141 / 208
重々しく。
141話
しおりを挟む
そこへブランシュが追加の補足。
「持ち方なんかもクラシックは暗黙の了解のように型がありますが、フィドルは低く持ったり、弓の持ち方も個性が出たりします。ヴァイオリンは歌う、フィドルは踊る、とも言われますね。同じようですが、違う部分もある、くらいですね」
さらに言えばチューニングも若干違う。ヴァイオリン奏者がフィドルを試弾すると、弦を切ってしまうことが多々あるぐらいだ。
「へぇ……私はサンドリーヌ・ブロクディス。よし、じゃあやろうか。『ジョン・ライアンズ・ポルカ』、いける?」
若いのにしっかりと勉強している、と感心するサンドリーヌ。こういう飛び入り参加があるのも、大道芸の面白いところ。腕前は二の次。楽しいかどうか。
歓迎されたブランシュだが、外でも弾ける喜びでケースを開こうとして、戸惑い、そして……やめてしまう。迎え入れてくれたことに感謝しつつも、息が苦しい。本当のことを伝えねば。
「……私は、ブランシュ・カローといいます……ですがすみません。その前に、私は許可証を持っていませんので、申し訳ありませんが——」
「大丈夫、俺達も持っていない。来たら逃げるよ」
そう誇らしげに言い放ったのは、ブズーキ担当の男性ティロ・ジューレ。洋梨を半分に割った、と言われる形の、ギターのような弦楽器。抱えて走るのはあまり邪魔にならない。満面の笑みもセット。
「……」
達、ということは全員……? そのままの体勢で数秒間フリーズするブランシュ。ニコルと同じ考えの人しかいない。
交通局員が来た際の逃げる方向を決めつつ、ティンホイッスル担当のアンソニー・セギルは、二人になったヴァイオリンの役割も分担する。
「じゃ、メインとセカンドはどうする? せっかくだしメインやる?」
彼らは同じ大学で学んだのち、それぞれ就職をしたが、こうしてたまに集まっては音楽を楽しむ。若干の犯罪行為も混じってはいるが、オーディションに落ちたのだからこうするしかない。さらに他にも、ボドラン担当のリュカ・マニャンという人物がいるそうだが、今日は仕事でお休み。
「……はい」
ブランシュも学園の生徒であることを明かし、多少の情報交換をしたところで、準備は完了。脳内で曲を鳴らす。
お膳立てをしつつも、脈打つ心臓を押さえるニコル。ダメだったらどうしよう、という考えは今降りてきた。結果オーライ。
「なはは。ノリのいい人達でよかったねぇ」
屋内で外よりマシとはいえ、肌寒い空気にも関わらず冷や汗が流れ落ちてきた。せっかくあの子を呼んだのに。
「持ち方なんかもクラシックは暗黙の了解のように型がありますが、フィドルは低く持ったり、弓の持ち方も個性が出たりします。ヴァイオリンは歌う、フィドルは踊る、とも言われますね。同じようですが、違う部分もある、くらいですね」
さらに言えばチューニングも若干違う。ヴァイオリン奏者がフィドルを試弾すると、弦を切ってしまうことが多々あるぐらいだ。
「へぇ……私はサンドリーヌ・ブロクディス。よし、じゃあやろうか。『ジョン・ライアンズ・ポルカ』、いける?」
若いのにしっかりと勉強している、と感心するサンドリーヌ。こういう飛び入り参加があるのも、大道芸の面白いところ。腕前は二の次。楽しいかどうか。
歓迎されたブランシュだが、外でも弾ける喜びでケースを開こうとして、戸惑い、そして……やめてしまう。迎え入れてくれたことに感謝しつつも、息が苦しい。本当のことを伝えねば。
「……私は、ブランシュ・カローといいます……ですがすみません。その前に、私は許可証を持っていませんので、申し訳ありませんが——」
「大丈夫、俺達も持っていない。来たら逃げるよ」
そう誇らしげに言い放ったのは、ブズーキ担当の男性ティロ・ジューレ。洋梨を半分に割った、と言われる形の、ギターのような弦楽器。抱えて走るのはあまり邪魔にならない。満面の笑みもセット。
「……」
達、ということは全員……? そのままの体勢で数秒間フリーズするブランシュ。ニコルと同じ考えの人しかいない。
交通局員が来た際の逃げる方向を決めつつ、ティンホイッスル担当のアンソニー・セギルは、二人になったヴァイオリンの役割も分担する。
「じゃ、メインとセカンドはどうする? せっかくだしメインやる?」
彼らは同じ大学で学んだのち、それぞれ就職をしたが、こうしてたまに集まっては音楽を楽しむ。若干の犯罪行為も混じってはいるが、オーディションに落ちたのだからこうするしかない。さらに他にも、ボドラン担当のリュカ・マニャンという人物がいるそうだが、今日は仕事でお休み。
「……はい」
ブランシュも学園の生徒であることを明かし、多少の情報交換をしたところで、準備は完了。脳内で曲を鳴らす。
お膳立てをしつつも、脈打つ心臓を押さえるニコル。ダメだったらどうしよう、という考えは今降りてきた。結果オーライ。
「なはは。ノリのいい人達でよかったねぇ」
屋内で外よりマシとはいえ、肌寒い空気にも関わらず冷や汗が流れ落ちてきた。せっかくあの子を呼んだのに。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
王太子さま、側室さまがご懐妊です
家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。
愛する彼女を妃としたい王太子。
本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。
そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。
あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる