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歩くような早さで。
50話
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(失礼ですが……イリナさんは豪快なピアノを想像していたのですが……繊細で美しい。特にピアニシモの美しさはため息が出るほどです……すごい)
だからこそ、激しい感情を表現するフレーズとの対比がより際立つ。
「どうよ!?」
最後もしっとりと歌い上げ、会心の出来とばかりに、ブランシュに詰め寄る。
「すごく、弾きやすかったです!特にピアニシモが綺麗で、感情が揺さぶられる、ような……!」
正直なブランシュの感想だった。対比がしっかりとしているため、ヴァイオリンとしても合わせやすく、第二楽章も間違いなく今までで一番の出来であった。
「でしょー? で、どうだった?」
「……」
目線を落とし、無言で答える。
「くぉー!つぁー!」
悔しそうにイリナは地面を何度も叩いた。バナナでも生まれてきそうだ。叩きつつも、案外ブラームス面白いかも、と手応えを感じた。
「叫ぶのはやめなさいって。よく響くんだから」
呆れ顔でヴィズが静止する。だが気持ちはわかる。ブランシュとの演奏は、なにか自分の中の引き出しが追加されるような、不思議な感覚になる。『熊蜂の飛行』の時から気になっていた。
「最後、私。本命でしょ」
第三楽章の担当はカルメン。第三楽章は歌曲『雨の歌』から始まり、淡々と続くメロディーから唐突に第二楽章のメロディーが乱入してくる。しかしすぐに失速するなど、感情の振れ幅が大きい難所でもある。無機質な表情でイスに座り、「いつでもいいよ」とブランシュに合図する。
先ほどと同様、ブランシュはミドルの香りを消し、ラストを塗布。安らかな香りに包まれ、第三楽章が始まる。
(カルメンさんは……イリナさんとは逆、フォルテシモの力強さ。本当の雨の雫のよう……優しく、冷たい雨)
ベートーヴェンが好きといっていたが、ブランシュは納得する。ウナコルダペダル、通称・弱音ペダルの使い方が上手い。あまり使われないペダルだが、彼の『ハンマークラヴィーア』などにも登場するウナコルダペダル、ただ音を弱めるだけのペダルではない。弱めることで柔らかさをプラスすることができる。ただ、非常に繊細な調整が必要で、音楽院の講師レベルでも、使いこなせていない人がいるほどだ。
そして、程なくしてブランシュは気づく。
(……え……?)
弾き始めてからすぐに違和感を感じていた。弾きづらいといった類のものではなく、むしろ……
「なんだ? なんか今……」
ヴァイオリンの音が飛んだ。しかし一瞬で持ち直したところに、イリナが気づく。
当のブランシュは、弾き続けながらも脳内で事実を確認する。
(間違いない、今、クララが見えた……!でもなぜ……カルメンさんの演奏はお二人とどう……?)
だからこそ、激しい感情を表現するフレーズとの対比がより際立つ。
「どうよ!?」
最後もしっとりと歌い上げ、会心の出来とばかりに、ブランシュに詰め寄る。
「すごく、弾きやすかったです!特にピアニシモが綺麗で、感情が揺さぶられる、ような……!」
正直なブランシュの感想だった。対比がしっかりとしているため、ヴァイオリンとしても合わせやすく、第二楽章も間違いなく今までで一番の出来であった。
「でしょー? で、どうだった?」
「……」
目線を落とし、無言で答える。
「くぉー!つぁー!」
悔しそうにイリナは地面を何度も叩いた。バナナでも生まれてきそうだ。叩きつつも、案外ブラームス面白いかも、と手応えを感じた。
「叫ぶのはやめなさいって。よく響くんだから」
呆れ顔でヴィズが静止する。だが気持ちはわかる。ブランシュとの演奏は、なにか自分の中の引き出しが追加されるような、不思議な感覚になる。『熊蜂の飛行』の時から気になっていた。
「最後、私。本命でしょ」
第三楽章の担当はカルメン。第三楽章は歌曲『雨の歌』から始まり、淡々と続くメロディーから唐突に第二楽章のメロディーが乱入してくる。しかしすぐに失速するなど、感情の振れ幅が大きい難所でもある。無機質な表情でイスに座り、「いつでもいいよ」とブランシュに合図する。
先ほどと同様、ブランシュはミドルの香りを消し、ラストを塗布。安らかな香りに包まれ、第三楽章が始まる。
(カルメンさんは……イリナさんとは逆、フォルテシモの力強さ。本当の雨の雫のよう……優しく、冷たい雨)
ベートーヴェンが好きといっていたが、ブランシュは納得する。ウナコルダペダル、通称・弱音ペダルの使い方が上手い。あまり使われないペダルだが、彼の『ハンマークラヴィーア』などにも登場するウナコルダペダル、ただ音を弱めるだけのペダルではない。弱めることで柔らかさをプラスすることができる。ただ、非常に繊細な調整が必要で、音楽院の講師レベルでも、使いこなせていない人がいるほどだ。
そして、程なくしてブランシュは気づく。
(……え……?)
弾き始めてからすぐに違和感を感じていた。弾きづらいといった類のものではなく、むしろ……
「なんだ? なんか今……」
ヴァイオリンの音が飛んだ。しかし一瞬で持ち直したところに、イリナが気づく。
当のブランシュは、弾き続けながらも脳内で事実を確認する。
(間違いない、今、クララが見えた……!でもなぜ……カルメンさんの演奏はお二人とどう……?)
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