Parfumésie 【パルフュメジー】

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自由な速さで。

112話

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 ブランシュ達が演奏をする舞台。三六〇度客席ではあるが、舞台の背面は反響の木材が湾曲して形作られており、横には左右一つずつ、搬入や演奏者の入場のための出入り口がある。

 その上部、演奏者からは死角となる二階。柱の影に隠れながら、演奏を聴いていた者が二人いる。ひとりはベアトリス・ブーケ。もうひとりは調香師ギャスパー・タルマ。

「いい演奏だ。よく見つけてきた」

 その口ぶりとは真逆に、非常につまらなそうな表情のベアトリスは、ギャスパーに声をかけた。ピアノ、自分が推薦しておいてなんだが、しっかりと仕上げてしまっていて、それはそれで面白くない。

「見つけたんじゃないよ、最初から知ってた。ていうか、こんなとこじゃなくて普通に聴かせてもらえばいいのに。で、どう?」

 演奏に満足しながら、ギャスパーは頷いた。そして、ベアトリスに感想を求める。

 柱に寄りかかり、脱力しながら答えるベアトリス。「ふぅ」と、ひとつため息。

「さっきも言ったろ。悪くない。まぁ、まだ甘いところはあるが」

 八〇点というところだな、と、厳しいのか高得点なのか絶妙なラインでベアトリスは評価。実際、指揮者がいないにしてはいい演奏だ。まとまっている。まぁ、本来の形ではない。もっと輝けるはず。そういう期待も込めて。

 その点数にギャスパーは意外にも満足した。予想以上、と内側から喜びが滲み出す。

「キミにいつか認めさせたいね」

 伸びしろがあればあるほどいい。楽しみが増える。むしろ、一〇〇点を取ってしまったら、残念な気持ちになっていたかもしれない。よかった、と胸を撫で下ろす。

「で。その手にあるのは? そろそろ聞いていいか?」

 そうベアトリスが見つめるのは、ギャスパーの右手。そこにはヴァイオリンケース。

「気になる?」

 少し持ち上げて、ギャスパーはベアトリスの興味を惹こうとする。しかし。

「ならない。帰る」

 もう役割は終わった。収穫もあったし、これ以上ここにいる必要もない。爺さんのしょうもない道楽に、付き合う理由もない。そう割り切り、ベアトリスは帰ろうとする。

 が、慌ててギャスパーは道を塞いだ。

「いや、気にしてよ。ドイツから急いで戻ってきたんだから」

 冗談の通じない子だな、と肩をすくめる。弟くんは真面目で礼儀正しいのに、なぜ姉はこんなにひねくれているんだ? と、本人には言えないことを内心思う。
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