Parfumésie 【パルフュメジー】

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歩くような早さで。

36話

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 安心したのか、いつも通り下段のベッドにゴロゴロとニコルは寝転び出す。もはや自分の定位置だと言わんばかりである。

「まぁ、私達は参考程度だからね。気楽に気楽に」

 足をバタバタさせながら、いつの間にか台所に隠してあったピエログルマンのグミを食べている。一応ベッドの上ということで、こぼれるものは控えているらしい。

 毎度のことなので、ブランシュはもう気にしていない。どうせクローゼットに隠してあるお菓子もバレているだろう。話を続ける。

「とはいえ、私なりの『雨の歌』がギャスパー氏にどれだけ通用するか……知っておきたいです」

 そう言うと、テーブルの上に一〇種類のアトマイザー、空のロールオンアトマイザーを四つ、かき混ぜるためのスパティラ四つ、スポイト、ムエット、小さなビーカーを四つ、無水エタノール、ホホバオイル。

「なんで四つあるの? 一個あればよくない?」

 思ったより量のある道具にニコルは違和感を感じた。混ぜて詰めるだけなら、こんなにいらないだろう。

「香水や香油はミドルやラストのノートに移るまで時間がかかりますから。嗅いでイメージして弾くのだと、待たなければいけないため時間がかかりすぎます。なら、混ぜたもの以外に、トップとミドルとラストをそれぞれ別に作って嗅いだ方がいいでしょう」

 そのための四つです、とブランシュは準備を進めながら答える。ちなみに元々テーブルに置いてあった一〇種の課題のアトマイザーは、瓶吊り結びで縛った後、壁側に吊るしてある。

「なるほどねー。ま、何時間も待ってられないわ」

 こんなことするのって私達だけだろうね、とニコルも納得した。

 ホホバオイルの入ったビーカーに、ブランシュは精油を加えていく。作業開始。

「まずはトップ。アマルフィレモンとメープルを三滴ずつ。ミドルにはスターアニスとローズウッドを二滴と、スティラックスとフェヌグリークを三滴ずつ」

 手慣れた手つきで混ぜ合わせていく。故郷では何度もやったこと。予定とはかなり変わってしまったが、パリに来て初めての調合だ。胸が高鳴る。もちろん失敗もあるが、成功した時は何よりも達成感と喜びが大きい。半分の量でホホバオイルとトップのみ、ミドルのみも作る。

 聞いたことない単語が何個か連続したが、ニコルは凝視している。レモンとメープルはわかったが、あとはわからない。ローズってことはバラ?

「うん、全然わかんないけど嗅いでいい? そのまま嗅いでいいの?」

 まだ混ぜてもいないビーカーだが、どうなっているのか気になったニコルは持ってみる。爆発とかしないよね? 今までの恨みとかで。

「いえ、こちらのムエットという紙を使ってください。濡れても曲がらない特殊な紙です」

 ブランシュから差し出された細長い紙を、トップのみの香油につける。そして浸した紙を鼻先へ。香りが鼻腔を通り脳へ伝達される。
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