168 / 220
蜂蜜と毒。
168話
しおりを挟む
未だ共用の廊下に立ち尽くす二人を見やり、アニーは招き入れる。
「で、なんの用っスか? とりあえず、あがります?」
新しい紅茶も手に入ったことだし。みんなでティーパーティーしましょう。
「ありがとう。じゃあ……」
その提案にシシーは乗るが、背後のユリアーネに話を振る。
予定していた通り、自分の役割はここまで。なんとなく、アニーの顔を見たら悩みなど少し遠くまで行ってしまった。ユリアーネは安心して職場に向かえる。
「私はこれからお店に行きますので。ではアニーさん、また明日です」
明日になればまた会える。そのために今日、働く。なにを呻吟していたのだろう。アニーさんはそのままの彼女だった。
躊躇いつつ、アニーはひとつお願いをする。瞬きが増え、少し緊張。
「……今夜、ユリアーネさんの家に行きます。行っていいですか?」
特になにか用があるわけではないけど。たぶん夜、会いたくなるだろうと予測。
会える予定が早まったが、ユリアーネも問題はない。お腹の底のほうから嬉しさが滲んでくる。
「……はい、大丈夫です。では、のちほど。シシーさんも、失礼します」
ニヤけてしまう前に退散しよう。いつでも冷静に。オーナーなのだから。
「うん、今日はごめんね。それとありがとう、じゃあまた」
手を振って、窓から光が差し込む木質フローリングを、力強く歩いていくユリアーネを見送るシシー。やはり面白い子だ。さて、次に移ろう。
「で、どういうことっスか? あ、茶葉はありがたいですけど」
笑顔は崩さず、アニーは牽制の言葉を投げかける。様々な意味を込めた一撃。
ドアをゆっくりと閉めつつ、数瞬溜めてからシシーは振り返る。真っ直ぐにアニーを見つめる。
「なにがだい? 信用されていないね、俺も」
なにも隠していないよ、と両手を広げるアピール。カバンを右手に持っているだけ。
スン、と呼吸をするアニー。そこから読み取れるもの。
「嘘はボクには通じないんスよ。匂いでわかります、以前お会いした時から、嘘の匂いがするんです。なにかを隠しているような。あ、土足厳禁なんで、そこのスリッパ使ってください」
とりあえず思いつく限り、今言えることを先に伝えておく。来客用のスリッパ。ユリアーネのものの隣に置いてある。ドイツでは基本的には土足文化なので、玄関にちゃんとした、靴を脱ぐ場所はない。なので、大体で境目を作っている。
この家のルールに則って、初めて家に上がるのにスリッパを履くシシー。ルームシューズより暖かい。そんな感想を抱きつつ、頭ひとつぶん小さいアニーに近づいて見下ろす。
「それは当然隠すことくらいあるだろう? キミは俺のファーストキスがいつとか、そんなどうでもいいこと知りたいのかい?」
「で、なんの用っスか? とりあえず、あがります?」
新しい紅茶も手に入ったことだし。みんなでティーパーティーしましょう。
「ありがとう。じゃあ……」
その提案にシシーは乗るが、背後のユリアーネに話を振る。
予定していた通り、自分の役割はここまで。なんとなく、アニーの顔を見たら悩みなど少し遠くまで行ってしまった。ユリアーネは安心して職場に向かえる。
「私はこれからお店に行きますので。ではアニーさん、また明日です」
明日になればまた会える。そのために今日、働く。なにを呻吟していたのだろう。アニーさんはそのままの彼女だった。
躊躇いつつ、アニーはひとつお願いをする。瞬きが増え、少し緊張。
「……今夜、ユリアーネさんの家に行きます。行っていいですか?」
特になにか用があるわけではないけど。たぶん夜、会いたくなるだろうと予測。
会える予定が早まったが、ユリアーネも問題はない。お腹の底のほうから嬉しさが滲んでくる。
「……はい、大丈夫です。では、のちほど。シシーさんも、失礼します」
ニヤけてしまう前に退散しよう。いつでも冷静に。オーナーなのだから。
「うん、今日はごめんね。それとありがとう、じゃあまた」
手を振って、窓から光が差し込む木質フローリングを、力強く歩いていくユリアーネを見送るシシー。やはり面白い子だ。さて、次に移ろう。
「で、どういうことっスか? あ、茶葉はありがたいですけど」
笑顔は崩さず、アニーは牽制の言葉を投げかける。様々な意味を込めた一撃。
ドアをゆっくりと閉めつつ、数瞬溜めてからシシーは振り返る。真っ直ぐにアニーを見つめる。
「なにがだい? 信用されていないね、俺も」
なにも隠していないよ、と両手を広げるアピール。カバンを右手に持っているだけ。
スン、と呼吸をするアニー。そこから読み取れるもの。
「嘘はボクには通じないんスよ。匂いでわかります、以前お会いした時から、嘘の匂いがするんです。なにかを隠しているような。あ、土足厳禁なんで、そこのスリッパ使ってください」
とりあえず思いつく限り、今言えることを先に伝えておく。来客用のスリッパ。ユリアーネのものの隣に置いてある。ドイツでは基本的には土足文化なので、玄関にちゃんとした、靴を脱ぐ場所はない。なので、大体で境目を作っている。
この家のルールに則って、初めて家に上がるのにスリッパを履くシシー。ルームシューズより暖かい。そんな感想を抱きつつ、頭ひとつぶん小さいアニーに近づいて見下ろす。
「それは当然隠すことくらいあるだろう? キミは俺のファーストキスがいつとか、そんなどうでもいいこと知りたいのかい?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる