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地底人を探して

奴隷の少年

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奴隷の少年エルロットは意識を取り戻したが、再び気絶してしまった。
4人部屋だがエータにベッドは不要なので、ベッドに寝かせた。
俺はその後にエータやゴーに色々と話しを聞いた。
この地方で奴隷は合法だが、だれでも奴隷になる訳ではなく、基本的に「前科持ち」が奴隷にされるとのこと。道中で見かけた山賊・野盗などや、街中で軽い犯罪を複数犯すと奴隷にされるらしかった。ちなみに殺人などの重罪は斬首だそうだ。
この奴隷少年エルロットは前科12犯の窃盗罪で奴隷にされていると権利書には書かれている。一生涯に渡り奴隷であるとも書かれているようだった。
「王都中央なら両手を切り落とされる前科数ですよ。この国は奴隷商売があるから助かってはいますが、許されざる存在です」
ゴーは眠っているエルロットに冷たい視線を送っている。
エータは眠っているエルロットの顔を覗き込んで
「生体反応に異常はない。しかし、これは・・・ケン、手伝いたまえ」
俺はアレックスや奴隷商の仕打ちでヒヤヒヤしていたので、異常なしと聞いてほっとしていたのだが、エータは「細胞を調べたい」と言い、俺はエルロットの腕を保持した。
エルロットは上半身裸だったが、既にあざだらけだった。奴隷商は日常的に暴行していたのだろう。嫌な気分だ。
エータは胸部から針を出し、エルロットの腕に刺した。
「な、なにか異常があるのか?」
「ケン。リュナを覚えているか?狼人だ」
俺はリュナの名を聞いてドキっとした。しかし何故?
「エルロットはそれに近い。見た目と中身は違う。君より長い年月生きている」
「は?この子8歳とか10歳とかそれくらいだろ?」
俺はリュナとこの子供は違うと感じていた。
「実年齢は40歳前後であろう。見た目の幼さで相手を巧みにだまし窃盗を働いていたのであろうな。先ほどケンに見せた姿も演技であろう」
俺はにわかには信じられなかった。

朝になり俺たちが起きてもエルロットは起きなかった。
エータは一晩中見張っていたが、不信な動きは無かったらしい。
エータは眠っているエルロットの横に立ち
「エルロット。君はもう起きているのではないかね?ここからの逃走を図るのなら命が掛け金だ」
エータがそう言うとエルロットは起き上がり、地面に土下座をした。
「す、すみません旦那がた。つ、つい出来心で・・・」
声変わり前の少女とも少年とも思える澄んだ声で額を地面にこすりつけていた。
声も全身も僅かに震えている。
エータはしゃがみこんでエルロットの眼前に迫った。
もちろんフードもマントも外している。
「少しテストをする」
三つの目をくるくるとせわしなく動かしている。
「吾輩の目が見えるかね?」
エータがそういうと、エルロットは体をせわしなく動かし始めた。
「ほう」とゴーは何かに関心した声をだした。俺は少しだけエータの手が動いているのが見えた気がした。
「全部躱されるとはな。役に立つ気はあるかね?」
エルロットは再び額を地面にこすりつけ、汗だくになって答えた。
「い、命を助けてくれるのならなんでもやります。やらせてください」

俺たちは、と言うか俺は一度全てを正直に話すようにエルロットに告げた。
とりあえず、地面に正座させているのが絵面的に心苦しいのでテーブルに移動した。

エルロットはここよりさらに西方に住んでいる少数民族とのことだった。
そこでは子供の姿のまま成長が止まってしまうものがそこそこの頻度で誕生している。
そこそことはどの程度かと聞くと、住民の半分は子供の姿だという。そこそことは・・・
まあ、それは置いておいて、エルロットは記憶が確かなら38歳とのことだった。
20年ほど前に街に来て、満足に相手をしてもらえないとわかると窃盗を始めた。
砂漠の野盗と組んで窃盗や馬車の情報を流しての強盗をしていたが、3年ほど前に下手をして捕まり、野盗も滅んでしまった。

そして奴隷になったが、子供の奴隷は働き手として価値が無く、奴隷商のサンドバッグになっていたが、不思議と怪我の治りは早かったようだ。
「こ、これってロレンヌさんの実験と何か関係が・・・?」
俺はアレックスの顔を見て、ロレンヌさんを思い出し、そうとしか考えられなくなっていた。
「おそらくだがそうであろう。エルロット、君達は何年生きることができるのかね?」
上を向いて首をかしげたエルロットは見た目は完全に少年だった。
「あっしのおじいもおばあも50か60ってとこでくたばったんじゃあないですかね?あんまりおぼえていませんや」
子供の声で言うそのセリフは不思議と笑えなかった。奇妙さが勝ってしまっていた。
ゴーはエルロットのそんな態度に耐えきれず、立ち上がりエルロットの首を掴んだ。
「ま、待ってくれ!?こ、殺さないって約束じゃ?」
「お前のような反省しない犯罪者には反吐が出る。何故平然と盗みを繰り返せるのだ!」
冷静にかつての仲間を手にかけたゴーとは、同じ人間に思えない怒りに燃えた目でエルロットを睨んでいる。
「あっしは最初はマジメに働こうと思ったんでさー。け、けど子供にできる仕事はねえって」
ゴーはエルの頬をひっぱたいた。
「自分を正当化するな!ならなんで故郷に帰らなかったんだ?」
俺は止めようかと思ったけど、エルロットの答えに興味があった。
「そ、そのぅ。一旗あげたかったんです。で、でも盗みを働いて後ろ暗くて・・・すみません」
「・・・もうよい。アレクシウス殿も言っておったが次は私もお前を許さぬ。覚えておけ!」
そういって掴んだ首をはなした。
俺は話しを聞いて、コイツを助けてよかったのかと感じ始めていた。
彼の過去とその行いを知れば知るほど、彼に対する信頼が揺らいでいく。しかし、ここで彼をどう扱うべきか、俺はまだ決断できずにいた。 


エルロットの処遇はエータに任せることになった。
エータは本人に向かい、俺たちにも説明するように
「君には利用価値がある。主に情報収集や偵察を頼みたいのだが」
エータはエルロットに顔を近づけてから
「途中で逃走を図ったり、我々を含む他者から窃盗を行ったら、どうなるのかわかっているかね?」
クルリとゴーの方に顔を向けて
「そんな時、兵士はどうするのかね?」
ゴーは苦々しい表情でエルロットを見てから
「・・・首か両腕か、切られたい方を決めておけ」
「だ、そうだ。わかったかねエルロット?」
エータは何か楽しそうに見えた。
俺は裸じゃ目立つからとエルロットの服を買った方がいいのでは?と提案したが
「みすぼらしい方が効果的ではないかね?」
「コイツに金をかけるのは無駄です」
「・・・」
却下されたようだ。
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