異世界に転生したのにスキルも貰えずに吸血鬼に拉致されてロボットを修理しろってどういうことなのか

ピモラス

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地底人を探して

砂漠をこえて

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俺たちはオアシスを出発し、さらに南を目指した。
砂の丘が続く砂漠が続いていた。空は雲一つない。砂の上に轍の跡が見える。
ゴーは出発する前にトリアン達の馬を街の衛兵所に連れて行き、預けてきていた。
ゴーの操縦する馬車の中に俺たち4人は座っている。
「エータの旦那。あっしは何をしたら・・・」
馬車の中でエータと向かい合わせに座らされたエルロットは、監視されるかのようにエータの視線を受けている。
「君は街につく前に馬車を降りて街の様子を探るのが仕事だ。兵士の数や練度、街の治安など、君の得意分野であろう?」
「そ、そうですが・・・」
「無論、首輪も手かせも無い今なら命令に従わず、逃走するのも君の自由だ」
エルロットの頬を一筋の汗がつたった。
「だ、旦那!勘弁してください!」
「え、エータ。なんかいじわるになってないか最近?ちゃんとできるよなエルロット?」
俺は見た目に騙されているのかもしれないが、何故か放っておけなかった。
「ケンの旦那は優しいんですね。あっしの命も買ってくれた恩人だし」
にこやかに俺を見るエルロットはどう見ても無邪気な子供だ。
「旦那って言い方はやめてくれよ。『ケン』でいいよ」
「じゃあ、あっしも『エル』と呼んでください。ケンの兄貴!よ!色男!」
俺はなんだかめんどくさくなってきてスルーした。

馬車は荒涼とした砂漠を進んでいた。空に舞う砂粒が風に巻き上げられ、乾いた風が肌をかすめていく。地面はひび割れ、かすかに遠くに見える岩山以外はほとんど何もない。空は高く青く、昼の太陽が容赦なく照りつけていたが、砂漠の中に小さな影を見つけることはほとんどなかった。 
馬車内の日陰は涼しいが、屋外の日向は暑く、俺はたまにゴーに声をかけて水を渡していた。
「ケンの兄貴!そんな雑用ならあっしが!」
そういってアピールするエルだが、一度ゴーに水を渡して睨まれたら
「ご、ゴーの旦那はケンの兄貴の水がいいみたいです」
しょげて帰ってきた。
やがて、砂の海に小さな草がちらほらと見え始めた。最初はぱらぱらと点在する程度の草だったが、次第にその密度が増していく。目に優しい緑が広がり、砂漠は徐々に草原へと変わっていった。風が柔らかくなり、遠くの空には鳥の影がちらついている。馬車の車輪が草を踏みしめる音が微かに響き、その感触が心地よかった。 
背の低い木が生い茂る丘の麓で昼食にすることにした。
馬たちに袋に入れた水を飲ませて休ませ、自分達も昼食を取った。エルは朝も昼も僅かな食事しかとらなかったが
「あっしは体が小さいからそんなに食べなくても大丈夫です。食費も安いモンですよ」
笑顔でそう言っていたが、エータに
「身体能力を見たいから馬車に乗らずに走ってついてきたまえ」
そう言われて引きつった顔で
「じょ、冗談ですよねエータの旦那?」
「吾輩は冗談を言ったことはない。命令を聞けないのかね?」
エルは助けを求めるように俺の方を見たが、俺は
「少し走るだけだよ、きっと・・・多分」
曖昧な事を言って目を逸らした。


「ハッハッハッ」と短い息をリズミカルにしながら軽快に走っている。
その足取りに鈍った様子はない。
「見たまえケン。同じ人間でも持久力を鍛えればこれくらい走れるのだ。君も訓練するのはどうかね?」
俺はその問には返事をしなかった。馬車の後ろをかれこれ一時間以上走らされているエルを、馬車の後ろの幌を開けてエータと並んでみている。
「ハッハッ・・・そろそろ・・・ハッハッ・・・だ、旦那!」
「及第点だエル。ゴールア、停車可能な場所で止めてくれたまえ」
馬車はゆっくりと減速し停止した。
俺は馬車を降りてエルに水を渡そうとしたらエルは俺に抱きついてきた。
「はあはあ・・・し、死ぬ・・・」
俺はエルを抱きかかえたら驚くほど軽かった。
「よくがんばったじゃないか」
そう声をかけて、そのまま抱えて馬車の床に寝かせて汗をふいてあげた。
「まだ余力はありそうだな。吾輩の見立ての通りだ」
エータは満足そうに頷いていた。
「はあはあ・・・も、もうご勘弁を・・・」
両手をパーにしてエータに突き出して顔を伏せていた。
俺は何かコントのように見えて笑ってしまったが、エルの走りはすごいと素直に思った。

その後、街にはたどり着けずに日暮れ間近になった。
街道は再び整備された街道になっているようだった。
街道脇で野宿することになった。
焚火をして食事をして寝ることになったのだが、何故か俺とゴーが馬車の中で寝て、アレックスとエルは外で寝ることになった。
ゴーは御者として今日一日働いてくれたからわかるが、俺は何か守られている感を感じて居心地が悪かった。
「狼?いや野犬の群れがいますね」
「君は夜目も効くのかね?探知能力も申し分ない」
「いやあ、遠吠えが狼と犬は違いまさー」
そんな声が聞こえていたが、俺は眠くなって意識を手放した。

朝起きると馬車の中は俺一人で、前回の山賊騒動を思い出して飛び起きた。
皆馬車の周りにいたが、エルがいない。まさか・・・
「え、エルは?」
「やあケン。おはよう。よく眠っていたようだね」
アレックスと焚火を囲んでいるエータはのんきそうに挨拶をしていた。
ゴーは馬のブラッシングをしていたが、俺に気付いて挨拶をした。
「おはよう。え、エルはどこにいったんだ?」
俺は少しだけ、ほんの少しだけイヤな予感がしていたけど
「エルには食料にできそうな物を採取してこいと送り出した。そろそろ戻ってくるころであろう」
エータのその返事にほっとしたけど、採取した食事にいい思い出がなかった事を思い出した。

エルを待つ間、俺もシロンのブラッシングをして雑草の生えている場所に連れて行き、草を食べさせていた。「俺もシロンと同じ雑草を食べるのかな」と話しかけていた。

茂みが揺れてエルが飛び出してきた。俺はびびって飛び上がった。
「ケンの兄貴!兄貴の為に取ってきましたぜ!」
満面の笑みで手に持った物を少し持ち上げた。
片手には予想通り草を持っていたが、もう片方の手には灰色のウサギの耳を握って持っていた。
俺は以前にもエータやアレックスが動物を捕まえて捌くのをみたことがあったが、無邪気な少年が死んだウサギを嬉しそうに持っているのが残酷に見えた。
「やるではないかエル。吾輩が調理しよう」
「エータの旦那ぁ!あっしは役に立つでしょう?」
エータにたいして笑顔でアピールするエルに少しだけ不穏な物を感じた。

食事をして準備を整えて出発した。
一度、野盗が待ち伏せしていたようだが、兵装のゴーの姿を確認すると逃げたようだった。
昼前には小高い丘を超える途中でゴーが御者台から声をかけてきた。
「街が見えました」
俺も御者台に移動して見てみると、遠くに集落が見えた。
「一度停車してくれたまえ。エル、仕事だ。いってきてくれたまえ」
エータにそう言われて、真剣な表情のエルは止まる前の馬車から飛び降りて街に向かい走っていった。
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