168 / 208
重々しく。
168話
しおりを挟む
だがいくつか腑に落ちないところがあるのは、ブランシュには事実。
「どうして私を鑑賞に?」
お近づきの印、なら嬉しい。音楽について話せる人なら尚更。しかし、疑り深くなってしまう。近くに似たような怪しい人がいるせいで。
「観たいってヤツがいてね。ひとりやふたり増えてもいいかなって。同じ寮なんだし、仲良くしとこうってこと。他にもいるなら連れてきていいし」
その答えは簡単。少女には特に裏もなく、ただ観るならどう? 程度。
これくらい自分にも積極性があれば……! と参考にしつつ、ブランシュはそれを受け入れる。
「……お願いします。もし、なにかヒントがあるのなら」
その言葉に少女はニヤリ、と口角を上げる。
「決まり。シアタールームに先に行っといて。すぐ行く」
とだけ残し、少女は退出。洗濯機だけが音を立てて役目を果たしている。
寮にはリラクゼーションとして、シアタールームが設置されている。とは言っても当然映画館のような立派な設備は、当初は存在しなかった。小さな部屋にスクリーンとプロジェクターがある程度。座席数も大きめのソファーが置かれているだけ。
だがブリコラージュと呼ばれるフランスの日曜大工は、賃貸でも壁を壊すほど本格的。女子寮でも改良を重ねた結果、壁の面ギリギリ、大きさの一六〇インチのスクリーン。音響を透過するタイプのもので、スクリーンから映画館でも使われているJBLのプロフェッショナルを使用。フロント・センター・ウーファーはスクリーン裏に設置。
サラウンドとバックスピーカーは壁に掛けて、トップスピーカーとプロジェクターは宙吊りに。壁には遮音層も作り、防音にも優れたグラスウールを充填することによりさらに一段上のシアターへ。ホームオートメーションにより、簡単に映画などが観ることができるようになった。
という本格的な仕様なのだが、映画を観るような友人がいなかったブランシュにとっては無縁。初めてのレイトショー。二重になったドアを開けると、スクリーンの明かりのみで薄暗いシアタールーム。入った瞬間に「わっ……」と感嘆した。
するとすでにひとり、先ほど言っていた人物がいる模様。ソファーの左端に座って上映開始を待っている。
「あの……失礼します……」
その背中に向けてブランシュは小さく挨拶。防音もあるのだから大きく言えばいいのだが、なんとなく映画館のような雰囲気なので、控えめに邪魔にならないように。
しかし、その人物が驚いたように振り向いた。
「ブランシュ……なんで……!」
「……イリナさん……!」
ピタリ、と止まるブランシュの足。ケンカなどをしたわけではないが、最近会っていなかった。一瞬、そのまま回って部屋から出ようかと考えたが、それだとなんとなく感じが悪くなってしまう。ゆっくりと歩を進めることにした。左端に座るイリナに対して、気まずい雰囲気を感じ、ブランシュは右端。
「どうして私を鑑賞に?」
お近づきの印、なら嬉しい。音楽について話せる人なら尚更。しかし、疑り深くなってしまう。近くに似たような怪しい人がいるせいで。
「観たいってヤツがいてね。ひとりやふたり増えてもいいかなって。同じ寮なんだし、仲良くしとこうってこと。他にもいるなら連れてきていいし」
その答えは簡単。少女には特に裏もなく、ただ観るならどう? 程度。
これくらい自分にも積極性があれば……! と参考にしつつ、ブランシュはそれを受け入れる。
「……お願いします。もし、なにかヒントがあるのなら」
その言葉に少女はニヤリ、と口角を上げる。
「決まり。シアタールームに先に行っといて。すぐ行く」
とだけ残し、少女は退出。洗濯機だけが音を立てて役目を果たしている。
寮にはリラクゼーションとして、シアタールームが設置されている。とは言っても当然映画館のような立派な設備は、当初は存在しなかった。小さな部屋にスクリーンとプロジェクターがある程度。座席数も大きめのソファーが置かれているだけ。
だがブリコラージュと呼ばれるフランスの日曜大工は、賃貸でも壁を壊すほど本格的。女子寮でも改良を重ねた結果、壁の面ギリギリ、大きさの一六〇インチのスクリーン。音響を透過するタイプのもので、スクリーンから映画館でも使われているJBLのプロフェッショナルを使用。フロント・センター・ウーファーはスクリーン裏に設置。
サラウンドとバックスピーカーは壁に掛けて、トップスピーカーとプロジェクターは宙吊りに。壁には遮音層も作り、防音にも優れたグラスウールを充填することによりさらに一段上のシアターへ。ホームオートメーションにより、簡単に映画などが観ることができるようになった。
という本格的な仕様なのだが、映画を観るような友人がいなかったブランシュにとっては無縁。初めてのレイトショー。二重になったドアを開けると、スクリーンの明かりのみで薄暗いシアタールーム。入った瞬間に「わっ……」と感嘆した。
するとすでにひとり、先ほど言っていた人物がいる模様。ソファーの左端に座って上映開始を待っている。
「あの……失礼します……」
その背中に向けてブランシュは小さく挨拶。防音もあるのだから大きく言えばいいのだが、なんとなく映画館のような雰囲気なので、控えめに邪魔にならないように。
しかし、その人物が驚いたように振り向いた。
「ブランシュ……なんで……!」
「……イリナさん……!」
ピタリ、と止まるブランシュの足。ケンカなどをしたわけではないが、最近会っていなかった。一瞬、そのまま回って部屋から出ようかと考えたが、それだとなんとなく感じが悪くなってしまう。ゆっくりと歩を進めることにした。左端に座るイリナに対して、気まずい雰囲気を感じ、ブランシュは右端。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる