボスが動きを止めた。

「ボスが止まったぞ……」

「何が起きているんだ?」

「おい、リアルでの連絡だが、ログインが出来ないらしいぞ!?」

「鯖落ちか?」

「いや、ボス戦以外のプレイは問題ないらしいが、今落ちると入れないという事だ」

「ログインサーバーが落ちたか!?」

「そうかもしれない」

「運営何やってるんだ」

「って、ボスが止まっているという事はここも落ちるのか?」

「そーじゃねーの?」

「んだよ、ふざけんなよ」

 ネットワークゲームである以上、サーバーが落ちるのは無くはない出来事だ。
 ただ、このゲーム『緋色の国』では今まで一度もなかった。

『人の子よ……』

 突然、全体の音声ログが流れた。

「なんだ?」

「もしかしてイベントの一部か?」

『我は、神の使い……選ばれるのは我を倒した者のみ……その矮小な力、我に届くようあがくがよい』

「おいおいおい、なんだよこれ」

「神って……お約束だなぁ」

『チャンスは一度きりだ、死なぬよう本気で来るがよい』

 レイドボスがそう話した後にシステムメッセージが流れた。

 今回のレイドボスには特別スキル『キャラ破壊』がついています。
 そのためレイドボスによって死亡したキャラクターは二度と使えなくなります。
 また、戦闘終了までログアウト、撤退は出来なくなります。
 それでは、引き続きイベントをお楽しみください。

「はぁ、何そのふざけた仕様」

「運営馬鹿じゃねーの、サービス終了したいの?」

「おい、マジでログアウトできないぞ」

「ほんとだ!?」

 プレイヤーがブーイングを上げる中、一人のプレイヤーからとんでもないログが上がった。

「おい、さっきの攻撃で死んだ奴とリアルで連絡とったんだけど……」
「ログインは出来るようになったけど、キャラが無いそうだ」

「「「はぁ!?」」」

「俺の所もそうだ、一緒にやってる弟のキャラも無くなってるって」

「マジかよ……」

 なんだそりゃ……ゲームだとしてもそこまでやるか?

「エンジェルさんどうする?」

 エンジェルさんに方針をどうするか尋ねる。
 エンジェルさんの決断は早かった。

「全員本気装備! 手の内を隠すな! 生き残れ!」

 了解!

 メンバー全員が本気装備に換装する。
 普段の変態チックな恰好ではなく、戦闘をするための装備だ。
 装備によるステータスも一気に跳ね上がる。

「『MLG』が本気装備だと……」

「そこまでやばいのか!?」

「『黄昏の翼』も『自由世界のアリス』も装備を変えたぞ」

 トップギルドが本気装備に換装したことでプレイヤーに緊張が走る。
 どれもチート性能級で持っているだけでPKに狙われるような代物であり、同じものが二つと存在しないものだった。

「エンジェルさん、すまない『MLG』にバフを頼んでいいか? うちと『自由世界のアリス』は攻撃に専念する」

 猫鍋さんから通信が入る。

「了解した!」

 そして、猫鍋さんが全体に向かって音声を飛ばした。

「みんな、聞いてくれ」
「これから、『黄昏の翼』『自由世界のアリス』『MLG』中心でレイドボスを攻略する。申し訳ないが協力してほしい」
「自信の無い人は下がってサポートに専念して、それが無理なら死なないように限界の距離まで逃げてくれ」
「そして、攻撃は……ジョブを極めたものだけが参加してほしい」

 申し訳なさそうに猫鍋さんが言った。
 死亡が許されない中じゃ、はっきり言って、戦力にならないプレイヤーは邪魔でしかなくなる。
 混戦になれば動きや視界が制限され死亡率が高くなる。
 下手にヘイトを稼いでターゲットを変えるなんてもってのほかだ。

「何言ってるんだ、仕方ないだろう」

「もう楽しむなんて雰囲気じゃないしな」

 次々とプレイヤーが賛同してくれた。
 助かる。

 こうして絞られたプレイヤーは三つのギルドを除いて、ソロで活動している数人になった。

『人の子よ、初手を譲ろう。それを開戦の合図とする』

 律儀に待っていてくれたレイドボス。
 絶対に中の人いるよなこれ……。

「時間をくれたことに感謝をする、初手は私がやらせてもらう」

 猫鍋さんがレイドボスと対峙する。
 その姿は勇者そのものだ。

「行くぞ! ユニークスキル『無への帰還』『無限の一撃』!」

 ユニークスキルのコンボだ!
 猫鍋さんも『無限の一撃』持っていたのかよ。
 攻撃を秘中、クリティカルにする上、ドラゴンすら一撃で屠るほど攻撃力上昇させる『無への帰還』。
 それを連撃にするための『無限の一撃』。
 とんでもないな……。

「『管弦楽』!」
「『アイギス』!」
「今度は拙者も!『死神の盾』」
「『絶対領域』!」
「『祝福の修復』!」
「エンジェル真面目バージョン!『命の帰還』!」

 『MGL』のバフ係が一斉にバフをかける。

 出番のなかったヨルさんの『死神の盾』、ダメージ反射機能のついた自動防御シールド。
 これは強い攻撃にしか反応しない特性を持ち逆に雑魚敵には全く反応しない。

 エンジェルさんの『命の帰還』はシステムレベルでのチートクラス。
 体力が0になると同時に一度だけフル回復してくれるバフだ。
 それだけではなくフル回復後、三十秒の無敵時間がつく。

 さて、次は俺達アタッカーの出番だ。

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