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エラール 『No.0』
21話
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そこには彼のチャンネルというものが見える。色々な場所でストリートピアノを弾き、大勢の観衆が集まった様子を動画にしているようだ。それ以外にも有名人とコラボもして伴奏なりをしている模様。
うげ、とサロメの悲鳴が確実に聞こえた。わざとやってるのか、あたしの嫌いなものってネットで拡散されてるのかと信じられなくなる。反面、こういうプロもいるのか、と勉強にはなる。興味はないが。
「……この世の終わりを煮詰めたような男ね」
「そう言うなって。おそらくエラールの『No.0』なんて調律できる機会、この先ほぼないぞ」
たしかに、もはや展示用としか他店に置いてないとなると、そこの店の調律師が基本的には調律する。ライバル店にいじらせることなどないだろう。むしろ今回よく許可が出たなとサロメは感心した。
(そういうこと……)
サロメが調律を職にしている目的はルノーだけしか知らない。サッカーでいうところのアシスト役として今回は彼女に仕向けたのだ。感謝したいとこだが、もっと違う方法でエラールには触れたかった。
「で、なんでその変態マゾ野郎はあたしを指名なんですかね。どうやって知ったっての」
近くのピアノのイスに座り、肩を落としながらサロメは言われにないあだ名を、会ったこともない人につける。調律する方向で気持ちは少し移ってきてはいるようで、少しでも情報を集めようとしているのだ。諦めとも言う。
どことなく歯切れ悪く、ルノーは先方からの証言を発表する。
「まぁその、なんだ、どうやら彼が生配信してるときに、今回のイベント告知があったらしいんだが……コメントでサロメの存在を知ったらしくてね。是非にと」
コホン、と咳払いをしてから、そーっとルノーはサロメを見る。
案の定、サロメは拳に力を溜めていた。
「誰だか知らんが余計なことしやがって……!」
こんな状態でまともに調律をやるのか不安ではあるが、うまく手綱を握るのも上司の役目。うちひとりは全く役に立たなかったが、社長は無理にでも鼓舞してくる。
「ともかくチャンスであることもたしかだ。彼の生配信には数万単位の人が押し寄せる。調律と演奏でアトリエ・ルピアノの名前が売れる。いいことしかない」
という社長の満足そうな提案に、実際に作業を行うサロメが噛み付く。おかしいところを発見した。
「ちょっと待って。調律してるとこ配信されんの!?」
もはや安全地帯にいるランベールは「くふっ」と声を殺して笑う。
それを頭に血が上ろうともサロメの耳は聞き漏らさず、こいつ……と眉間に皺をこれでもかと寄せて、咎めるような視線を投げつける。
「当然だろう、調律師との会話なども人気らしい。おそらく女性ってだけでも珍しいうえに、若いとまできたら、そりゃ配信のいいネタになるからな」
なかなか女性を持ち上げるのが下手なルノーの推理ではあるが、たしかに調律師は年齢のいったおじさんというイメージがどこの国でも強いらしい。そこに若い女性かつ可愛い(自称)ときたら、期待値はいつもより高いだろう。さらに最高の調律をしたとしたら、調律師の存在そのものの地位が上がるかもしれない。そこまで彼は考えていないが、ある意味風穴を開けるにはサロメしかいないと考えている。
「こいつ嫌い」
が、なかなかにお嬢様の機嫌は治らない。
うげ、とサロメの悲鳴が確実に聞こえた。わざとやってるのか、あたしの嫌いなものってネットで拡散されてるのかと信じられなくなる。反面、こういうプロもいるのか、と勉強にはなる。興味はないが。
「……この世の終わりを煮詰めたような男ね」
「そう言うなって。おそらくエラールの『No.0』なんて調律できる機会、この先ほぼないぞ」
たしかに、もはや展示用としか他店に置いてないとなると、そこの店の調律師が基本的には調律する。ライバル店にいじらせることなどないだろう。むしろ今回よく許可が出たなとサロメは感心した。
(そういうこと……)
サロメが調律を職にしている目的はルノーだけしか知らない。サッカーでいうところのアシスト役として今回は彼女に仕向けたのだ。感謝したいとこだが、もっと違う方法でエラールには触れたかった。
「で、なんでその変態マゾ野郎はあたしを指名なんですかね。どうやって知ったっての」
近くのピアノのイスに座り、肩を落としながらサロメは言われにないあだ名を、会ったこともない人につける。調律する方向で気持ちは少し移ってきてはいるようで、少しでも情報を集めようとしているのだ。諦めとも言う。
どことなく歯切れ悪く、ルノーは先方からの証言を発表する。
「まぁその、なんだ、どうやら彼が生配信してるときに、今回のイベント告知があったらしいんだが……コメントでサロメの存在を知ったらしくてね。是非にと」
コホン、と咳払いをしてから、そーっとルノーはサロメを見る。
案の定、サロメは拳に力を溜めていた。
「誰だか知らんが余計なことしやがって……!」
こんな状態でまともに調律をやるのか不安ではあるが、うまく手綱を握るのも上司の役目。うちひとりは全く役に立たなかったが、社長は無理にでも鼓舞してくる。
「ともかくチャンスであることもたしかだ。彼の生配信には数万単位の人が押し寄せる。調律と演奏でアトリエ・ルピアノの名前が売れる。いいことしかない」
という社長の満足そうな提案に、実際に作業を行うサロメが噛み付く。おかしいところを発見した。
「ちょっと待って。調律してるとこ配信されんの!?」
もはや安全地帯にいるランベールは「くふっ」と声を殺して笑う。
それを頭に血が上ろうともサロメの耳は聞き漏らさず、こいつ……と眉間に皺をこれでもかと寄せて、咎めるような視線を投げつける。
「当然だろう、調律師との会話なども人気らしい。おそらく女性ってだけでも珍しいうえに、若いとまできたら、そりゃ配信のいいネタになるからな」
なかなか女性を持ち上げるのが下手なルノーの推理ではあるが、たしかに調律師は年齢のいったおじさんというイメージがどこの国でも強いらしい。そこに若い女性かつ可愛い(自称)ときたら、期待値はいつもより高いだろう。さらに最高の調律をしたとしたら、調律師の存在そのものの地位が上がるかもしれない。そこまで彼は考えていないが、ある意味風穴を開けるにはサロメしかいないと考えている。
「こいつ嫌い」
が、なかなかにお嬢様の機嫌は治らない。
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