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旅立ち 北を目指して

旅立ちの朝

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翌朝は日が昇ってから起きた。
ジンナの食事はエータが済ませてくれたらしい。
俺とアレックスはテーブルについてエータの準備した食事を取っていた。
「食事が終わったら出発しよう。再三説明したが、北部の『屋敷』で馬を手に入れるのが目標だが、旅程は凡そ800キロ。ケン次第ではあるが、3~4日の計画だ」
俺は全然頭が働いておらず、ぼーっとしながら固いパンを噛んでエータの話しを聞いていた。
「で、あるから君の体調、コンディションが最重要なのだが理解しているかねケン」
エータ先生の講義は難しくて寝起きには厳しいのです。
俺はとにかく担がれるのがイヤで、かといって自分がヘトヘトになるまで歩くのもイヤだった。
閃いた!!
「せ、先生!途中で馬車は使えますか!」
俺は椅子から立ち上がり挙手をして発言した。
何か面白かったようで隣でアレックスが
「・・・ふっ」
と鼻で笑っていた。
「ケンにしては的確な質問だな。東の都市部から北方都市群までは馬車と街道とその中間に位置する街の利用も可能であろう。豚人や他の野盗などが活発だと警備が厳しくなるので街によれるか馬車を使用できるか否かは現状で判断は不可能だ」
俺は立ったまま、すこし首をかしげながら
「・・・て、ことは・・・?」
「・・・自らの足で歩けば良いのであろう?」
アレックス先輩の答えで今日の講義は終わりました・・・

食事と片付けを終えて、俺たちはいよいよ旅立つことになった。
俺はアレックスとエータに断りを入れてジンナの家に来ていた。
もうかなり日は高かった。
ジンナは眠そうにしながらも、起きて待っていてくれた。
俺は玄関を開け、光が入らないようにすぐに閉めて少し立ち尽くしていた。
「ケン・・・来てくれた・・・」
ジンナは俺の姿を見て涙を流していた。
「ジンナ・・・行ってくる・・・」
俺はそれ以上に言葉が出せず、ジンナを抱きしめた。
それほど長い時間を待たず、お互いに離れた。
「ジンナ・・・元気で」
「うん、ケンも気を付けて」
一度だけ唇を重ねて俺は家を出た。
ジンナはケンの後ろ姿を家の中で見送っていた。

村の入口で待っていたアレックスとエータは長老ガイウスをはじめ、数人の村人に囲まれていた。
ケンはそれを見て、少しだけ戸惑ったが二人の元へ向かった。
「おまたせ、いこうか」
そう小さく声をかけるとアレックスは無言で頷いた。
「では行くかね。目指す方角は北西だが、人間の集落を少し避けて北へ向かう」
エータはそういって既に歩き出し、アレックスも続いていた。
俺は長老やヒロミスの方に向き直り
「お世話になりました、いってきます!」
少しビビって震えていたが、大きな声でそう言った。
「道中気を付けて!ご武運を!」
「ケン!体に気を付けて」
「無事を祈る、友よ!」
そんな声を受けて恥ずかしくなり、ペコリと頭を下げてから振り返り小走りで二人についていった。

アレックスとエータは大きな荷物を背負っていたが、まったく疲れを見せず、槍を杖替りにあるく俺だけが「はあはあ」と荒い息を上げていた。
空には雲があり、時折曇るが今日も暑かった。赤茶色の地面が余計に暑苦しい。
俺はジンナの事や、たまにでてくる「おじさん」やリュナの事も思い出していたが、疲れてきて何も考えられなくなっていた。
「休むかねケン。君の体力が回復するまで吾輩の肩に乗るのはどうかね?」
冗談に聞こえてうっすら笑ったが、エータは冗談を言わない・・・
「い、いや、エータに運んでもらっても疲れるから・・・」
「・・・気を失えば俺が運ぼう」
いや、アレックスさんまで何話に乗っかってるんすか!!?
俺はどっと疲れた感覚に襲われて
「す、少し休憩にして・・・ほしいですはい」
力の入らない声でそうつぶやいた。
「この先で以前野営した河原の下流に出る。そこまで行けるかね?」
エータは僅かに歩みを遅らせてケンに並んでそういった。
俺は今すぐ座り込みたかったが、以前に野営の河原・・・と漠然と考えて
「あ・・・豚人に襲われた所・・・」
「そこの下流だ。今回はアレクシウスも万全だし、吾輩も警戒は怠らないので問題ないであろう」
俺は豚人の襲撃や惨殺、暗い河原でアレックスが倒れたのを思い出していた。
まったくいい思い出がないのですが・・・
「それとも、次の休憩できそうなポイントまで移動するかね?凡そだが、4時間程度は移動を続けることになるが。代案として吾輩が担ぐ、アレクシウスが担ぐ。君にはいくつもの選択肢があるがどうかね?」
・・・どれもイヤです。だけど体力的にキツくなってきたし・・・
「河原で休憩しよう。お昼にはちょっと早いかな?」
「現時点では過剰な食材を保持しているから河川等で採取する必要はないな。水は随時補給できたほうがいいから・・・」
俺はもうエータの話しが頭に入らなかった。

無事に河原にたどり着き、軽く食事をして休憩した。
渡れそうな場所を見つけ、対岸に渡った。
対岸は緑が生い茂り、時折キツネやウサギのような野生動物も見かけるようになった。
しばらくして一度だけエータが
「豚人が見ているが接近する気配はないな。逃げたようだ」
そう言われ、俺は槍を構えて周りを見まわしたが、アレックスが槍を抑え
「・・・もういない」
そういって黙々と歩き出した。
それ以降も何事もなく穏やかな風と景色に包まれていたが、俺はすでに足がガクガクだった。
「この先に人間の集落があるようだ。そこそこの規模のようだし、宿を取るかね?」
俺は野宿がイヤで
「宿を取ろう!」
と速攻返事をして、集落に向かうことになった。
草原を抜けて丘をこえた所で集落が見えた。
集落と聞いて俺は小さな村を想像していたが、道は石畳で二階建ての石造りの建物がいくつもある街だった。馬車も見えた。
俺はそんな見慣れない異世界の景色なのに、何故か「帰ってきた」と思いほっとしていた。
マントとフードに包まれたエータを、改めてマジマジと見つめて「絶対不審者じゃん」と心の中で笑う余裕が出てきた。
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