Parfumésie 【パルフュメジー】

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重々しく。

117話

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 ジグジグ

 ジグジグ

 死神が

 やってくる




 一一月も二週目となると、一気に冷え込んでくるのがパリ。雨が多く、晴れても乾燥。寒さもいきなり厳しくなるが、それがクリスマスマーケットの開始のカウントダウンでもあるかのように、少しずつ人々も熱を帯び始める。そわそわと逸る気持ちを抑え、もうすぐ始まるその時を待つ。

「別に本番でちゃちゃっとやっちゃえばいいんじゃないの? 曲自体は弾けるんでしょ?」

 夕方。学校は終わり寮では自由時間となる。どこか二人で買い物にでも出かけようか、と相談しているときに、ベッドで寝転ぶニコルが、ランチタイムの話を再度持ち出した。口ぶりからすると、弾けないことに悩んでいる、というよりも、どう弾くかで唸っているような気がする。

 気楽に考えている妹に対し、姉であるブランシュは、イスに座りエスプレッソをひと口。そして強く否定する。

「そうはいきません。ヴィズさんの今後が関わってくるわけですから。私が台無しにするわけにはいかないんです」

「もういっそ、ヴァイオリンの協奏曲とかやっちゃえば?」

 ケラケラと笑いながら、冗談混じりにニコルは提案する。ヴィズには悪いが、手柄は総取りもやむなし。リサイタルはアルバイト代入るのか交渉しよう。

 だが、深刻な面持ちでブランシュは考え込みながら、立ち上がって室内をぐるぐるとゆっくり歩き回る。

「……少し話題は逸れますが、バッハの協奏曲はどうしてもヴァイオリンに行き着いてしまうんです」

 困りました、とギブアップ寸前の心境。正直、憂鬱に近い。理由はわかっている。

 いつも楽しそうにヴァイオリンを弾くブランシュを知っているニコルからしたら、少々腑に落ちない景色。弾く前から覇気がない。

「どういうこと?」

 そんな聴衆の前でやるのが嫌なのか、と予想を立てる。なんだか自身もむずむずしてきた。気持ちまでリンクしてきたか。

 足を止めたブランシュが、丁寧にその理由を述べる。

「以前も少しお話ししたかと思うのですが、バッハの時代にピアノはないんです。チェンバロという、ピアノの前身のようなもので演奏されていましたし、彼自身もオルガンなどを弾いていました」

 リサイタルにて演奏するのはバッハの『ピアノ協奏曲 第一番 ニ短調』。元はといえばチェンバロ協奏曲であったが、時代の変化によりピアノ協奏曲へと編曲され、今に至る名作中の名作。現存するバッハの協奏曲は旧作のリメイク、もしくはヴィヴァルディの協奏曲をヒントに書かれたもの。オリジナルではない。

「それとヴァイオリンと、どんな関係が?」

 ニコルの考えとしては、ピアノ協奏曲と言っている以上、ピアノがメインなのでは、ということ。ヴァイオリンがメインならばヴァイオリン協奏曲にすればいい。辻褄が合わない。
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