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地底人を探して

ローレン領からの旅立ち

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その朝は雲一つない晴天だった。
秋晴れを思わせる青さだったが、風は冷たかった。
屋敷の前に馬車をまわし、ローレン卿をはじめ総出で見送りに来てくれた。
「皆無事にここへ帰ってくるのだぞ!」
そうローレン卿に送り出され、俺たちは出発した。

ゴールアの操縦する馬車は快適で、速度も申し分なかった。
アレックスはいつも通り目を閉じて座っていたが、俺はエータから今後の予定を聞かされていた。
「まずは南部の地底人集落を目指す。そこには直近まで馬車で行けるはずである」
おおむね予想通りのだったので、俺は無言で頷いた。
アレックスは目を閉じているが、ゴーも理解しているはずで、南に向かっている。
「目的地の周囲に、ごく微弱だがシグナルを検出している。ここは地底人の所へ赴いた後に探索に向かう計画だが、馬車では向かえない場所であろう」
「馬車でいけないって、ジャングルとか?」
「ケンにしては鋭いな。それに近しい場所付近と推測される」
「『ケンにしては』は余計だろ!」
御者台からは笑い声がかすかに聞こえた。
「はは、状況に応じて私が馬車を守るのでご安心を」
笑いを噛み殺しながらも、少し笑い声をもらして大きな声でゴーが答えた。

ロスタルまでは、何事もなくほのぼののしたムードで無事についた。
今回は街に用はないので、街から西方面を目指して進んだ。
王都中央部は警戒が厳しい可能性が高いので、遺跡の信号を探しながら西側周りで南部を目指すことになっていた。
街からほどなく進むと、ケンは遠くに見える城のような建物を見つけた。
「俺、あそこの城に捕まってたのか・・・」
エルフの首を投げ込まれて怯えていたのが昨日のように感じられた。
あの時はアレックスを見て、ビビって漏らしたのに。
絶対いつか血を吸われて殺される。そう思っていたのに・・・
あの時にアレックスが「友になれるかもしれん」と言ったのは、こうなる事がわかっていたのか?馬車の中で静かに目を閉じているアレックスを見てぼんやりとそんなことを思っていた。

その後も大きな問題も無く街道を進み、日暮れ近くに街に入った。
街は簡素な柵で囲われ、門兵もいたが、
「北方の貴人を護衛中である」
ゴーが堂々とした態度で御者台からそう言うだけで、すんなり街に入れた。
馬車ごと預かってくれる立派な宿に入り、俺たちはその日はそこで一泊した。
小市民な俺は、貴族が宿泊するような立派な宿に入った時から「お金は大丈夫なのか」と、そんな心配ばかりをしていた。アレックスは出発前に路銀としてローレン卿から金銭を受け取っていたが、落ち着かなかった。

そんな心配とは別の事件が起きた。
夕食を食べて、部屋に戻り、皆でくつろいでいる時にエータがボソりと
「足音を殺しているがこの部屋に接近者がある。三人か」
そんなことを言ったので、俺一人だけが慌てふためいて、あたふたしていた。
部屋をノックされて、俺は毛布を被って隠れたが、ゴーが扉を開けた。
「夜分にすみません。やっぱりゴー隊長だ!」
「お前たちは・・・東方師団にいた・・・」
「ゴー隊長、ご無沙汰しております」
三人はゴーの知り合いらしかった。かつての部下のようで、俺と同じくらいの年頃に思えたが、がっちりしてたくましかった。
ゴーは室内の俺たち三人を見てから、外の兵士たちの方を向いて
「ここは貴人がいらっしゃるので、部屋にいれる訳にはいかん。留守を任せてから向かうので宿の外で待っていてくれるか?」
そういって俺の前に来て
「とにかく、あいつらと話しをしてきます。何かを言いたそうに見えたので情報を得る事はできるでしょう。エータ殿もいるので後はお願いします」
俺に向かって話していたが、俺の返事を待たずに出て行ってしまった。
「ゴーにしては機転を聞かせたな。ヤツはバカな振りが得意だが、聡い。誰かさんと違ってな」
エータがゴーを認めている発言を聞いて、俺は嬉しかったのだが、誰かさんが誰かわかって
「え、エータ。最近なんか俺にたいしてあたりがきつくない?」
「吾輩は君とは言っていないがね」
なんかエータが人間っぽくなったように感じるのは俺の気のせいか。

ゴーは2時間ほどで戻ってきた。
「遅くなりすみません。実は・・・」
少し酒臭い息を匂わせながらゴーは話しだした・・・

さっきの三人はゴーが小隊長時代の部下だったらしい。
各々階級が上がり、別の隊に編成されてしばらくぶりに顔を合わせたとの事だった。
ゴーは何をしているか聞かれ、嘘とも真実とも言える「貴人の警護を単独で行っている指令で動いている」と答えたそうだ。指令は自分が自分自身に出しているとの言い訳で。
そういうと、この先の西方街道付近で強力な山賊が現れ、周囲の野盗や窃盗団も傘下にしているらしく、特に山間の付近は危険だと教えてもらったそうだ。
さらにその三人は「世話になったゴーの為に山間部を抜けるのなら自分達が共に護衛に加わりたい」と申し出てきたのだそうだ。
ゴーは「気持ちは嬉しいが、貴人に確認しないと回答はできない。お前たちの任務はどうするのか」と言ったら、「この街は安全で、自分が責任者だから貴人警護と言えば大丈夫」その上で「明日出発前に伺います」
そう言われて解散し、ゴーは帰ってきたとの事だった。
「ど、どうしましょう?」
「よいのではないかね?邪魔なら排除すれば済む」
固まっているゴーの顔を見た。
「え、エータバカ!お前何言ってるんだよ!」
「は、排除・・・」
「だ、大丈夫だゴー。俺がそんなことはさせないから。ていうか断れないのか明日?」
「恥ずかしいはなし、私も久しぶりに会う後輩の申し出が嬉しくて・・・前からそういうのに弱くて・・・」
俺はゴーの性格的にそんなような気がしていた。
「ま、まあ断れたら断って、無理そうなら一緒に来てもらおう」
俺は無反応なアレックスとエータを見てから
「だ、大丈夫って言ったけど、アレックスもエータも無茶しないでくれよ」
こめかみから汗が一筋流れた。
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