49 / 90
旅立ち 北を目指して
兵隊怖い
しおりを挟む
馬車は特に何事も無く順調に進み、次の街についた。
俺はずっと黙って寝たフリをしたりしていたが、エータは老夫婦と何やら会話をしていた。
次の街についたらキザおじさんだけが下車して、替りに兵士が一人乗ってきた。
「しばらく邪魔をする」
太く低い声で一言断りを入れて乗り込み、キザおじさんが降りた席、中年の奥さんの隣、俺の前にドカリと座った。
俺はエータやアレックスの存在がバレるのではないかと内心ヒヤヒヤしていたが、兵士は腕を組んで目を閉じてうたた寝をしているようだった。
「ふむ。馬車検めではないようだな」
「ば、エータ声がでかいよ!」
俺はささやき声でエータに言ったが、エータはまったく気にした様子はなく
「相手が一人なら君の訓練にちょうどいいのではないかね?」
冗談とも本気とも思えることを言って俺は絶句していた。
その後は馬車内で会話もなく、静かに馬車は揺れていたが、御者が
「兵隊の旦那ー!前の方に兵隊の人がいますがここでいいんですかい?」
そう馬車の前布をめくり声をかけてきた。
そこからちらりと見えた先には、街道の真ん中に馬乗った茶色い革鎧の兵士が4~5人見えた。
俺はみんな屈強そうな兵士に見えて、ビビってドキドキしていたが、馬車に乗っていた男は
「馬車は止めなくていい。ご苦労であった」
そう言ってひらりと飛び降りた。
馬車の後ろの方から
「分隊長。御帰還おまちしていました!」
そんな大きな声が聞こえてきて
「あ、あの人はえらい人だったのか。なんかそんなにすごそうに感じなかったな」
そんな感想を持った。
俺は安心感からか、分隊長が馬車から降りてまもなく
「はーっ」
と溜息をついてしまった。
斜め前に座っているふくよかな中年夫人は俺を見て、懐から一枚の乾燥した葉っぱを差し出し
「あんた疲れてるのかい?これあげる。キーリの葉」
俺は受け取らないのも悪いと思い
「ど、どーも」
と受け取ると夫人は同じものを口に入れていた。
俺も恐る恐る口に入れるとスッとした辛さと苦味を感じた。ミントのようだった。
頭もスッキリとした気分になり
「これうまいですね」
「あら、それはよかった」
夫人は誰もが安心できそうな笑顔で答えたが、隣の主人は目を開けて
「うちで卸してるんだが、兵隊に買いたたかれるのはシャクでね。少しなら分けれるが買うか?」
そう聞かれて、俺は欲しかったがお金を持っていない・・・
「ああ、えーと・・・」
「小袋ひとつ頂こう。これで足りるかね?」
エータは銀色のコインを1つだして渡し、小袋を受け取った。
「お、さすが旦那は相場をわかってるね!兵隊相手じゃなくアンタらと商売したいね!」
そう言ってだみ声で笑っていた。
その次の小さな街とも村とも区別つかない所で中年夫婦は下車した。
俺は手を振って見送った。
エータは先ほど受け取った「キーリの葉」を手に取って
「これは神経を落ち着ける作用がある。君が担がれて気分が悪くなった時に使用するのが効果的であるな」
そんな会話をしていたのだが、後ろから馬の走るひずめの音が迫ってきて、俺は一気に緊張し、少しだけ外を覗き見た。
槍を持った兵士二人が馬を走らせて馬車に迫っている。
「えええ、エータ!兵隊がきた!」
俺はビビって震える声でそういったが、エータもアレックスもまったく動じずにいた。
「敵意は感じられないから伝令か何かであろう」
そのまま馬は馬車に並び、御者に
「この先は通れないかもしれん。街道は安全だが、引き返したほうがよい」
そう声をかけていた。
俺は不安になり「引き返そう」と言おうとしたが
「行ける所まで行ってそこで降ろしてくれたまえ」
エータは淡々と御者に告げていた。
ほどなくして兵士が街道を並んでふさぐ場所に来て
「これ以上は行けないみたいですぜ」
と御者に言われてその場で降りた。
俺は兵士達が作った簡単な木のバリケードの前でそんなやり取りをしているのが不信に見えたが、兵士たちは何も言わなかった。
エータとアレックスは荷物を担ぎ、ズカズカと兵士の居並ぶ街道を進んでいった。
「ここから先は自己責任だ」的な事をいうだけで通してくれた。
しばらく歩くと先の方に煙がいくつか上がっているのが見えた。
街道からそれた場所だと思うが、草木もまばらな丘の多い地形の数か所から煙が上がっているのを見ながら歩いていた。
朝は活気のある街で穏やかだったのに、昼には戦場に来てしまったのかと錯覚した。
エータはフードを外し、目をクルクルさせながら
「豚人の斥候はここまで来ているのか。本体も近いな」
俺はますます不安になり、アレックスを見上げた。
アレックスは俺の視線に気付き、近くに来た。
「・・・大丈夫だ」
たった一言だけ、そう言ってくれただけで、俺はかなり安心した。
