Réglage 【レグラージュ】

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エラール 『No.0』

25話

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《おー、たくさん来てくれてありがとうございます。今日はですね、まだ場所は言えないんですけど、ゲリラライブ前の生の空気をですね、お送りしています。この僕、パスカル・ヌーヴィックの新作アルバム『リュミエール』のですね、発売イベントが一四時から予定しております。今、現場近くの建物をお借りしてるんですけど、お近くの方、是非遊びに来てもらえたら嬉しいです。場所はまだ言えないんですけどね!》

 場所はまだ言えないと言いつつも、パスカルはまず間違いなくバレるだろうと予測していた。むしろ本当にバレないと、逆に盛り上がりに欠けるかもしれないので、バレる要素を交えつつ、配信は続く。おそらく誰かがこの貸し会議室に気づくだろう。ピアノを搬入していたところを誰かが見ていたかもしれない。

《それでですね、今回使わせていただくピアノがこちら、エラールの『No.0』というモデルですね。いやー、ありがたいことにお借りできまして、僕もすごく愛着のあるメーカーなんですけど、今回! その調律をお願いしたのがですね! なんとプルミエールの女性なんです!》

 コメントでは『おぉー!』『見たい』など早くも盛り上がりを見せている。パスカルが伝えなくても皆知っていたのだが、あえて知らないフリをする。阿吽の呼吸というやつか。こうしている間にも視聴者数は増え続けている。日曜日の昼間はやはり暇を持て余した人が多い。

《僕もコメントで教えていただいて初めて知ったんですけど、いやー、配信映えが狙えるってのもまぁね、ありますけど、実力も素晴らしいということで、今回のイベントで調律をお願いしたところ、快諾していただきまして、アトリエ・ルピアノさんにはですね、本当に感謝申し上げたいと思います》

 どういうわけか『パリ北駅近くの貸し会議室に似てる』『ピアノっぽいのが運び込まれてるのを見た』というコメントが出始める。『今パリにいるわ』『職場近い』なども出始め、ある程度特定されてきたようだ。ここまではパスカル陣営の思惑通りで事は動いている。

《どんどん観てくれてる方増えてますねー、ありがとうございます。ではね、そんな引っ張ってもしょうがないので、出てきていただきましょう、サロメ・トトゥさんです!》

 紹介されると、スタッフ達の拍手と共にスーツ姿の少女が出てくる。パスカルと握手を交わし、画面上で恥ずかしそうにしつつも、元気さをアピールしている。

《はい! よろしくお願いいたします! これもう映ってるんですか? 今日は頑張ります!》

「誰こいつ」

 アトリエでは、この時間だけ臨時休業にして、店の端末で、ルノー・ロジェ・ランベールの三人で事の顛末を見守っている。サロメの登場を見、全員が思ったであろうことをランベールが代表して述べた。彼女の口から「頑張ります」なんて聞いたことない。「これ食べていい?」「食べちゃった」「置いてあったから」が上位に入る。

「ちょっとやりすぎじゃないですか?」

 それも皆思ったが、ロジェが代弁。

「やっぱ危険だったか……」

 ルノーも頭を抱える。一応、余計なことは言わない、やらない、元気に明るくと伝えており、全部正しいはずなのだが、正体を知っていると嘘臭く感じる。

 とはいえコメントは『可愛い』『ウチのピアノも頼みたい』など、評価は上々と言っていいだろう。頑張る女の子くらいにしかまだ世間は思っていないようだ。
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