Parfumésie 【パルフュメジー】

文字の大きさ
上 下
50 / 208
歩くような早さで。

50話

しおりを挟む
(失礼ですが……イリナさんは豪快なピアノを想像していたのですが……繊細で美しい。特にピアニシモの美しさはため息が出るほどです……すごい)

 だからこそ、激しい感情を表現するフレーズとの対比がより際立つ。

「どうよ!?」

 最後もしっとりと歌い上げ、会心の出来とばかりに、ブランシュに詰め寄る。

「すごく、弾きやすかったです!特にピアニシモが綺麗で、感情が揺さぶられる、ような……!」

 正直なブランシュの感想だった。対比がしっかりとしているため、ヴァイオリンとしても合わせやすく、第二楽章も間違いなく今までで一番の出来であった。

「でしょー? で、どうだった?」

「……」

 目線を落とし、無言で答える。

「くぉー!つぁー!」

 悔しそうにイリナは地面を何度も叩いた。バナナでも生まれてきそうだ。叩きつつも、案外ブラームス面白いかも、と手応えを感じた。

「叫ぶのはやめなさいって。よく響くんだから」

 呆れ顔でヴィズが静止する。だが気持ちはわかる。ブランシュとの演奏は、なにか自分の中の引き出しが追加されるような、不思議な感覚になる。『熊蜂の飛行』の時から気になっていた。

「最後、私。本命でしょ」

 第三楽章の担当はカルメン。第三楽章は歌曲『雨の歌』から始まり、淡々と続くメロディーから唐突に第二楽章のメロディーが乱入してくる。しかしすぐに失速するなど、感情の振れ幅が大きい難所でもある。無機質な表情でイスに座り、「いつでもいいよ」とブランシュに合図する。

 先ほどと同様、ブランシュはミドルの香りを消し、ラストを塗布。安らかな香りに包まれ、第三楽章が始まる。

(カルメンさんは……イリナさんとは逆、フォルテシモの力強さ。本当の雨の雫のよう……優しく、冷たい雨)

 ベートーヴェンが好きといっていたが、ブランシュは納得する。ウナコルダペダル、通称・弱音ペダルの使い方が上手い。あまり使われないペダルだが、彼の『ハンマークラヴィーア』などにも登場するウナコルダペダル、ただ音を弱めるだけのペダルではない。弱めることで柔らかさをプラスすることができる。ただ、非常に繊細な調整が必要で、音楽院の講師レベルでも、使いこなせていない人がいるほどだ。

 そして、程なくしてブランシュは気づく。

(……え……?)

 弾き始めてからすぐに違和感を感じていた。弾きづらいといった類のものではなく、むしろ……

「なんだ? なんか今……」

 ヴァイオリンの音が飛んだ。しかし一瞬で持ち直したところに、イリナが気づく。

 当のブランシュは、弾き続けながらも脳内で事実を確認する。

(間違いない、今、クララが見えた……!でもなぜ……カルメンさんの演奏はお二人とどう……?)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

処理中です...