俺はずっと黙って寝たフリをしたりしていたが、エータは老夫婦と何やら会話をしていた。
次の街についたらキザおじさんだけが下車して、替りに兵士が一人乗ってきた。
「しばらく邪魔をする」
太く低い声で一言断りを入れて乗り込み、キザおじさんが降りた席、中年の奥さんの隣、俺の前にドカリと座った。
俺はエータやアレックスの存在がバレるのではないかと内心ヒヤヒヤしていたが、兵士は腕を組んで目を閉じてうたた寝をしているようだった。
「ふむ。馬車検めではないようだな」
「ば、エータ声がでかいよ!」
俺はささやき声でエータに言ったが、エータはまったく気にした様子はなく
「相手が一人なら君の訓練にちょうどいいのではないかね?」
冗談とも本気とも思えることを言って俺は絶句していた。
その後は馬車内で会話もなく、静かに馬車は揺れていたが、御者が
「兵隊の旦那ー!前の方に兵隊の人がいますがここでいいんですかい?」
そう馬車の前布をめくり声をかけてきた。
そこからちらりと見えた先には、街道の真ん中に馬乗った茶色い革鎧の兵士が4~5人見えた。
俺はみんな屈強そうな兵士に見えて、ビビってドキドキしていたが、馬車に乗っていた男は
「馬車は止めなくていい。ご苦労であった」
そう言ってひらりと飛び降りた。
馬車の後ろの方から
「分隊長。御帰還おまちしていました!」
そんな大きな声が聞こえてきて
「あ、あの人はえらい人だったのか。なんかそんなにすごそうに感じなかったな」
そんな感想を持った。
俺は安心感からか、分隊長が馬車から降りてまもなく
「はーっ」
と溜息をついてしまった。
斜め前に座っているふくよかな中年夫人は俺を見て、懐から一枚の乾燥した葉っぱを差し出し
「あんた疲れてるのかい?これあげる。キーリの葉」
俺は受け取らないのも悪いと思い
「ど、どーも」
と受け取ると夫人は同じものを口に入れていた。
俺も恐る恐る口に入れるとスッとした辛さと苦味を感じた。ミントのようだった。
頭もスッキリとした気分になり
「これうまいですね」
「あら、それはよかった」
夫人は誰もが安心できそうな笑顔で答えたが、隣の主人は目を開けて
「うちで卸してるんだが、兵隊に買いたたかれるのはシャクでね。少しなら分けれるが買うか?」
そう聞かれて、俺は欲しかったがお金を持っていない・・・
「ああ、えーと・・・」
「小袋ひとつ頂こう。これで足りるかね?」
エータは銀色のコインを1つだして渡し、小袋を受け取った。
「お、さすが旦那は相場をわかってるね!兵隊相手じゃなくアンタらと商売したいね!」
そう言ってだみ声で笑っていた。
その次の小さな街とも村とも区別つかない所で中年夫婦は下車した。
俺は手を振って見送った。
エータは先ほど受け取った「キーリの葉」を手に取って
「これは神経を落ち着ける作用がある。君が担がれて気分が悪くなった時に使用するのが効果的であるな」
そんな会話をしていたのだが、後ろから馬の走るひずめの音が迫ってきて、俺は一気に緊張し、少しだけ外を覗き見た。
槍を持った兵士二人が馬を走らせて馬車に迫っている。
「えええ、エータ!兵隊がきた!」
俺はビビって震える声でそういったが、エータもアレックスもまったく動じずにいた。
「敵意は感じられないから伝令か何かであろう」
そのまま馬は馬車に並び、御者に
「この先は通れないかもしれん。街道は安全だが、引き返したほうがよい」
そう声をかけていた。
俺は不安になり「引き返そう」と言おうとしたが
「行ける所まで行ってそこで降ろしてくれたまえ」
エータは淡々と御者に告げていた。
ほどなくして兵士が街道を並んでふさぐ場所に来て
「これ以上は行けないみたいですぜ」
と御者に言われてその場で降りた。
俺は兵士達が作った簡単な木のバリケードの前でそんなやり取りをしているのが不信に見えたが、兵士たちは何も言わなかった。
エータとアレックスは荷物を担ぎ、ズカズカと兵士の居並ぶ街道を進んでいった。
「ここから先は自己責任だ」的な事をいうだけで通してくれた。
しばらく歩くと先の方に煙がいくつか上がっているのが見えた。
街道からそれた場所だと思うが、草木もまばらな丘の多い地形の数か所から煙が上がっているのを見ながら歩いていた。
朝は活気のある街で穏やかだったのに、昼には戦場に来てしまったのかと錯覚した。
エータはフードを外し、目をクルクルさせながら
「豚人の斥候はここまで来ているのか。本体も近いな」
俺はますます不安になり、アレックスを見上げた。
アレックスは俺の視線に気付き、近くに来た。
「・・・大丈夫だ」
たった一言だけ、そう言ってくれただけで、俺はかなり安心した。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる