Parfumésie 【パルフュメジー】

文字の大きさ
上 下
66 / 208
自由な速さで。

66話

しおりを挟む
そのため、見知らぬ観光客同士で情報交換したり、そのまま一緒に酒を飲みに行く、などもよくあるのだ。

(地図によると、このへんにロッシーニの墓があるそうですが……)

 墓地の入り口では、地図を無料で配布している。そこには主要な有名人の墓の位置が区画で記されており、お目当てのビゼーやエネスコは六六、七付近。その道すがらには、イタリアの作曲家ロッシーニの墓があるようだ。せっかくなので、花を供えたりはしないが、通りがかるだけ、通ってみたい。なんせあの有名な『セビリアの理髪店』の作曲家だ。初の作曲家の墓に、不謹慎ながら、ブランシュは心躍る。

「あれが、ロッシーニの墓……」

 一際大きく鎮座し、建物の入り口のような外見をしているロッシーニの墓。赤褐色の扉の網目には多数の花が刺さっており、上部には大きく名前が書いてある。とはいえ、イタリア人の彼なので、この場所には亡骸はない。フィレンツェにすでに移されていて、今は主人のいない墓となっている。

 その傍らでは、おそらくフランス人ではないであろう人々も多数おり、「ロッシーニ……」「おぉ、ロッシーニ……」と呟きながら写真を撮る。きっと、フィレンツェのサンタ・クローチェ教会でも同じことをやっているのだろう。

 続いては、フランスの作曲家プーランクの墓も途中にあるらしい。先を行くニコルの背を追いかけながら、キョロキョロと辺りを見回す。するとロッシーニ同様、石造りの建物のような墓石で、扉は暗緑色。この時期、墓を建物のようにするのは流行っていたのだろうか? こちらは誰も今はいないようだが、扉にやはり花が刺さっている。大きさはさほどではないため、気づかない人もいるのではないだろうか。

「これがフランス六人組のプーランク……」

 芸術家達と交流し、ルイ・デュレらと作曲家集団を作り上げた、希代の作曲家。軽快な楽しい音楽を追求。そしてなにより、驚くべきなのが——

「ほぼ独学で自身の音楽を創りあげた、エスプリの作曲家、だよね」

「!」

 背後から、ブランシュの耳元で囁く声。反射的に振り向くと、長身の女性。否、彼女が長身なのではない、彼女が背負うものが大きい。そして、手にはピンクの菊の鉢植え。

「あの、なにか……?」

 怯えるような表情で、ブランシュは防御の姿勢を取る。袋に入った菊の花が大きく揺れる。スリか? いや、だとしたら声などかけない。

 鉢植えを持った女性が、一歩ブランシュに近づく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

処理中です...