遺世界パラボリック

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Alea jacta est

15話

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 打ち解けてきている、と前向きに捉えるスカーレットは、徐々に心の仮面を剥がしにかかる。

《お? 少しは生きて帰りたくなったんですか? そのほうがこちらとしても助かります。いくらでも補充できるとは言っても、あなたがたを買うにもお金がかかることなので》

 と、意味深な発言。

 に反応するアデレイド。

「お金?」

 だが。

「——くるぞッ!」

 遠くから地響きのような、いや、実際に響いている。ドスンドスンと重く鈍い音。なんとなく怒りも込められている気がする。三人が避けながら走った木々は。見るも無惨に薙ぎ倒され。自身で道を作りながら。突き進む。

 おそらく。逃げ回っても無理だろう。そんな予感がエリオットにはしてきている。

「……恐竜は相当に鼻がよかった、とは聞いたことがあるが」

 だとしたら。いや、だとしても。相当逃げて距離をとったはずなのに。真っ直ぐ向かってきているのがわかる。なにか違和感。なんだ? 先ほど、いや、目を覚ましてからずっと。

「無理だろ。どうしろと? 白旗上げるか?」

 通じるのならオーガストはそうしたい。人間は恐竜と戦うようにできていない。ボクシングはなんのために体重であんなに細かく分けられていると思っているんだ。三人足しても全く及ばないだろう。

 その提案にはエリオットも乗っかりたいが、リーダーとして冷静に考えても。

「言ってしまえばこちらからアイツの家の敷地内に邪魔をしてるわけだからな。ここまで来て『また会いましょう』って見逃してくれると思うか?」

 食糧を提供しているからチャンスは……ない。むしろもっと欲しいから追いかけてきているのもあるだろう。交渉術というものに理解があればいいが。

「戦う。そのほうが可能性ある。ミスったら死ぬ。でもま、それもいいかもね」

 どこか諦めにも近い声色のアデレイド。だが、どうせなら抗ってみる。風任せ。どうなってもそういう運命というのは受け入れる。

 三者三様で覚悟を決めた。逃げるのではなく、攻撃に移る。どうせ逃げられないのなら、勝つしかない。

 というわけでエリオットはその確率を少しでも高めるため、情報を集める。

「それでどう戦う手段がある? 異世界なら魔法とか。なにかそういうものは」

 魔法。あっさりとスカーレットに否定される。

《そんなものありません。と言いたいところですが、ドーピングならできます。この特殊で不安定な磁場では、磁界の変化で弱い電界が脳の中で生まれます。するとあら不思議、神経細胞が刺激され、あなたの想像の数倍は体が動いちゃうんですね》

 ここまでにも色々と恩恵はすでに受けているはずですよ? と、思い起こさせる。

 銃の反動、逃げるスピード、ところどころにヒントはあった。ドアも引いただけで壊れてしまったり。人間は肉体が壊れないように脳が力をセーブしている、というのは有名な話だが、そのブレーキをある程度緩める程度の、簡単に言えばパワーアップ。

 電気力学にそれに近いものがある、とエリオット。手を開いたり握ったりを繰り返し、感触を確かめる。

「『ファラデーの電磁誘導の法則』か。リハビリに応用されていると聞いたことがあるが、どうりで先ほどから」

 頭のてっぺんから爪先まで不思議な感覚。いつもより体が動く、というか、早く始動するような。本来の法則とはまた少し違うのだろうが、乱れた磁場がそうさせるのか。ドーピング。なるほど。ここでだけ使える魔法。
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