異界の探偵事務所

森川 八雲

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井戸

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その会社は電車で二駅程にあった
なんというか、とりわけ普通の会社だった
「1階が倉庫で2階が事務所です」
木下の案内で2階の事務所へ向かう

「ねぇねぇ、なんか足元がグラグラしませんか?」
爽が小声で聞いてくる
「そうだな、原因は地下なのかな」
震度1レベルの揺れみたいなのを感じる

事務所へ入ると人はほとんど残っておらず
一人の男がこちらへ向かってくる

「あ、主任!お疲れさまです」
木下が挨拶をすると
「木下さんお疲れさまです。そちらの方は?」
「蒼葉探偵事務所の所長さんと助手の方です」
「どうも、初めまして、蒼葉探偵事務所の所長の蒼葉と申します」
「初めまして助手の樹乃森と申します」
「初めまして、主任の相川です」

一通り挨拶を済ませると主任が尋ねた
「木下さん、どうして探偵を?」

もっともだ、霊障を収めたいのに探偵を連れてきたのだから

「すみません主任。回るとこ全部断られて、最後に行き着いたのがこちらの探偵さんの所なんです…」
木下は凄く申し訳なさそうにそう言った

ちょっと可哀想なので
「相川さん、大丈夫ですよ。一応その界隈で多少は名が通っていますから」
と、助け舟をだしてあげた
まぁ、まったく嘘と言う訳ではないが、実際はそれほどでもない
「先生は筋トレの時間が減るから、あまり有名にはなりたくないんですよ」
と、爽がフォローになるような、ならないような余計な事を言う
「少し黙ってなさい」
「先生がちゃんと引き受ければ有名になるんですよ?そうすれば仕事が増えて運転資金も増えるって事ですよ?」
と、追撃をされる始末…
「あはは、良いコンビですね」
笑いながら主任が言う
「あっ、すみませんお恥ずかしいところを…」
「いえ、いいんですよ、そろそろ本題に入らせてもらってもよろしいでしょうか」
「はい、お伺いしましょう」
「木下さん申し訳ないがお茶を持ってきてくれませんか?」
「はい、わかりました」

主任の話は木下の話と同じものだった
「出勤すると神棚の下が濡れていたんですよね?床ですか?壁もですか?」
「床も壁もですね、あとは…何故か神棚は濡れてないんですよね」
「よくわかりませんね、玉が原因だとは思うのですが」
そこで爽が口を挟む
「あの、足元がグラグラする感覚はありませんか?」
「グラグラ?う~ん…ちょっと感じ取れませんね」
「主任、私は何となく感じていました。なんか、こう、酷いときは水の上を歩いてるような感覚がします」
「え?そうなんですか?木下さん。僕は何も感じないなぁ」
「それに、水はその玉から出るんです!」
「そうなんですか?でも神棚は濡れてないけど…」
それはそうだ、神棚は所謂神域だからそういった現象は起こらないだろう

「それじゃ一回視て見ましょうか」
意識を床に合わせる、次は地面、その次は地中に…その途端龍の姿が頭に浮かんだ

「先生、何か解ったみたいですね」
「うん、いま透視した結果、龍の姿が頭に浮かびました。何か心当たりは?」
「う~ん…特に思い当たらないですねぇ…」
俺が"霊視"ではなく"透視"というのは霊を視るのでは無く精霊を視ているから、そうやって使い分けをしている
龍は一般的に水の神だ。しかし俺は霊視をしていない、つまり神以外の龍と言うことになる

「どうも地下が関係していると思うんですよ」
「地下ですか…以前の家屋を解体する時に、私も下見に付いてきたんですが…」
「ん…そういえば井戸があった様な…」
「先生!それですね!」
「そうだな、すみません井戸があった場所まで案内していただけますか?」
「わかりました、では僕に付いてきてください」

社屋の裏に回ると地面に丸い蓋がしてある
直径がだいたい1.5mほどだろうか
半月型の蓋が2枚で円形になっている

ここか…さほど強い力は感じないが…
「爽、頼めるか?」
「任せてください!」
爽が木下さん達の前に出る
主任が尋ねる
「何をするんですか?」
「ちょっと探りを…」
言いかけた途端、半月板の隙間から空へ向かって水が立ち昇る!
「爽!」
「大丈夫!平気です!」
爽が結界を張っている
「来るぞ!」
立ち昇った水から針のような水が撃ち出される

シュッ!

ビシャッ!

爽の結界に弾かれる

狙われているのはどっちだ?!
「玉はどちらがお持ちですか!」
主任が答える
「ぼ、僕がもってます!!」
「それを俺にください!投げて!」
「うわっ!」

主任から玉を受け取ると、今度はこちらを狙ってくる

シュッ!

半歩体をひねり避ける

「どうした?これが欲しいのか?」
玉を見せると立ち昇った水から腕のようなものが伸びてくる

水に意識を合わせ腕を突っ込むと頭に龍の姿が浮かぶ
「龍はお前だったか。でもこれは本当のお前の姿じゃないだろ?」

水の精霊よ、少し力を貸してくれ…

突っ込んだ腕が熱くなる
そして…井戸から立ち昇る水が弾け飛び、本当の姿を表す

「先生!臭い!」
本当に臭い、生ゴミの様な匂いだ!
「蒼葉さん!なんですかこの匂いは?!」
木下さん達も耐えきれない様子
「少し我慢してください!すぐ終わらせますから!」

井戸から現れたのはスライムの様なヘドロの様なものだった

「大人しくしててくれよ…すぐ終わらせてやるからな…」
いや、本当に臭い…鼻が曲がりそうだ…今度から装備品の中に鼻栓を入れておかないとな…

コイツはこの井戸にいた水の精霊"だった"ものだろう
あの玉は龍神の力がこもっている
それで常に浄化できていたものが、玉が無くなり暴走しだしたのだろう
あいつはこの玉を取り込んで神の力を得るつもりだ
ここまで堕ちたらもう倒すしかない…可愛そうだがな

火の精霊よ、少し力を貸してくれ

手のひらに火の玉が現れる
それをヘドロへ近付けると逃げるように広がる

「おいおい、逃げるなよ、痛くないから」
水と違って粘性が高いヘドロは動きが遅い

火の玉を槍のように細くし半月板の隙間へ突き刺す

「うりゃっ!」

ゴボゴボゴボゴボ…!!!
井戸からヘドロが溢れ出す!

ドロドロドロドロ…!!!

辺り一帯ヘドロまみれになり、今度はヘドロが空へ立ち昇る!

「あっおい!逃げるな!」
瞬間見逃さなかった!ヘドロ体を構成する精霊のコアの様なものを掴み取る!

「こいつが本体か…」
コアからは怒りと恐怖が入り混じった感情を感じる

「大丈夫だ、俺に任せておけ」
そう言って優しく両手で包み込んだ
途端、水となって地面へ流れていった

「ふぅ、相川さん、木下さん、終わりましたよ」
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