Parfumésie 【パルフュメジー】

文字の大きさ
上 下
166 / 208
重々しく。

166話

しおりを挟む
 一瞬たじろいだブランシュだが、断る理由もないので流されるまま隣に。少し俯きながら口を開く。

「いや、まぁ……悩みというか、なんというか。答えが出ないというか」

 なんとも歯切れの悪い言い方だ、と自身を蔑む。せっかく話しをしてくれているのに。

 しかし気にせず少女は壁に寄りかかって話を続行。

「ふーん。まぁ、色々あるからね、人生。あんた、ヴァイオリンやってるんでしょ?」

 疑問、というよりは確信を持って質問。ピンポイントで。

「あ、はい。趣味で、ですけど。どこかでお聴きになったんですか?」

 色々なところで弾いてしまっているため、特に驚きはしないブランシュ。音楽科の人? という予想もつけておく。

 その問いには否定する少女。

「いや、見かけただけ。すれ違っただけ、のほうが正しいか」

 思い返したが、やはりほんの一瞬。覚えていないのも無理はないし、向こうは友人らしき人物と会話をしていた。

 忘れてしまっていたか、と冷や汗をかいていたブランシュは少し安堵。どれだけ遡っても思い出せずにいた。

「そうでしたか。弾いていると落ち着くんです。上手いとか下手とか。そういうのではなくて」

 今、手元にはないが、愛用のヴァイオリンは抱いて眠りたいくらいには、リラックス効果がある。ジャスミンティーくらい。

 音楽談義ができそう。少し少女は踏み込む。
 
「好きな作曲家は?」

「そう……ですね、やはりヴァイオンですから、サラサーテとか……」

 やはりヴァイオリンといえばこの人物。尊敬しかブランシュにはない。肩を並べようとか追いつこうとか、そういうのではない。ヴァイオリンというものの象徴のような。考えるだけで胸が熱くなる。

 脳内で『カルメン幻想曲』が流れる少女。結構上手いほう? と勝手に予想。

「ヴァイオリン以外だと?」

 自分はピアノ専門。どっちかというとそのほうが話を広げやすい。弾くわけじゃないけど。

 基本はブランシュはやはり、ヴァイオリンがメインとなる人物の曲を選ぶ。

「それ以外ですと……バルトークとか、グリンカとか……」

 だが、民族音楽なども好き。なんともいえない哀愁のような。彼らの開放感がたまらない。

 質問を続けていた少女だったが、ふと思い詰めたような表情に。唇に当てる指を変えたりと、落ち着かない様子。

「……『芸術とはもっとも美しい嘘である』」

 そして、言葉を発する。

 聞いたことがある、と反応するブランシュ。しかし、気になる点が。

「? ドビュッシーですか? ですがそれは——」

「そう。これは彼の名言として後世に語り継がれているが、実は彼が発した言葉だという記述はどこにもない。まさに美しい嘘、ってことなのかもね」

 はー、とため息を吐きながら、少女は伸びてストレッチをする。洗濯機の音が、静寂を破るように室内に響いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

処理中です...