Parfumésie 【パルフュメジー】

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歩くような早さで。

30話

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 二日後の火曜日。

 学校も終わり、自室にてブランシュとニコルが作戦会議を開く。作戦といっても、今日のお昼のタイミングでヴィズから得た情報を持ち帰り、今後について話し合う。ニコルは前日どこかに行っていていなかったこともあり、今日は一日寝ていたようだ。夕方の今ですら、ゆらゆらと揺れて寝る一歩手前にいる。

「ヴィズさんが他のピアノ専攻やヴァイオリン専攻の人達に聞いてくれたそうなのですが、『雨の歌』を香りで表現すると、草の香りやショコラショーの香り、白檀の香りなど様々だったそうです」

 結果を紙にメモ書きして持ってきてくれた。まさかそこまでやってくれるとは思っていなかったため、深くブランシュは感謝し、リサイタルは絶対に失敗できない、と心に誓った。

「ありがたやー。で、白檀? って聞いたことあるけどなんだっけそれ」

 目を瞑りながら横に縦にとニコルの頭が動く。まだ脳が正常に作動していないらしい。していても知っているかどうかは別だが。

「別名サンダルウッドとも言われる、インドなどでは寺院で瞑想なんかにも使われる、精神を落ち着かせる香りです。香水にもよく使われています」

 と、一応サンプルの同じ香りは用意してある。シングルノートとして、アトマイザーが手元に一本。選曲用に使うこともあるものだが、実は底の部分に小さく名前が貼り付けてある。それで確認。

 空気中にワンプッシュしてニコルは香りを嗅ぐ。うん、いい香り。という感想しか出てこない。

「ヒントになりそうなものはないかぁ。せめてトップだけでもわかればよかったんだけど」

 またベッドに突っ伏して、目を瞑る。白檀の優しい香りも相まって、もう一度寝そうになる。インド、インドかぁ……とあんまりインドの情報を持っていないことに気づいた。

 いえ、と得意げにブランシュは否定した。

「そんなことないですよ。収穫はありました」

「ん? どんなー?」

 眠気が勝っていることもあり、欠伸しながら間伸びした声で問う。インドには象がいるなぁ、とまだそこで立ち止まっている。

 気にせずブランシュは会話を進める。ベッドに密着するようにイスを移動する。

「まずは我々はブラームスに囚われすぎていたということ。もっと自由に『雨の歌』を聴いた時の気持ちを香りにするべきだと思います」

「ブラームスの『雨の歌』じゃなくていいってこと?」

 やっとニコルが話にまともに絡んできた。上半身をベッドから乗り出し、イスに座るブランシュに顔を近づける。「近いです」と冷静にいなされるが、「この子、まつ毛長いなー」とどうでもいいことを考えている。
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